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  • マクラーレンF1 2027年型でショートホイールベース廃止 ピアストリ苦戦で方針転換

    マクラーレンF1 2027年型でショートホイールベース廃止 ピアストリ苦戦で方針転換

    マクラーレンは、2027年F1マシンでホイールベースを延長する方針を明らかにした。2026年型MCL40では軽量化を狙って規則上限より短いホイールベースを採用したが、来季はより上限に近い車体寸法へと設計思想を転換する。

    エンジニアリングディレクターのニール・ホールディによれば、短いホイールベースは最低重量への対応という明確な目的を持って採用されたものだった。

    一方、今季のMCL40ではグリップ面が課題となり、特にオスカー・ピアストリはチームメイトのランド・ノリスほどマシンの特性を引き出せずにいる。マクラーレンは開発を通じて軽量化を進めたことで、2027年には車体を長くし、フロア下面の空力開発により大きな自由度を持たせる方向へ進む。

    MCL40で採用した短いホイールベース
    2026年のF1技術規則では、従来のグラウンドエフェクト時代と比較してマシンの機敏さが重視され、車体寸法も変更された。マクラーレンはその新しい規則に対し、許容される最大寸法までホイールベースを伸ばすのではなく、よりコンパクトなMCL40を設計した。

    ホールディは、この判断の大きな理由が重量だったと説明する。

    「マシンを短くしたのは、その方が軽くなるからだ。重量規則への対応が非常に、非常に大きなチャレンジになることは分かっていた」

    「それによって良いスタートを切ることができ、ほかの領域にパフォーマンスを投資することができた」

    F1マシンでは、わずかな性能向上を追求するための新しい部品や構造が重量増につながることがある。そのため設計段階で重量に余裕を作ることは、その後の開発自由度を確保するうえで重要となる。

    「ほんのわずかなパフォーマンス向上を狙う場合でも、あちこちで少しずつ重量が増えることがよくある。だから早い段階でその重量を節約できたことで、その一部をパフォーマンスのために使うことができた」

    「そしてマシンを開発していくなかで、さらに重量を削ることもできた」

    つまり短いホイールベースは単純な失敗ではなく、2026年規則への対応においてマクラーレンが意図的に選択したトレードオフだった。

    ピアストリが苦戦したMCL40のグリップ特性
    一方、MCL40はシーズン前半を通じてグリップ面に課題を抱えてきた。

    2025年には最終戦アブダビGPまでF1ワールドチャンピオン争いを繰り広げたピアストリだが、2026年は前年ほど安定してパフォーマンスを発揮できていない。

    メルセデスがシーズン序盤から高い競争力を発揮していることも成績に影響しているが、同じMCL40をドライブするノリスと比較しても、ピアストリがマシンの特性への適応に苦しんでいることは今季の課題のひとつとなっている。

    短いホイールベースは車体の軽量化や機敏さというメリットをもたらす一方、空力開発に使用できる車体下面の面積は小さくなる。マクラーレンは開発を進めるなかで、この部分にさらなるパフォーマンスを引き出せる可能性を見いだした。

    2027年はホイールベースを延長
    ホールディは、2027年型マシンではMCL40よりもホイールベースを長くすることを明言した。

    「来年については、最終的にもっと長いマシンになる。空力的に見れば、そうすることでアンダーボディに使える面積をわずかに大きくできるからだ」

    「アンダーボディの開発をさらに進めていくなかで、それをうまく扱えるようになってきている」

    マシンを長くすれば単純に性能が向上するわけではなく、重量や機敏性とのトレードオフが発生する。しかしMCL40の開発によってさらなる軽量化を実現したことで、マクラーレンは2027年型では車体寸法を拡大する余地を得たことになる。

    ホールディは、2026年型を設計した当初の判断についても説明している。

    「当初は、マシンを短くしてもラップタイムという点で大きなペナルティにはならないように見えていた」

    この発言からも、マクラーレンが2026年のコンセプトを全面的な失敗と捉えているわけではないことが分かる。当初は重量面のメリットを優先したものの、実際の開発を通じて空力面でより大きな可能性を見いだし、2027年に向けてバランスを変えるという判断だ。

    「短さ」からフロア開発の余地を重視する方向へ
    2026年型MCL40の短いホイールベースは、最低重量への対応という明確な狙いから生まれた。しかしシーズンを通じた開発で軽量化が進んだことで、マクラーレンはそのメリットを維持する必要性が薄れつつある。

    その一方で、より長いホイールベースによってアンダーボディの利用可能面積を拡大すれば、フロアを中心とした空力開発の可能性を広げられる。

    ピアストリとノリスがMCL40で経験しているグリップ面の課題を踏まえながら、マクラーレンは2027年型で重量を優先したコンパクトな設計から、より大きな空力開発の余地を持つパッケージへと軸足を移すことになる。

  • マクラーレンF1 予算上限に余力「MCL40の開発を続けられる」

    マクラーレンF1 予算上限に余力「MCL40の開発を続けられる」

    マクラーレンは、2026年F1シーズン後半に向けてもMCL40のアップグレードを継続する方針だ。ライバル勢がコストキャップ(予算上限)の残額を意識し始めるなか、チーム代表のアンドレア・ステラは、シーズン中の開発競争を想定してあらかじめ十分な予算を確保していたことを明かした。

    マクラーレンは第11戦ハンガリーGPで今季初勝利を挙げたが、コンストラクターズ選手権では220ポイントで3位。首位メルセデスとは159ポイント差がある。

    タイトル防衛に向けて厳しい状況にある一方、チームは現在のMCL40の開発を止める考えはない。

    2026年F1は「初期性能よりアップグレード競争」
    2021年から導入されているF1のコストキャップは、トップチームと中小チームの財政力による格差を縮小することを目的としている。2026年の上限額は2億1500万ドルに設定され、21戦を超えるグランプリについては1戦あたり180万ドルが追加される。

    新テクニカルレギュレーション初年度となった今季は各チームが積極的にマシンを開発しており、どの段階まで現行車への投資を続けるかも重要な戦略となっている。

    メルセデス代表のトト・ヴォルフは、特にフェラーリの開発ペースに注目。フェラーリがマイアミGPとバルセロナで大規模なアップグレードを投入したことについて、予算上限の余裕がどこまで残っているのか疑問を呈している。

    「フェラーリがあれほど大規模なアップデートをマシンに投入できることには、いつも少し驚かされている」

    「僕の考えでは、そろそろ予算上限の資金を使い果たしていてもおかしくない。僕たちには同じことはできない。あれほど多くのパーツを投入するための予算上限内の余裕が単純にないからだ」

