F1オランダGPでレーシングブルズから実戦復帰を果たした角田裕毅に用意されていた「メディア対応メモ」の内容が明らかになった。パドックで撮影された写真に資料が偶然写り込み、チームが角田裕毅に伝えていたキーメッセージや記者からの想定質問、その回答方針の一部が読み取れる状態になっていた。
とりわけ興味深いのが、レッドブル・レーシングから出場するリアム・ローソンに関する想定問答だ。
角田裕毅ではなくローソンがアイザック・ハジャーの代役に選ばれた経緯や、ローソンの将来について質問された場合に、どこまで答えるかまで準備されていた。
写真に写り込んだ角田裕毅のメディア対応資料
F1オランダGPでは、手首を負傷したアイザック・ハジャーが欠場。レッドブル・レーシングはレーシングブルズのリアム・ローソンを代役に起用し、その空いたシートにリザーブドライバーの角田裕毅が入るというドライバー変更が行われた。
これによって角田裕毅は約8カ月ぶりにF1のレースへ復帰。突然の起用だったことに加え、なぜレッドブルのリザーブである角田裕毅がハジャーの直接の代役ではなかったのかなど、メディアから多くの質問が寄せられることが予想されていた。
そんななか、F1フォトグラファーのマイケル・ポッツがザントフォールトで撮影した写真に、角田裕毅向けのメディア対応資料が写り込んでいた。
資料には「YUKI」と記され、その下に「KEY MESSAGING(主要メッセージ)」と「POTENTIAL QUESTIONS(想定質問)」という項目が並んでいる。
主要メッセージとして確認できるのは「レースに戻れてうれしい」「両チームをサポートするためにここにいる」「チームが正しい決断をしたと信じている」「いつものようにベストを尽くす」といった内容だ。
つまり、突然の復帰を前向きに受け止める一方、レッドブルとレーシングブルズのドライバー選択についてはチームの判断を尊重し、自身の仕事に集中するという基本的なスタンスが設定されていたことになる。
「どうやって復帰を知った?」まで想定
資料には、実際に記者から飛んできそうな質問と、それに対する回答の方向性も細かく記されていた。
「出場することをどのように知ったのか?」という質問には、レッドブル・レーシングのチーム代表ローラン・メキースから電話があったと説明する回答が準備されていた。
また、復帰を知らされたときの最初の反応については、当然ながらF1のレースに戻れることに興奮した一方で、準備はできているという方向で答えるよう整理されている。
「再びF1でレースをする機会が来ると思っていたか?」という質問への回答には「F1では何が起こるか分かりません」という趣旨の文言も確認できる。
さらに、2026年のマシンで十分な走行経験を持たないまま突然レース週末に参加する難しさについても想定されており、難しい挑戦ではあるものの、限られた時間のなかでチームから可能な限りのサポートを受けるという回答方針が示されていた。
ローソンに関する質問には慎重な回答を準備
特に目を引くのがリアム・ローソンについての想定質問だ。
今回、レッドブルはリザーブドライバーの角田裕毅ではなく、レーシングブルズでレギュラー参戦しているローソンをハジャーの代役として起用した。
そのため、角田裕毅に対して「ローソンがレッドブルのシートを得たことをどう思うか」といった質問が出ることは十分に予想できた。
これについてメモでは、自身の焦点はレーシングブルズで与えられた役割にあり、チームが最善の判断をしたと考えているという方向へ回答を導く内容になっていた。
さらに、ローソンは過去にもレッドブルで走った経験を持つため、その経験が今回有利になるのかという質問も想定されている。
これに対する回答は「レギュレーションが大きく変わっていることを考えれば、そうは言えないと思います」というものだった。
「今回はローソンが以前より良いパフォーマンスを見せると思うか?」という質問についても、「新しいレギュレーションになっているので、昨年とは比較できません」とする回答が用意されている。
過去の状況と2026年のF1を直接結びつけず、ローソンのパフォーマンスについて角田裕毅自身に評価させない方針がうかがえる。
