ホンダは、2026年F1第12戦オランダGPで実戦投入する新スペックのパワーユニット(PU)について、7月末にハンガロリンクで実施した初走行で「信頼性と性能の両面で内部目標を達成した」と明らかにした。
ホンダ・レーシングのF1チーフエンジニアを務める折原慎太郎によれば、新PUは7月29日のフィルミングデーでアストンマーティンAMR26Bに初めて搭載された。走行距離などに制限があるなかでも、実車からドライバビリティに関する有益なデータを収集。オランダGPに向けてベンチ上でセッティングの最適化を進めている。
新PUをAMR26Bに初搭載
アストンマーティンは前戦ハンガリーGPでAMR26Bに大規模なアップデートを投入し、シーズン前半に苦戦していた状況から中団争いへと前進した。そしてザントフォールトでは、ホンダ側もPUのアップデートを投入する。
ホンダはADUO(追加開発・アップグレード機会)によって認められた開発余地を活用し、内燃エンジンを中心に改良した新スペックを用意。その実戦投入に先立ち、7月29日にハンガロリンクで行われたフィルミングデーでAMR26Bに搭載した。
フィルミングデーは走行距離が200kmに制限され、通常のレース用タイヤではなくデモンストレーション用タイヤを使用するなど、本格的なテストとは条件が異なる。それでもホンダにとっては、新PUを実際の車体に搭載して確認する最初の重要な機会となった。
「フィルミングデーでしたので、学習できるプログラムには限りがありました。ただ、実際にコースを走れば必ず何かを発見できます」
折原慎太郎はそう説明する。
「まず、新しいエンジンスペックをシャシーに搭載したのはこれが初めてでしたが、パワーユニットが期待どおりに機能することを確認できました。それはポジティブでした」
ドライバビリティで「興味深いデータ」
ホンダがハンガロリンクで得た収穫は、単純にPUが正常に作動したという確認だけではなかった。特に重要だったのが、エンジンとシャシーを組み合わせた際のドライバビリティに関するデータだったという。
「ドライバビリティについて、いくつか興味深いデータを見つけることができました」
「そのデータをベンチに持ち帰り、今回のオランダGPに向けてセッティングを最適化しました。私たちにとって良い前進になりましたし、もうひとつポジティブだったのは、問題なく予定していた学習プログラムをすべて完了できたことです」
実車で得られたデータをベンチテストへフィードバックし、ザントフォールトに向けて制御やセッティングを調整したことになる。
シーズン前半のAMR26では振動も課題のひとつとして表面化していたが、新PUについて折原慎太郎は現時点で懸念していない。
「現在、振動について心配していることはありません。ですから、今のところ問題は起きないと確信しています」
「魔法のアップデートではない」
一方、折原慎太郎は新PUによって勢力図が一変するとの見方には慎重だ。
「F1では現実的でなければなりませんので、魔法のようなアップデートを持ち込むことはできません。ただ、今回のアップデートによって、いくつか良いステップを踏めると考えています」
ホンダは2026年からアストンマーティンのワークスパートナーとしてF1に復帰したが、シーズン前半はライバルメーカーに対する性能面の遅れや信頼性の問題に直面してきた。
折原慎太郎も、依然としてトップのPUメーカーとの差が残っていることを認める。
「主要なライバルに対して、まだいくらか不利な部分があります。ただ、ハンガリーではアストンマーティンが大きなアップデートを投入し、中団に戻ることができました」
そこで重要になるのが、わずかなラップタイムの改善だ。
「中団では50ミリ秒や100ミリ秒が順位を上げるうえで非常に重要になります。今回のアップデートによって、そのようなラップタイムの改善をもたらすことができると考えています」
つまりホンダが新PUに期待しているのは、一気にトップ勢へ追いつくほどの飛躍ではなく、0.05~0.1秒単位の改善を積み重ね、接戦の中団でアストンマーティンを押し上げることだ。

バッテリーは変更せず 内燃エンジンを改良
今回のアップデートでは、バッテリーや発電システムそのものには変更が加えられていない。一方で、内燃エンジンの性能向上は電気エネルギーのデプロイにも間接的な効果をもたらす。
「バッテリーや発電システムについては何も変更していません。ただ、エンジン性能を向上させることはパワーデプロイにも役立ちます」
「ですから、新しいエンジンスペックによって私たちのパワーデプロイがどのように機能するのか確認していきます」
2026年F1のPUでは内燃エンジンと電動システムをどのように組み合わせ、限られたエネルギーをラップ全体で効率的に使用するかが重要な性能要素となっている。そのため、内燃エンジン側の効率改善は電動側の使い方にも影響を与えることになる。
信頼性と性能「内部目標を達成」
ホンダは新PUの投入時期を急がず、性能向上と同時にシーズン前半に経験した信頼性上の問題を解消することを重視してきた。
折原慎太郎によれば、実車へ搭載する前にベンチ上で十分な検証を行い、必要な信頼性を確認したという。
「このエンジンについては、求めていた性能を見つけるところまで持っていくために多くの時間をかけました。同時に、信頼性の問題も解決してきました」
「このエンジンを投入する前に、ベンチ上で信頼性を実証しています。ですから、信頼性と性能の両方について、私たちの内部目標を達成できたと考えています」
オランダGPは2027年へ向けた重要な検証
ザントフォールトでの実戦投入は、単に2026年シーズン後半の競争力を高めるだけのアップデートではない。ホンダにとっては、今後のPU開発の方向性そのものを確認する意味も持っている。
「今回のイベントについて重要なのは、私たちの開発ロードマップの一部だということです」
「実際のコースで私たちの方向性が正しいことを確認できれば、正しい方向に開発を進められているという自信につながります」
ハンガロリンクでは、新PUがAMR26Bとの組み合わせで想定どおりに作動することを確認し、ドライバビリティについても新たなデータを得た。さらにベンチ上で信頼性と性能の内部目標をクリアしたというホンダ。次の段階は、レースウイークという厳しい環境でその成果を証明することになる。
アストンマーティンがAMR26Bのアップデートで中団へと前進したなか、ホンダの新PUが50~100ミリ秒という接戦を左右する差を生み出せるのか。ザントフォールトで行われるオランダGPは、2026年後半戦だけでなく、ホンダの今後のF1開発ロードマップを占う重要な実戦テストとなる。