    「だからシーズン終盤には状況が変わり、彼らがもうパーツを投入できなくなることを期待している。少なくとも論理的にはそうなるはずで、そのときには僕たちがより多く投入できる」

    マイアミ以降の新パーツ数はマクラーレンが最多
    ただし、マイアミGP以降に最も多くの新パーツを投入しているのは、ヴォルフが名前を挙げたフェラーリではなくマクラーレンだ。

    マクラーレンはマイアミからハンガリーまでに計32点の新パーツを投入。フェラーリとレッドブル・レーシングがそれぞれ29点、メルセデスが20点となっている。

    マイアミではマクラーレン7点、メルセデス2点、フェラーリ11点、レッドブル7点。カナダでは7点、8点、0点、4点、モナコでは6点、1点、3点、4点だった。

    バルセロナではマクラーレン1点に対してフェラーリが8点を投入。オーストリアではマクラーレン2点、メルセデス2点、フェラーリ4点、レッドブル7点となり、イギリス、ベルギーを経て、ハンガリーではマクラーレンがさらに5点を持ち込んだ。

    そして、その開発はまだ終わっていない。

    「ハンガリーに持ち込んだアップグレードは、数戦にわたって投入する一連のアップグレードの一部だ。今回がその最初のパートだった」

    「次の数戦でも、いくつか新しいものを投入する予定だ」

    マクラーレンは予算に「余力」を確保
    新パーツの投入数が多いにもかかわらず、ステラはコストキャップについて懸念していない。

    マクラーレンは2026年の新レギュレーションでは開幕時点のマシン性能だけでシーズンが決まるのではなく、年間を通じた開発競争になると予測。そのため、シーズン途中のアップグレードに使える予算を最初から残していたという。

    「予算上限へのアプローチという点では、2026年はスタート地点がそれほど重要なのではなく、むしろマシンをアップグレードしていく競争になると分かっていた」

    「だから予算の見通しには十分な余裕を残して、マシンのアップグレードに資金を使える状態にしておきたかった」

    この計画によって、マクラーレンは2026年後半もMCL40に開発資金を投入できるという。

    「2027年のパワーユニット規則変更によって認められる追加枠とは関係なく、僕たちはすでにMCL40のアップグレードに投資できるという意味で良いポジションにいた」

    2027年向け追加枠をどう使うか
    一方、2027年の規則変更に関連して認められる追加の予算枠については、慎重な判断が必要になる。

    「来年に向けて認められている枠を使うことはできる。ただし、その資金がマシンに適用しなければならない変更のために必要になる可能性があるので、当然ながら注意しなければならない」

    「とはいえ、今季に集中したいのであれば、前倒しして活用できるものではある」

    つまり、制度上利用可能な余裕があるからといって、すべてを2026年型MCL40の性能向上に投入できるわけではない。2027年に必要となる変更を見越して資金を残す必要があるためだ。

    予算だけではない「2026年か2027年か」の判断
    さらにステラは、シーズン後半の開発を左右するのはコストキャップだけではないと指摘する。

    限られた設計リソースを現行マシンと翌年型マシンのどちらに振り分けるのか、風洞でどちらのマシンを優先するのかといった判断も必要になる。

    「いくつかのチームにとっては、ある段階でどちらのシーズンに集中するのかという問題にもなると思う」

    「制約になるのは予算だけではない。設計面でも制約があるし、風洞に入れるのは来年のマシンなのか、それとも今年のマシンなのかという問題もある」

    「だから答えを出さなければならない問題はいくつもある。その答えの一部は、今季にどこまで重点を置くのか、それとも完全に来年へ焦点を移すのかによって変わってくる」

    マクラーレンは新レギュレーション初年度を単なる開幕時の性能勝負ではなく、シーズンを通じた開発競争と捉えて予算を配分してきた。すでにライバルを上回る数の新パーツを投入しているものの、ステラによればMCL40をさらに進化させるための余力は残されている。

    ただし、シーズン後半になれば各チームにとって「2026年を追うのか、2027年へ移行するのか」という判断の重要性が増していく。マクラーレンが現在の159ポイント差を追いながら、どのタイミングで次期マシンへ開発リソースを切り替えるのかも今後の焦点となる。

  • マクラーレンF1 同じメルセデスPUでなぜ遅い? ワークスとの差は「投資」

    マクラーレンF1 同じメルセデスPUでなぜ遅い? ワークスとの差は「投資」

    マクラーレンは2026年F1シーズン、メルセデスと同じパワーユニット(PU)を搭載しながら、その性能をワークスチームほど引き出せていない。この差をめぐり、メルセデスとマクラーレン双方の技術陣が、その背景にある複雑な事情を明らかにしている。

    問題の核心にあるのは、単純なPUの仕様差ではない。新世代PUを車体と組み合わせて最適に運用するためのシミュレーションツールやソフトウェア、そしてそれらを開発・運用するためのリソースだ。

    メルセデス側は、マクラーレンがさらに自ら投資する必要があるとの見方を示している。

    同じメルセデスPUでも生まれた性能差
    2025年にドライバーズ、コンストラクターズの両タイトルを獲得したマクラーレンだが、新しいテクニカルレギュレーションが導入された2026年は苦戦を強いられている。

    夏休み前のハンガリーGPではランド・ノリスが今季初のポールポジションから勝利を挙げたものの、それまでの10戦で表彰台は4回。コンストラクターズランキングでは、前年に364ポイント差をつけて破ったメルセデスに対し、現在は159ポイントのビハインドを抱えている。

    その要因のひとつとして注目されてきたのがPUの使い方だ。

    2026年のF1では、内燃エンジンと電動部分の出力比率が53対47となり、従来以上にエネルギーマネジメントが重要になった。同じメルセデス製PUを使用していても、車体特性に合わせた制御やエネルギー配分によって実際のパフォーマンスには差が生じる。

    マクラーレンのチーム代表アンドレア・ステラは6月末、ストレートでメルセデスに最大約0.15秒/周を失っていると説明していた。

    さらに7月のイギリスGPでは、メルセデスのワークス車両が予選で使用していたPUのパフォーマンスを引き出す手法について、マクラーレン側が驚きを示す場面もあった。

    「HPP(メルセデス・ハイパフォーマンス・パワートレインズ)とは技術レベルで継続的に話し合っている。この素晴らしいPUで利用可能なものを確実に使えるようにするためだ」とステラは語った。

    「これは本当に素晴らしい技術で、多くのパフォーマンスがある。ただ、その性能は細かな使い方の部分にも存在している」

    「ストレートでのパフォーマンスを見ると、彼らの方がドラッグが少ない可能性を考慮しても、まだいくつか疑問が残っている」

    メルセデス「意図的に差をつけているわけではない」
    この問題について、メルセデスの副チーム代表ブラッドリー・ロードは、ワークスチームが意図的にカスタマーチームへ情報を与えていないという見方を否定している。