ローソンの将来は「ローランに聞いてください」
さらに踏み込んだ質問への対応も準備されていた。
「ローソンが今週末に好成績を残した場合、レッドブルでの将来が変わる可能性はあるか?」
この想定質問に対して用意されていた回答は極めてシンプルだった。
「それはローランに聞いてください」
ローランとはレッドブル・レーシングのチーム代表ローラン・メキースを指す。
ドライバーの将来やレッドブルの人事判断については角田裕毅がコメントするのではなく、決定権を持つチーム首脳へ質問を振るという明確な線引きだ。
また、資料上部には手書きで追加されたとみられる質問もあり、「ドライバーたちと話したか」「自分がそのシートを得るべきだったと思うか」と読める内容が確認されている。こちらについては回答までは確認できない。
F1ドライバーのメディア対応の舞台裏
F1チームがレース週末を前にドライバーと広報担当者の間でメディア対応について打ち合わせを行うこと自体は珍しいことではない。
ドライバーにはスポンサー、チームの人事、技術的な問題、他のドライバーとの関係など、回答次第では大きなニュースになり得る質問が数多く投げかけられる。そのため、チームが重要なメッセージや想定される質問について事前に確認しておくのは通常の広報活動の一部だ。
今回珍しかったのは、その具体的な内容が写真を通じて外部から確認できる状態になったことだ。
この資料が角田裕毅に「一字一句この通りに話す」ことを求めた台本だったと断定することはできない。実際、確認できる文章も途中で隠れているものが多く、完成した回答というよりも、受け答えの方向性を整理するためのブリーフィング資料と見るのが自然だ。
それでも、突然のF1復帰によって注目を集めた角田裕毅に対し、レーシングブルズがどのような質問を想定し、どのようなメッセージを発信しようとしていたのかが垣間見える珍しい一件となった。

角田裕毅に用意されていた実際の想定問答
写真に写り込んだ資料から確認できる主な想定質問と回答は以下の通り。資料の一部は隠れているため、判読できる範囲をもとにしている。
Q:今回レースに出場することを、どのように知りましたか?
角田裕毅:「ローランから電話がありました」
Q:出場すると聞いたとき、最初にどう思いましたか?
角田裕毅:「もちろん、またレースに戻れることに興奮しました。(中略)準備はできていると感じています」
Q:もう一度F1でレースをする機会があると思っていましたか?
角田裕毅:「F1では何が起こるか分かりません」
Q:いきなりマシンに乗るのは、どれくらい大きなチャレンジですか?
角田裕毅:「もちろんチャレンジですが、限られた時間のなかでチームができる限りサポートしてくれています」
Q:リアム・ローソンがレッドブルのシートを得たことについて、どう思いますか?
角田裕毅:「僕は自分に与えられた役割に集中しています。(中略)チームが最善の決断をしたと思っています」
Q:あなたも以前、まったく同じ状況を経験していますよね?
角田裕毅:「いいえ、そうではありません」
Q:ローソンが以前レッドブルで走った経験は、今回プラスになると思いますか?
角田裕毅:「レギュレーションが大きく変わっていることを考えれば、そうは言えないと思います」
Q:今回はローソンが以前より良いパフォーマンスを見せると思いますか?
角田裕毅:「新しいレギュレーションになっているので、昨年とは比較できません」
Q:ローソンが今週末に好成績を残せば、レッドブルでの将来が変わる可能性はありますか?
角田裕毅:「それはローランに聞いてください」
資料にはこのほかにも「ドライバーたちと話したか」「自分がそのシートを得るべきだったと思うか」といった手書きの想定質問が確認できるが、それらに対する回答は写真からは判別できない。
普段はチームとドライバーの間だけで共有されるこうした資料が表に出ることはほとんどない。角田裕毅のF1復帰という注目度の高い状況で、レーシングブルズがどの質問を想定し、どこまで角田裕毅本人に答えさせる方針だったのか。その舞台裏を垣間見ることのできる興味深い資料となっている。