メルセデスF1は、2026年F1スペインGPでジョージ・ラッセルに採用した意外な2ストップ戦略について、その狙いを明らかにした。ハードタイヤでスタートしながらVSC(バーチャル・セーフティカー)中にピットインしたのは、同じハードで前を走っていたシャルル・ルクレールと異なる戦略を取るためだった。
オーバーテイクが極めて難しかったマドリンクでは、同程度のタイヤを履いたままルクレールの後方を走り続けても順位を上げる可能性は低かった。
そこでメルセデスはラッセルをミディアムに交換し、その後再びハードへ戻す2ストップを選択。結果的にこの戦略はルクレールへのプレッシャーとなり、キミ・アントネッリの優勝にも間接的に貢献した。
VSCはラッセルにとって「最悪のタイミング」
ラッセルとルクレールはともにハードタイヤでF1スペインGPをスタートした。しかしVSCが導入されると、フェラーリはルクレールをコース上に残した一方、メルセデスはラッセルをピットへ呼び、ミディアムタイヤを装着した。
ルクレールはそのまま首位を走り、45周目までピットストップを引き延ばした。対してラッセルはミディアムで約20周を走った後、28周目に再びピットインしてハードへ交換した。
メルセデスF1の副チーム代表ブラッドリー・ロードは、VSCのタイミングそのものはラッセルにとって好都合ではなかったと説明した。
「ジョージにとってVSCはまったく違う展開になった。彼はハードタイヤでスタートして長いスティントを走り、その後レース中に起こる何らかの出来事を利用するつもりだったから、最悪のタイミングでVSCが出たと言える」
「彼は6番グリッドからハードタイヤでスタートし、1ストップで走る予定だった。VSCが出た時点で、ハードタイヤを履いているマシンの中ではフェラーリのルクレールに続く2台目だった。そのため、我々はジョージにルクレールと逆のことをさせた」
同じ戦略ではルクレールを抜けないと判断
メルセデスが戦略を変更した最大の理由は、マドリンクでのオーバーテイクの難しさだった。同じような使用歴のタイヤでルクレールの後ろを走り続ければ、そのまま順位が固定される可能性が高いと判断した。
「なぜか。それをしなければ、彼はただルクレールの後ろについてフィニッシュまで走ることになったからだ」
「アンダーカットできるチャンスは非常に、非常に限られていたし、同程度の使用歴のタイヤを履いたマシン同士では、オーバーテイクのチャンスは事実上なかった。そこでジョージにミディアムを履かせた」
ただし、ミディアムでそのままチェッカーまで走り切ることは最初から想定していなかった。
「そのミディアムが残り43周を持たないことは分かっていた。それでも違うことを試すことで、ジョージは約20周のスティントを走り、その後もう一度ハードに戻した。レースのできるだけ長い部分をハードで走りたかったからだ」
「そこからジョージは本当に印象的なペースを発揮した」

ラッセルの速さがルクレールのピットインを誘発
新品タイヤを履いたラッセルのペースは、前方を走るルクレールに対してフェラーリが反応せざるを得ない状況を作り出した。
「彼は十分に速く走っていたので、実際にはフェラーリが望んでいたよりも早くルクレールをピットに入れさせることができたと思う」
「それによってルクレールをピットへ引き込み、前を走るキミにはクリーンエアが与えられた。同時にジョージも終盤、かなりデリケートだったソフトタイヤを履くルクレールにプレッシャーをかけることができた。そして最終的にはわずか0.7秒差でレースを終えた」
ルクレールを予定より早くピットへ向かわせたことで、前方のアントネッリには自由に走れる状況が生まれた。メルセデスにとってラッセルの戦略は、自身の順位を上げるだけではなく、チームメイトのレース展開にも影響を与えるものとなった。
ラッセル本人は「結局5位だったと思う」
一方、ラッセル自身はレース後、戦略の違いが最終順位を大きく変えたとは考えていなかったという。
「レース後、ジョージは非常に現実的だった。我々が何をしたかは、それほど重要ではなかったと思うと言っていた」
「コース上に残していても、ピットストップさせていても、マドリンクではオーバーテイクがあれほど難しかったことを考えれば、どちらにしてもおそらく5位でフィニッシュしていただろう、と」
結果としてラッセルは5位に終わったものの、メルセデスF1が選んだ2ストップは単純なタイヤ交換ではなく、ルクレールと同じ戦略から抜け出すための戦術的な判断だった。ラッセルの終盤のペースによってフェラーリに対応を迫り、アントネッリの前方を開ける効果も生み出したことで、チーム全体のレース展開に重要な役割を果たした。