    「すべてはレギュレーションと契約に従っている。マクラーレンだけでなく、アルピーヌやウィリアムズも素晴らしいパートナーだ。彼らが要求の高い存在なのは当然だし、優れたサポートと製品を提供する会社としてメルセデスを選んでいる」

    ロードによれば、ブリックスワースのHPPは長年にわたりカスタマー供給において公平な対応を続けてきた。

    それでもワークスとカスタマーの間で差が生まれる理由として、ロードが挙げたのがシミュレーションツールだ。

    「違いがあると認識されたり、カスタマー側が一歩遅れていると感じたりする部分があるとすれば、多くの場合、それはシミュレーションツールやPUとシャシーの挙動を予測する能力といったところにある」

    ここで重要なのは、メルセデスが使用するツールのすべてがHPPだけで開発されたものではないという点だ。

    ワークス専用の技術はそのまま渡せない
    メルセデスのPU運用ツールには、ブリックスワースのHPPだけでなく、F1ワークスチームであるメルセデスのシャシー部門と共同開発したものも含まれている。

    F1の技術規則では、チーム間で共有できる知的財産(IP)について厳格な制限が設けられている。そのため、メルセデスが持っているツールをそのままマクラーレンへ渡せるわけではない。

    「そうしたツールの多くはブリックスワースだけでなく、MGP(メルセデスF1チーム)のシャシー部門とHPPが共同で開発したものだ」とロードは説明する。

    「当然ながら技術規則では、シャシーチームのIPについて、チーム間で何を共有できて何を共有できないのかが非常に明確に定められている」

    このため、カスタマーへ提供する前にワークス側のIPを切り離す作業が必要になるケースがある。

    そして、ここからマクラーレン自身の「投資」という問題が浮上する。

    「場合によっては、カスタマーチーム自身が作業を行い、自分たちのコストキャップのリソースを使って、PUから最大限の性能を引き出すためのツールを開発する必要がある」

    「おそらく、これが我々が直面している複雑さのひとつだ。ただ、新しいレギュレーションであり、しかも以前より複雑な規則になっていることを考えれば理解できることでもある」

    つまり、同じPUを購入すれば同じ性能が自動的に手に入るわけではない。PUそのものに加えて、それを最大限に活用するための解析環境にもマクラーレン自身がリソースを投入しなければならない。

    マクラーレンも「リソース不足」を認める
    この点については、マクラーレン側の説明とも一致する。

    マクラーレンのエンジニアリング担当テクニカルディレクター、ニール・ホールディは、2026年シーズン開幕前の準備について、自分たちとHPPの双方で十分なリソースを投入できていなかったと認めている。

    「PUという観点では、その運用方法や複雑さについて、まだ学ばなければならないことが多いのは明らかだった。僕たちとHPPの間で、そこに十分なリソースを投入できていなかった」

    「このレギュレーションではエネルギーマネジメントが難しくなることは分かっていたし、スタートするために良いと思えるものは準備していた」

    しかし、特にソフトウェア面ではさらに準備できる余地があったという。

    「テストや最初の数戦までに、僕たちもHPPもソフトウェア面でもっと作業できたと思う。そうしていれば、エネルギーマネジメントについて、もっと能力の高い状態でシーズンを始められたはずだ」

    マクラーレンとメルセデスAMG・ペトロナス・モータースポーツ

    MCL40専用のキャリブレーションが必要
    問題をさらに複雑にしているのが、マクラーレンMCL40とメルセデスのマシンでは車体特性が異なることだ。

    PUが同じでも、空力特性やドラッグ、車速、燃料搭載量などが違えば、最適なエネルギーの使い方も変わる。そのためマクラーレンにはMCL40専用のキャリブレーションが必要になる。

    「僕たちのマシンはワークスチームとは違う。だから僕たちのマシン専用のキャリブレーションが必要になるが、現時点ではそれを素早く承認できるだけの能力がない」とホールディは説明する。

    開幕から3〜4戦では大きな進歩を遂げたものの、まだPUから引き出せていない性能が残されているという。

    「今後数戦、そして2027年に向けても、さらにステップを踏む必要がある。PUから得られる可能性がある最後の0.1秒を、現時点では完全には引き出せていない」

    マクラーレンは「メインループ」の外側
    マクラーレンのパフォーマンス担当テクニカルディレクター、マーク・テンプルも、カスタマーチーム特有の難しさを説明している。

    マクラーレンもPUの設計や搭載方法について相当な意見を出すことはできる。しかし最終的な決定権は、HPPとメルセデスのワークスチーム側にある。

    「僕たちにもかなりのインプットはあるが、最終的にHPPと何をするのかについて最終決定権を持つのはMGPだ。だからといって僕たちが無視されているという意味ではない。ただ、完全にコントロールしているのは僕たちではない」

    レース週末にHPPはワークス側の「メインチーム」と各カスタマー向けのサポートチームという形で活動する。

    「僕たちは少しメインループの外側にいて、プログラムへ情報を送り込むサイドループで仕事をしている。そのため、僕たちが望む設定や、自分たちに適した設定を必ずしも得られるとは限らない」

    情報が届くタイミングにも違いがある。

    「レースに向けてHPPから情報を受け取るが、その前には僕たちが参加していない意思決定や開発がある。何が使えるのか分かった時点では、それに反応して対応する時間があまり残されていないことも多い」

    マクラーレンは、この弱点を解消するために従来存在しなかった「PUパフォーマンスチーム」を新たに構築している。

    短いギア比もマクラーレンの足かせに
    もうひとつの違いがギア比だ。

    マクラーレンはシーズン開幕前に得られたメルセデス側の情報を基に、比較的短いギア比を選択した。短いギア比には加速性能やスタートなどでメリットがある一方、高速域では不利になる可能性がある。

    現在の知識を持ってもう一度選択できるならどうするかと問われたホールディは、「メルセデスにもっと近づける」と認めた。

    「もう一度やり直せるなら、メルセデスに近いギア比にすると思う」

    「短いギア比だからこそ得られるパフォーマンス上の機会もある。コーナーでより低いギアまで落とさずに済む場合もあるし、リスタートやスタートでもメリットがある」

    「ただ、高速側を考えれば、おそらく他のチームが持っているものを選ぶだろう」

    もっとも、ホールディはギア比だけで大きな差が生じているわけではないことも強調する。

    「小さなラップタイムの違いだ。ただ、そういう小さなものが積み重なると、それなりのラップタイムになる」

    「とはいえ、ここで話しているのは10分の1秒ではなく、数ミリ秒だ」

    2027年に向けて問われるマクラーレンのPU運用能力
    メルセデスとマクラーレンの説明を合わせると、2026年に生じている差を単純な「ワークス対カスタマー」という構図だけで説明することはできない。

