メルセデスF1のチーム代表トト・ヴォルフは、2026年F1パワーユニット(PU)でライバルに後れを取っているホンダについて、既存のキャッチアップ制度だけでは十分でない場合、規則をさらに調整することに理解を示した。
FIAはすでにADUO(Additional Development and Upgrade Opportunities/追加開発・アップグレード機会)を導入しており、一定以上の性能差が確認されたPUメーカーには追加開発を認めている。
ホンダも対象となっているが、ヴォルフはF1に参戦する主要メーカーが競争力を持つことはスポーツ全体にとって重要だとの考えを示した。
ライバルのメルセデスもホンダへの追加措置に理解
発端となったのは、FIA会長モハメド・ビン・スライエムがF1スペインGPを前にマドリードで行われたビジネスフォーラムで語った発言だった。
ビン・スライエムは、アストンマーティンとホンダの現在の競争力を背景にフェルナンド・アロンソがF1引退を選択する可能性について言及し、ホンダの改善を支援するための話し合いを行っていることを明かした。
「我々は5月にも、規則に沿った形でチームとエンジンを改善するためのことを行った」とビン・スライエムは説明した。
さらにアロンソとの会話について「彼に『我々が何をするつもりなのかは言わない。あなたはドライバーなのだから、結果を改善するために我々に何をしてほしいのか教えてほしい』と伝えた」と明かし、「我々は支援するためにもここにいる」と語った。
この発言は、FIA会長が特定メーカーやドライバーの競争力向上にどこまで関与すべきなのかという議論を呼んだ。
しかし、ヴォルフはビン・スライエムとアロンソの話し合い自体には問題はないとの見方を示している。
「この場合、ADUOはキャッチアップのための仕組みとして設計されたものだと思う。そして、その制度はホンダに適用された」
ヴォルフはF1スペインGPのマドリードでそう語った。
「そして、彼らにはもっと必要だ。会長がアロンソと行った話し合いについても、妥当なものだと思う」
「我々は、こうしたトップコンストラクターすべてにこのスポーツにいてほしい」
「彼らには競争力を持ち、成功してほしいと思っている」
「規則というものは、スポーツにとって最善となるように作られている。そして、ときには調整が必要になることもある。だから、妥当な話し合いだと思う」

ホンダはすでにADUOの最大枠を獲得
2026年から導入されたADUOは、PUメーカー間に大きな性能差が生じた場合に、それを縮小するためのキャッチアップ制度である。FIAはシーズン中の定められた評価期間ごとにICE(内燃エンジン)のパフォーマンスを分析し、トップメーカーとの差に応じて追加のホモロゲーションやダイノテスト、コストキャップ上の措置を認める。
FIAが8月26日に公表した2026年の評価結果では、第1評価期間にメルセデスがトップICEから2~4%の範囲、フェラーリ、アウディ、ホンダが4%を超える差と判定された。
これによりメルセデスには2026年と2027年にそれぞれ1回、フェラーリ、アウディ、ホンダにはそれぞれ2回の追加ホモロゲーション機会が認められた。ホンダは現行ADUOで設定されている最大のキャッチアップ枠をすでに得ていることになる。
一方、第2評価期間では、いずれのPUメーカーにも新たな追加ホモロゲーションは付与されなかった。FIAは具体的な性能指数については、メーカーの機密情報や知的財産を理由に公開していない。
つまり、ヴォルフが「彼らにはもっと必要だ」と語った背景には、ホンダが現行制度で最大限の追加開発機会を与えられているにもかかわらず、アストンマーティン・ホンダが依然として競争力の向上を必要としているという状況がある。
FIAシングルシーター部門ディレクターのニコラス・トンバジスも、ADUOについて「今年が初年度であり、PUメーカーとの協議を通じて今後発展させていく可能性のある領域が当然存在する」と説明しており、制度そのものが将来的な見直しを前提としている。
2026年規則はすでにシーズン中に修正
2026年のF1規則は固定されたものではなく、シーズン開幕後も実際の走行データを基に複数の調整が行われている。
FIAは4月、開幕3戦で収集したデータを基に、F1、各チーム、PUメーカーとの協議を経て規則の改良案に合意。さらに5月にはチーム代表、F1、5つのPUメーカーが参加する会議で、2026年規則をさらに進化させるための変更案について原則合意した。
そのため、ヴォルフが示した「必要なら規則を調整する」という考え方自体は、2026年シーズンにすでに採られている規則運用の延長線上にある。
ただし、今後ホンダにさらなる開発機会が認められるとしても、それが特定メーカーだけを対象とした措置になるのか、ADUOの基準や許容範囲そのものを変更する形になるのかは現時点では明らかになっていない。
ホンダはF1オランダGPで大規模なPUアップグレードを投入したが、アストンマーティンは依然として上位争いへの浮上に苦戦している。そんななか、直接のライバルであるメルセデスを率いるヴォルフが、ホンダの競争力向上を目的とした制度のさらなる調整に理解を示したことは、今後のADUOを巡る議論を考えるうえで注目される発言となった。