    PUそのものは同じでも、メルセデスにはHPPとシャシー部門が共同で蓄積したシミュレーション環境があり、PUとマシンを一体として最適化できる。一方、その中には規則上マクラーレンへそのまま提供できないIPも含まれる。

    マクラーレンは独自のツールやソフトウェア、人員にコストキャップ内のリソースを投入し、MCL40に合わせたエネルギーマネジメントやキャリブレーションを構築しなければならない。

    さらに、情報を受け取るタイミング、設定に対する最終決定権、ギア比といった小さな違いも積み重なっている。

    2025年にメルセデスを364ポイント上回った王者マクラーレンが、2026年には同じPUを搭載するワークスチームを追う立場となった背景には、新世代F1で「エンジンを持っていること」と「エンジンを完全に使いこなすこと」が別の問題になったという現実がある。

    ハンガリーGPでノリスが示した速さはMCL40そのものに競争力があることを証明した。だからこそ、PUから取りこぼしている最後のパフォーマンスをどこまで回収できるか。そのための投資と技術基盤の構築が、残る2026年シーズンだけでなく2027年に向けてもマクラーレンの重要な課題となる。

  • マクラーレン「McL 6GT」発表 F1以来のMT復活でブルースの夢を現代に

    マクラーレン「McL 6GT」発表 F1以来のMT復活でブルースの夢を現代に

    マクラーレン・オートモーティブは、新たなスーパーカー・コンセプト「McL 6GT」を発表した。

    創業者ブルース・マクラーレンが1960年代末に構想しながら実現できなかったロードカー「M6GT」の精神を現代に蘇らせたモデルで、V8内燃エンジン、後輪駆動、そしてマクラーレンF1以来となる本格的なマニュアルトランスミッションを組み合わせる。

    McL 6GTは単なる過去の名車の復刻ではなく、マクラーレンが今後展開する新たな高級スーパーカーの方向性を示す存在でもある。油圧式ステアリングや機械式スイッチ、露出したエンジニアリングなど、電動化とデジタル化が進む現代とは対照的に「触覚」「アナログ」「機械的なつながり」を前面に押し出した。

    ブルース・マクラーレンが果たせなかったM6GTの夢
    McL 6GTの原点となったM6GTは、ブルース・マクラーレンがレーシングカーで培った技術をロードカーへ持ち込もうとしたプロジェクトだった。

    ベースとなったのはCan-Amを戦ったM6Aで、ブルースはレースで成功を収める一方、マクラーレンの名を冠したロードカーを生み出す構想を抱いていた。しかし、1970年にブルースがM8Dのテスト中の事故で亡くなったことで、その計画が本格的な市販車事業へ発展することはなかった。

    McL 6GTという名称も、マクラーレンのモータースポーツ活動とロードカーの原点を結びつけるものだ。ボディカラーはブルース自身のM6GTの赤をモチーフとし、現代の塗装技術による高いメタリック感と赤色顔料を組み合わせている。

    燃料タンクを覆っていたM6GTの胴体パネルもデザイン要素として再解釈され、エンジンベイにはブルースのサイン、燃料フィラーキャップには「Speedy Kiwi」が刻まれるなど、細部にも創業者へのオマージュが盛り込まれた。

    マクラーレン・オートモーティブのニック・コリンズCEOは、このクルマについて次のように説明する。

    「McLaren McL 6GTは、私たちにインスピレーションを与え続ける創業者が完成させたいと願っていたものを大胆に想像したクルマです。そこにさらに60年分のイノベーションと情熱をあらゆる要素に織り込み、ドライバーとのつながりを体現する現代のアイコンを生み出しました」

    マクラーレン・McL 6GT マニュアルトランスミッション

    マクラーレンF1以来となる本格的なマニュアル
    McL 6GTを特徴づける最大の要素がマニュアルトランスミッションだ。マクラーレンによれば、本格的なマニュアルトランスミッションを採用するのは、1990年代を代表するスーパーカーであるマクラーレンF1以来となる。

    マクラーレンはV8内燃エンジンを搭載し、その駆動力をマニュアルトランスミッションを介して後輪へ伝えることを明らかにしている。Car and Driverによれば、公開されたプロトタイプのシフトパターンから6速MTとみられる。

    さらに油圧式ステアリングを採用し、スイッチ類にも操作した感触を重視した設計を導入。アルミニウムから削り出されたローレット加工のコントロール類や、操作感とストロークを追求したシフトレバーなど、人間と機械の直接的なつながりが重視されている。

    シフトレバーには立体的な「Speedy Kiwi」が組み込まれ、リンケージの一部も露出している。単に変速速度を追求するのではなく、ドライバー自身がギアを選び、機械を操作する行為そのものをMcL 6GTの価値として位置づけている。

    M6GTを現代化した低くワイドなスタイリング
    デザインもM6GTの単純な再現ではない。McL 6GTは極端に低くワイドなプロポーションを持ち、M6GTのベースとなったM6A Can-Amレーサーを思わせる低いノーズを採用する。

    ボディ表面は近年のマクラーレンとは異なり比較的クリーンで、低いノーズから特徴的なカムバック形状のリアまで連続したボリュームで構成。ルーフからリアデッキ、エンジンカバーまでをひとつの流れとして見せることで、キャビンがボディの上に載るのではなく、その内部へ埋め込まれたようなシルエットを作り出している。

    車体の中心には軽量なカーボンファイバー製モノコックを採用。その積層構造をあえて各部で見せることで、素材そのものもデザインの一部として扱った。

    M6GTのテールライトから着想を得た「Racing loop」と呼ばれるモチーフは空力構造に組み込まれ、ブルースのM6GTが装着していたナンバープレートも同系色のグラフィックとして再解釈された。インテリアでは当時のボックス型キルティングを現代的に仕立て直し、デジタルメーターもオリジナルの視認性と雰囲気を意識したものとなっている。

    マクラーレン・McL 6GT

    2028年の市販化へ 500台限定で約150万ドルと報道
    現段階で公開されたMcL 6GTは市販仕様そのものではなく、プリプロダクション・プロトタイプという位置づけだ。

    Car and Driverは、市販モデルのデリバリー開始は2028年で、生産台数は500台、価格は約150万ドルになると報じている。エンジンの詳細なスペックについてマクラーレンはまだ公表していない。

    McL 6GTが示しているのは、単なる懐古的なスーパーカーではない。マクラーレン自身も、このコンセプトが既存ラインアップとは異なる「新たに位置づけられた極めてエクスクルーシブなタイプ」のスーパーカーの基礎になるとしている。

    速さや変速時間だけを追求すれば、現代のデュアルクラッチ式トランスミッションに優位性がある。それでもマクラーレンがV8、後輪駆動、油圧式ステアリング、そしてマニュアルトランスミッションを選んだことには明確な意味がある。ブルース・マクラーレンが目指したレーシングカーとロードカーの境界を越える思想を、60年以上を経た現代に「ドライバーと機械のつながり」という形で再構築したのがMcL 6GTである。

  • レオナルド・フォルナローリ F1シート獲得へマクラーレンで積む開発経験

    レオナルド・フォルナローリ F1シート獲得へマクラーレンで積む開発経験

    マクラーレンの育成ドライバーを務めるレオナルド・フォルナローリが、F1シート獲得を目指すなかで取り組んでいるドライバー育成プログラムの内容を明かした。

    2025年のFIA F2選手権王者であるフォルナローリは、タイトル獲得後にマクラーレンのドライバー育成プログラムへ加入。2026年にはF1チームの公式リザーブドライバーに就任し、ランド・ノリスとオスカー・ピアストリを擁するチームの一員として経験を積んでいる。

    F2王者からマクラーレンF1のリザーブへ
    21歳のフォルナローリは、今季マクラーレンとともに世界各地のグランプリを転戦しながら、FP1やTPC(旧型車テスト)に参加してきた。

    FP1ではバルセロナとハンガリーでマシンをドライブ。限られた走行時間のなかでチームのプログラムを遂行し、F1マシンへの適応を進めている。

    一方、実車を走らせていない時間にも重要な役割を担っている。マクラーレンのシミュレーターでTPCやFP1に向けた準備を行うほか、F1のレース週末には金曜日のサポート作業にも加わっている。

    フォルナローリは、こうした一連の仕事が自身のドライバーとしての成長につながっていると説明した。

    「いろいろなことをやっている。すべてのTPCとFP1に向けて準備するために、たくさんのシミュレーターセッションを行ったし、F1の週末には金曜日のサポート作業もやった。それは自分の成長にとても役立っていると感じている」

    TPCとFP1でF1に必要な仕事を学ぶ
    マクラーレンがフォルナローリに与えているのは、単純にF1マシンを走らせる機会だけではない。

    TPCでは走行を重ねるごとに改善を積み上げ、FP1では限られた時間のなかでチームが必要とするデータを収集する。若手ドライバーにとっては速さを示すことだけでなく、エンジニアの要求を理解し、正確なフィードバックを返す能力を磨く場でもある。

    「もちろん、これまでに行ったTPCもある。セッションを重ねるたびに、いいステップを踏むことができた。そしてバルセロナで初めてFP1を走った。本当にいい経験だった」

    「プッシュできる周回はそれほど多くなかったけど、目的はチームを助けることだった。空力について有益なデータを提供することが自分の仕事だった」

    F1のフリー走行では、若手ドライバーが自由にタイムアタックできるとは限らない。特にレギュラードライバーからマシンを借りて走るFP1では、空力計測やセットアップ確認など、チームが設定したプログラムを正確にこなすことが優先される。

    フォルナローリにとって、こうした経験はF1で求められる仕事の進め方を実際のグランプリ週末で学ぶ機会となっている。

    シミュレーターでもマクラーレンの開発を支援
    フォルナローリの育成において重要な位置を占めているのがシミュレーター作業だ。

    F1チームでは、グランプリに向けたセットアップの検証や開発パーツの評価などでシミュレーターが重要な役割を担う。リザーブドライバーにとっても単なる練習ではなく、実際のマシン開発やレース週末の準備に関わる仕事となる。

    フォルナローリはTPCやFP1の前にもシミュレーターで準備を重ねており、実車とシミュレーターの両方を通じてマクラーレンの仕事の進め方を学んでいる。

    「マクラーレン、そしてドライバー育成プログラムで働いている全員のサポートに本当に感謝している」

    「チームのみんなはとてもプロフェッショナルだし、自分たちの仕事を愛している。そして、僕がこのプロセスやすべての仕事を楽しめるようにしてくれている」

    次の課題はF1のレースシート獲得
    F2王者という実績を持つフォルナローリだが、F1への道が確定しているわけではない。

    マクラーレンではノリスとピアストリがレギュラーを務めており、フォルナローリ自身はF1でレースを戦うためのシートを探し続けている。

    それでも、シミュレーター、TPC、FP1という異なる環境で経験を重ねられる現在の立場は、F1昇格に向けた重要な準備期間となっている。

    F2王者として速さを証明した次に求められるのは、F1チームの開発作業を理解し、限られた走行機会でも要求された仕事を確実に遂行できることだ。フォルナローリはマクラーレンの育成プログラムを通じてその能力を磨きながら、次のステップとなるF1のレースシート獲得を目指している。

  • マクラーレンF1 2027年マシンへの開発移行に自信「昨年よりはるかにスムーズ」

    マクラーレンF1 2027年マシンへの開発移行に自信「昨年よりはるかにスムーズ」

    マクラーレンF1のチーム代表アンドレア・ステラは、2026年型マシン「MCL40」の開発と2027年型マシンへの移行について、昨年よりも適切なバランスを取りやすい状況にあると語った。

    2025年はドライバーズタイトルを争いながら、シャシーとパワーユニットの両面で大幅な規則変更が導入される2026年に向けて、ほぼゼロから新車を開発する必要があった。その結果、マクラーレンは2026年シーズン序盤で後れを取り、MCL40の競争力向上を迫られることになった。

    2025年は「2つの極端」の間で難しい判断
    マクラーレンは2025年、ランド・ノリスが2008年のルイス・ハミルトン以来となるチームのドライバーズタイトルを獲得。コンストラクターズ選手権でも連覇を達成した。

    しかし、そのタイトル争いに最後までリソースを投入したことは、全面的な技術規則変更を伴う2026年への準備との両立を難しくした。

    ステラは、当時の状況を「2つの極端」の間でバランスを取らなければならなかったと振り返る。

    「ある意味、今年は2つの要求の間で中間点を見つけることがより簡単だ」

    「2025年には、世界選手権を勝ち取るために限界までプッシュすることと、事実上ゼロから新しいマシンを設計しなければならないことという、2つの極端な状況の間でバランスを取る必要があった」

    「今年は規則変更が比較的小さいため、2つのプロジェクト間の移行ははるかにスムーズだ」

    2026年はF1のシャシーとパワーユニット規則が同時に刷新される大きな転換点だった。一方、2027年に予定されている変更はそれほど大規模ではない。

    そのため、MCL40で進めている開発や得られたデータの多くを、2027年型マシンにも生かすことができる。

    MCL40で得る知見は2027年にも生かせる
    マクラーレンにとって重要なのは、2026年型マシンの開発をいつ打ち切るかという単純な二者択一ではない。MCL40から得られる知見そのものが、次世代マシンの開発につながるからだ。

    ステラは、現行世代のF1マシンはシャシー、パワーユニットともにまだ開発初期の段階にあると指摘する。

    「この世代のマシンは、シャシーとパワーユニットの両方において、まだ非常に初期の段階にあるということを考慮しなければならない」

    「したがって、2026年に学び続けるほぼすべてのことが、来年にも役立つことになる」

    これは、2025年から2026年への移行との大きな違いだ。前年は規則が根本から変わるため、旧型マシンへの開発投資が新車に直接つながらない部分も多かった。

    一方、2026年から2027年では技術的な連続性が高く、今季の開発を継続すること自体が2027年への準備にもなる。

    予算上限と風洞時間の配分が焦点
    ただし、リソースを無制限に投入できるわけではない。F1ではコストキャップに加え、風洞やCFD(数値流体力学)による空力開発時間も制限されている。

    さらに、設計部門だけでなく、実際にパーツを製造するための人的・設備的なリソースも、2026年型と2027年型の間で振り分ける必要がある。

    「もちろん、予算上限、風洞でのテスト時間、コンピューターシミュレーション、そして設計と製造におけるリソース配分について、適切なバランスを見つけなければならない」

    「だが、すべての面で我々は良いポジションにいると思っている」

    マクラーレンは2025年、タイトル獲得を優先したことで2026年型MCL40への準備に一定の代償を払った。だが、規則の連続性が高まる2027年に向けては事情が異なる。今季のマシンを改善しながら、その成果を次期マシンへつなげられることが、ステラのいう「中間点」を見つけやすくしている。

  • マクラーレンF1 2026年苦戦は前年王座の「重い代償」 それでも崩れなかった理由

    マクラーレンF1 2026年苦戦は前年王座の「重い代償」 それでも崩れなかった理由

    マクラーレンは、2026年F1シーズン序盤の苦戦について、前年のタイトル争いでマシン開発を最後まで続けた「重い代償」があったと認めている。一方、その困難から立ち直る原動力となったのが、アンドレア・ステラ代表の下で築かれた「誰かを責めない」チーム文化だったという。

    2024年と2025年にコンストラクターズ選手権を連覇し、2025年にはランド・ノリスが自身初のドライバーズタイトルを獲得。

    ダブルタイトルを手に2026年を迎えたマクラーレンだったが、新レギュレーション下ではメルセデスに先行を許し、MCL40はシーズン前半に期待された競争力を発揮できなかった。

    しかし、大型アップデートを経て迎えたハンガリーGPではノリスが優勝。王者として迎えたシーズンで初勝利を挙げ、マクラーレンはようやくトップ争いへの本格的な復帰を果たした。

    2025年タイトル争いを最後まで続けた「重い代償」
    アンドレア・ステラは、2026年の出遅れには明確な理由があったと説明する。そのひとつが、2025年型マシンの開発をシーズン終盤まで継続したことだった。

    2025年は序盤こそノリスとオスカー・ピアストリによるタイトル争いになるかに見えたが、レッドブルが開発を続けたことでマックス・フェルスタッペンが終盤にタイトル争いへ加わった。

    マクラーレンも対抗する必要に迫られ、翌年に大規模なレギュレーション変更を控えながら、2025年型マシンへリソースを投入し続けた。

    「2024年から2025年にかけて4つのタイトルのうち3つを獲得するまで、3年間着実に前進してきたが、今シーズンのスタートは本当の意味でリセットだった」とステラは振り返る。

    「レギュレーション変更がおそらくこのスポーツの歴史でも最大級だったというだけではない。何より、2025年にダブルタイトルを確保するために注ぎ込んだ努力によって、どれほど重い代償を払っていたのかを思い知らされた」

    2025年の成功を追求したことが、2026年型マシンの準備に影響したということだ。

    それでもステラが強調するのは、そこでチームが崩れなかったことである。

    「僕たちはバラバラになることもできた。前年のような形で選手権をスタートできなかったことについて、言い訳を探すこともできた。でも、そうはならなかった」

    「技術的、戦略的な理由を理解しようとし、そこに努力を集中させた。それこそが、僕がこのチームを本当に誇りに思っている理由だ」

    危機に直面しても「誰かを責めない」マクラーレン
    ステラが語る「結束」は、近年のマクラーレンが進めてきた組織改革とも深く結びついている。

    現在の姿は、ホンダとのパートナーシップを再開した2015年とは大きく異なる。当時のマクラーレンはコンストラクターズ選手権9位に低迷。翌2016年には6位まで浮上したものの、チーム内部では主導権争いが続いていた。

    最終的にはロン・デニスがウォーキングでの37年間に及ぶ時代を終え、ザク・ブラウンが組織改革を推進。2018年には当時のチーム代表エリック・ブーリエも退任した。

    さらに2022年末、アンドレアス・ザイドルの後任としてステラがチーム代表に就任すると、マクラーレンのマネジメントスタイルは大きく変化した。

    チーム関係者のシンは、その最大の特徴を「責任追及をしない文化」だと説明している。

    「一番大きいのは、アンドレアとザクによってリーダーシップが変わり、全員が自分の仕事をできるように力を与えられたことだと思う」

    「ここには誰かを責めるということがない。それがどれほど大きなことなのか、外からでは分かりにくいかもしれない」

    特にレース戦略のように、限られた情報と確率を基に短時間で判断しなければならない仕事では、失敗した際に責任を追及されるという恐怖が意思決定を鈍らせる可能性があるという。

    「戦略のように、かなりストレスがかかり、確率に基づいていて、間違った方向へ行く可能性もある仕事をしていると、『もしミスをしたら周囲はどう思うだろう』と考えてしまうことがある」

    「でも、ここにはそれがない。ただ常に改善することに集中する。悪い結果が出ても、それを心配することはない」

    マクラーレン F1

    ミスも成功も同じように分析する
    もちろん、失敗を無視するわけではない。重要なのは、誰が悪かったのかではなく、なぜその判断に至り、次にどう改善するかを検証することだ。

    「悪い判断があれば、当然それを掘り下げ、理解し、改善しようとする。でも、本当に誰かを責めることはまったくない」

    「ミスがあったレースから戻ってくることもある。良かったことも悪かったこともあるけれど、それらを同じように扱う。それは本当に力を与えてくれる環境だ」

    この考え方は、ステラ自身が2026年の苦戦について語った内容とも一致する。

    ステラは、この7カ月間で得た最大の教訓について「大きな困難に直面したときこそ、結束が力になる」と語った。

    「何よりもまず自分たち自身に対して、立ち直り、トップへ向かう軌道に戻るためにチームの結束がどれほど重要なのかを証明できたと思う」

    10年前の9位からF1王者へ
    2015年にコンストラクターズ選手権9位だったマクラーレンは、その10年後にはF1世界王者としてシーズンを迎えるチームへと変貌した。

    その過程にはマシンや施設への投資、技術部門の再編といった数多くの要素がある。しかし、チーム内部では特定の技術的ブレイクスルーだけではなく、ブラウンとステラが築いた組織文化そのものが復活の重要な要因だったと考えられている。

    そして、その文化は成功しているとき以上に、2026年のような苦境で試されることになった。

    2025年のダブルタイトルを守るために開発を続けた結果、翌年のスタートで「重い代償」を払った。それでも責任の押し付け合いに陥ることなく原因を分析し、MCL40を改善。ハンガリーGPでノリスを再び優勝へ導いた。

    2026年のマクラーレンの復調は、単なるアップデートによる技術的な挽回だけではない。10年前の混乱から作り上げてきた「失敗しても誰かを責めない」という組織文化が、タイトル獲得後に訪れた最初の大きな試練で機能した結果ともいえそうだ。

  • マクラーレンF1 ポルティマオでTPC実施 ノリスら3人がMCL60をテスト

    マクラーレンF1 ポルティマオでTPC実施 ノリスら3人がMCL60をテスト

    マクラーレンF1は、F1のサマーブレイクを前にポルトガルのアルガルベ・インターナショナル・サーキット(ポルティマオ)で2日間にわたるTPC(Testing of Previous Cars)テストを実施した。

    ランド・ノリス、オスカー・ピアストリ、リザーブドライバーのレオナルド・フォルナローリが2023年型マシン「MCL60」をドライブ。ハンガリーGPで今季初優勝を飾った現王者ノリスにとっては、2017年に初めてF1マシンを走らせた思い出のサーキットへの帰還となった。

    今回のテストでは、現役レギュラードライバーの走行に加え、若手育成プログラムの一環としてフォルナローリの走行機会も設けられた。さらに、2027年にF1カレンダーへ復帰予定のポルティマオを、ノリスとピアストリが事前に経験する機会にもなった。

    TPCで3人が走行 プログラムを順調に消化ノリスは49周(225km)、ピアストリは初日に55周(256km)、フォルナローリは2日間午後のセッションで計47周(217km)を走行した。

    高速コーナーと低速シケインが組み合わさるポルティマオは、風の影響を受けやすいことで知られるサーキット。当日はアルガルベ地方らしい暑さに加え、午後には風が強まり、コンディションは刻々と変化した。

    とくに午後を担当したフォルナローリは、変化する路面状況への対応も重要なテーマとなった。

    フォルナローリはF1ドライバーから学習
    フォルナローリはハンガリーGPでマクラーレンの2026年型マシン「MCL40」を使用したフリー走行1回目(FP1)への出走を終えた直後にポルティマオ入りした。

    今年5回目となるMCL60でのTPC走行では、自身のドライビングを磨くだけでなく、ノリスとピアストリの走行やエンジニアとのやり取りを間近で観察。フィードバックの伝え方など、実戦では得られない経験を積んだ。

    マクラーレンのTPCプログラムは2026年前半だけでバルセロナ、シルバーストン、オースティン、モンツァ、そしてポルティマオの5サーキットで実施されており、サマーブレイク後も継続される予定だ。

    マクラーレン

    ノリス「特別な場所で有意義なテストになった」
    ノリスは、F1初走行の思い出があるサーキットでのテストを振り返った。

    「僕たちにとって実りの多いテストになったし、ポルティマオに戻って来られて本当に良かった。ここは僕が初めてF1マシンをドライブした場所なので、特別なサーキットなんだ。それに、とても楽しくて、チャレンジングなコーナーがいくつもあるコースでもある」

    「予定していたプログラムをすべて完了し、有益な走行距離も重ねることができた。サマーブレイク前を締めくくるには良い形だったよ。家族や友人と過ごしてしっかりリフレッシュし、ザントフォールトでは万全の状態で戻ってきたい」

    ピアストリ「変化するコンディションが面白かった」
    ピアストリは、ポルティマオで初めてF1マシンを走らせた感想を語った。

    「ポルティマオでF1レイアウトを走るのは今回が初めてだった。コンディションが変化していくので、とても興味深いサーキットだったし、高低差もあって本当に楽しかった」

    「予定していたプログラムはすべて完了できたし、チームも満足している。サマーブレイクに入るにはちょうど良いタイミングだ。今年はかなりハードなシーズンだったので、みんなが少し気持ちを切り替えて、また再開に向けて準備できるのは良いことだと思う」

    フォルナローリ「すべてが学びになった」
    フォルナローリは、トップドライバーとともに過ごした2日間が大きな収穫だったと振り返った。

    「ポルティマオでのイベントに参加できて本当に楽しかった。このサーキットを走るのは初めてだったし、TPCテストでMCL60を運転できる機会は、自分の成長にとってとても重要なんだ」

    「ランドとオスカーと一緒に仕事ができたのは素晴らしい経験だった。さまざまなコンディションへの対応や、彼らがどのようなフィードバックをチームへ伝えているのかを見ることは、とても価値のある学びになった」

    「2日間を通して多くの周回を重ねることができた。風の影響で少し難しい場面もあったけれど、そのぶん学ぶことも多かった。マクラーレンF1チームとマクラーレン・ドライバー育成プログラムのみなさんには、継続的なサポートと成長の機会を与えてくれて感謝している。周回を重ねるたびに自分が成長していることを実感しているし、この先もさらに積み重ねていきたい」

    【関連】
    ・ハースF1富士TPCで見えた坪井翔と福住仁嶺起用の賛否 議論を分けたTPCの役割

  • マクラーレンF1 ハンガリーGPで大規模アップデート投入 新型フロアを実戦投入

    マクラーレンF1 ハンガリーGPで大規模アップデート投入 新型フロアを実戦投入

    マクラーレンF1は、2026年F1第11戦ハンガリーGPでMCL40に「価値あるアップグレードパッケージ」を投入すると発表した。アストンマーティンがAMR26Bを投入する週末に合わせ、マクラーレンも開発競争を本格化させる。

    アップデートの中心となるのは新型フロアで、そのほか複数の空力パーツも持ち込まれる予定だ。チームはフリー走行を通じて各パーツの性能を評価し、後半戦に向けた開発の重要な節目と位置づけている。

    新型フロアを中心にアップデートを実施
    2026年シーズン序盤は各チームが激しい開発競争を繰り広げてきたが、ここ数戦はアップデートのペースがやや落ち着いていた。しかし、夏休み前最後の一戦となるハンガリーGPでは再び開発競争が活発化する。

    マクラーレンは今回、「新しいF1時代とレギュレーションの下でのマシン開発における新たな節目となる価値あるアップグレードパッケージ」を投入すると発表した。

    アップデートの核となるのは新型フロアで、これに加えて複数の空力パーツも投入される。これらはフリー走行で評価され、その効果を詳細に分析する予定だ。

    また、一度投入が延期されていた「マカレナ」リアウイングも改良版がFP1でテストされる。ただし、このリアウイングについてはハンガリーGPおよび次戦オランダGPでレース仕様として正式投入する予定はなく、評価を継続する方針だ。

    さらにマクラーレンは、2026年シーズン後半にも追加アップデートを投入する計画であることも明らかにした。

    ブラウン代表の予告どおり開発を加速
    マクラーレン・レーシングCEOのザク・ブラウンは以前からMCL40への大型アップデートを示唆しており、今回その内容が正式に明らかになった。

    チームのシニアディレクター(レーシング)のランディ・シンは、ハンガロリンク特有の要求に対応することが重要だと説明した。

    「ハンガリーでは、これまでとはまったく異なるチャレンジが待っています。ハンガロリンクは高ダウンフォース仕様が求められ、ブレーキング時の自信、コーナー進入、そしてトラクション性能が重要になります」

    「高温コンディションに加え、連続コーナーとストレートの少ないレイアウトではタイヤマネジメントも重要な要素になります」

    さらに2026年マシン特有のパワーユニット運用にも言及した。

    「今シーズンを通じてそうであるように、1周を通したパワーユニットのエネルギー配分を最大限活用し、新しいオーバーテイク特性が戦略にどのような影響を与えるかを理解することにも注力します」

    「今週末はアップグレードパッケージも投入します。このような接戦のシーズンでは、あらゆる開発が重要です。フリー走行を通じて新しいパーツの性能を理解できることを楽しみにしています」

    後半戦へ向け重要な一戦に
    コンストラクターズランキングで3位につけるマクラーレンは、現在2位フェラーリに90ポイント差をつけられている。

    夏休み前最後となるハンガリーGPでは、新型フロアを中心としたアップデートの成否が後半戦の巻き返しに向けた重要な指標となりそうだ。アストンマーティンのAMR26Bやレッドブル・レーシングの改良型「マカレナ」リアウイングなど、各チームの開発競争にも注目が集まる。

  • マクラーレンF1代表 ノリス戦略を反省「思い切って勝負すべきだった」

    マクラーレンF1代表 ノリス戦略を反省「思い切って勝負すべきだった」

    マクラーレンF1のチーム代表アンドレア・ステラは、2026年F1ベルギーGPでランド・ノリスが7位に終わったレースを振り返り、バーチャルセーフティカー(VSC)時の戦略判断について「思い切って勝負すべきだった」と認めた。一方で、マシンには表彰台を争えるだけの競争力があったとの手応えも口にした。

    ノリスは予選3番手の速さを見せたものの、パワーユニット交換による10グリッド降格で13番手からスタート。ハードタイヤで長い第1スティントを走り、一時はレースをリードする場面もあった。

    しかし、他車がVSC中にピットストップを行うなか、マクラーレンはノリスをステイアウトさせる戦略を選択。その後の展開を考えると、この判断が結果を左右することになった。

    「思い切って勝負すべきだった」
    ステラは、当時は十分な理由があってステイアウトを選択したと説明しつつも、結果論では別の判断をすべきだったと振り返った。

    「当時はミディアムタイヤで非常に長いスティントを走ることを少し懸念していた。そして、もう一度セーフティカーやバーチャルセーフティカーが入れば、ランドは非常に有利な立場になると考えていた」

    「しかし、結果論では、ランドのミディアムタイヤでのペースを見れば、第1スティントとは違ってタイヤも比較的よく持っていた。思い切って勝負すべきだったと思う。ランドはステイアウトしている間にオーバーテイクされてタイムを失い、その後はセーフティカーも入らなかった」

    また、この判断は極めて難しいものだったとも強調した。

    「本当に50対50の判断だった。ランドは2台目のマシンだったので、ダブルスタックによるタイムロスを避けたかった。そのためステイアウトを選択したが、結果論ではピットインさせた方が良かった」

    「表彰台を争えるだけの速さはあった」
    戦略面には反省が残ったものの、ステラはマクラーレンの競争力そのものについては高く評価している。

    予選ではノリスが3番手を獲得し、決勝でも新品パワーユニットを搭載したノリスは力強い追い上げを見せた。ステラは、グリッド降格がなければ表彰台争いに加われていたとの見方を示した。

    「予選でもマシンには十分な速さがあったし、今日のレースを見ても表彰台を争えるだけのペースはあった。同時に、このマシンはベルギーのサーキットにもよく適応していた」

    一方で、現在のマクラーレンにはコースコンディションへの依存という課題も残っているという。

    「現時点では路面コンディションやグリップレベルの影響を受けやすい。我々の目標は、その変動に左右されないマシンにすることだ。クルマ自体には十分な強さがあるのだから、どのような条件でも戦えるようにしなければならない」

    アンドレア・ステラ(マクラーレン)

    ピアストリは接触ダメージが響く
    5位でフィニッシュしたオスカー・ピアストリについても、ステラは本来ならさらに上位を狙えたと分析した。

    ピアストリはレース序盤、シャルル・ルクレールとの3位争いのなかで接触し、フロア前縁を損傷。このダメージがレース全体に影響を及ぼしたという。

    「このダメージによってダウンフォースを失い、1周あたりコンマ2~3秒ほど影響を受けていた」

    「最も大きな影響は、ライバルについていくためにタイヤへ大きな負荷をかけなければならず、その結果、第2スティントでタイヤのデグラデーションが非常に大きくなったことだ」

    それでもステラは、ピアストリが週末を通じて多くを学んだと評価している。

    「オスカーはこの週末を通じて多くを学んだ。予選Q3では、パワーユニットによるわずかなタイムロスがなければランドと同じペースだった。そして今日もダメージがなければ、間違いなく上位争いに加わっていただろう」

    ベルギーGPでは戦略判断と接触という2つの要因がマクラーレンの結果を左右した。しかし、ステラはマシンの競争力には確かな手応えを示しており、今後はあらゆるコンディションで安定して表彰台を争えるパッケージへと進化させることが課題になるとの見解を示した。