カテゴリー: トヨタ

  • 勝田貴元 涙のWRC初優勝 日本人34年ぶりの歴史的快挙

    勝田貴元 涙のWRC初優勝 日本人34年ぶりの歴史的快挙

    3月15日(日)、2026年FIA世界ラリー選手権(WRC)第3戦「サファリ・ラリー・ケニア」の最終日デイ4が、ケニアのナイバシャを起点に行われた。TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team(TGR-WRT)の勝田貴元/アーロン・ジョンストン組(GR YARIS Rally1 18号車)がWRC初優勝を達成。TGR-WRT2からエントリーしたサミ・パヤリ/マルコ・サルミネン組(5号車)は総合3位を獲得した。

    また、前日のデイリタイアから再出走したオリバー・ソルベルグ/エリオット・エドモンドソン組(99号車)は総合10位、セバスチャン・オジエ/ヴァンサン・ランデ組(1号車)は総合11位、エルフィン・エバンス/スコット・マーティン組(33号車)は総合13位でフィニッシュした。

    サファリ・ラリー・ケニアの最終日デイ4は、ナイバシャ湖の南側エリアで「オセレンゴニ」と「ヘルズゲート」という2本の定番ステージを各2回走行。4本のステージの合計距離は57.40kmだった。

    最終日は朝から良い天気に恵まれ、路面コンディションは概ねドライ。一部には湿ったセクションも残っていた。

    首位を争っていたチームメイトたちのデイリタイアもあり、勝田はデイ3でラリーをリードする立場となった。総合2位のアドリアン・フォルモー(ヒョンデ)に1分25.5秒、総合3位のパヤリに4分45.8秒の差をつけてデイ4に臨んだ。

    2位以下に対し十分なリードを築いていたことから、勝田は確実性を最優先に走行。オープニングのSS17オセレンゴニ1では7番手タイムを記録し、3番手だったフォルモーとの差は1分8.8秒となった。

    続くSS18ヘルズゲート1では9番手タイム。4番手だったフォルモーとの差は1分0.3秒に縮まった。

    SS17の再走となるSS19オセレンゴニ2でも勝田は堅実な走りを続け、8番手タイムを記録。6番手だったフォルモーとの差は42秒まで縮まった。

    そして迎えた最終のSS20ヘルズゲート2はボーナスポイントがかかるパワーステージ。勝田は9番手タイムで走り切り、総合2位フォルモーを27.4秒差で抑え切り、WRC初優勝を達成した。

    日本人ドライバーがWRCで総合優勝を果たしたのは、アフリカのラリー・コートジボワールを1991年と1992年に制した篠塚建次郎以来となる。また、サファリ・ラリーでは、2リッター・ワールド・ラリー・カップ(W2L)の一戦として開催された1995年大会で、トヨタ・セリカGT-FOURを駆り優勝した藤本吉郎以来となる2人目の日本人ウイナーとなった。

    WRCでもっとも過酷なイベントとして知られるサファリ・ラリーに、これまで勝田は5回出場し3回表彰台に立っている。2021年はWRC初ポディウムとなる総合2位、2022年は総合3位、2024年は再び総合2位を獲得した。

    2025年も最終日まで表彰台争いに加わっていたが、最終ステージでロールオーバー。ステージは最後まで走り切るも完走はならなかった。

    そして勝田は今年、昨年悔し涙を流した因縁のステージで優勝を決め、嬉し涙でラリーを締めくくった。

    勝田の今回の勝利により、TGR-WRTはサファリ・ラリーが2021年にWRCのシリーズに復活して以来、負けなしの6連覇を達成。トヨタとしては通算14回目のサファリ・ラリー制覇となった。

    総合2位フォルモーとも、総合4位エサペッカ・ラッピ(ヒョンデ)とも大きな差がついていたパヤリは、確実性の高い走りで4本のステージを走破。前戦ラリー・スウェーデンに続く総合3位表彰台を獲得した。

    デイ3で首位を走行しながらもトラブルによりリエゾン(移動区間)でデイリタイアとなったソルベルグは、TGR-WRTのメカニックによって修理されたマシンで再出走。最終日は、同じくリエゾンで止まり再出走したオジエを抑え、総合10位でフィニッシュした。

    さらにSS19と最終SS20でベストタイムを記録し、パワーステージを制覇。日曜日のステージのみの合計タイムで競われる「スーパーサンデー」でも最速となり、最大となる10ポイントのボーナスを獲得した。

    オジエはSS17でベストタイム、SS19とパワーステージでは2番手タイムを記録。総合11位でフィニッシュし、スーパーサンデーでは2位となった。

    デイ3でマシンにダメージを負いデイリタイアとなったエバンスは、SS18でベストタイムを記録。パワーステージは3番手タイムで走り切り、総合13位でフィニッシュした。

    スーパーサンデー3位によるボーナスポイントも獲得し、ドライバー選手権では2位ソルベルグに8ポイント差、3位勝田に11ポイント差で首位を守った。

    なお、TGR-WRTはマニュファクチャラーズ選手権でも首位を維持している。

    サポート選手権のWRC2にGR Yaris Rally2で出場したガス・グリーンスミス(イギリス)はクラス2位、総合6位を獲得。ディエゴ・ドミンゲス(パラグアイ)はクラス5位、総合9位でフィニッシュした。

    勝田貴元 WRC(世界ラリー選手権)

    豊田章男(TGR-WRT会長)
    ”世界で勝てる日本人ラリードライバー”が
    日本の子供たちの憧れになる日が来てほしいとずっと思っていました。

    憧れの存在がいれば
    それを超えていこうとする子供や若者が現れます。

    勝田貴元を超えたい!と頑張る子供や若者が
    日本のモータースポーツのレベルを上げていってくれます。

    この勝利は、そんな日本の若者たちへの本当に大きなプレゼントになりました。
    貴元、ありがとう!

    貴元には、もっともっと”すごい憧れ”の存在になっていって欲しい。
    ラリージャパンで、そんな姿を見せましょう!

    一方、他のドライバーたちには
    辛いラリーをさせてしまいました。

    またみんなでポディウムに立てるよう
    サファリでの学びを次に活かしていこう!

    チームのみんなよろしく頼みます。

    ユハ・カンクネン(チーム代表代行)
    貴元とアーロンがこのラリーで優勝したことを、チーム全員が心から喜んでいます。これまで何度も優勝にあと一歩というところまで迫っていましたが、今回の勝利はまさに彼らにふさわしいものです。貴元は素晴らしいドライバーですし、日本人ドライバーが再びWRCのラリーで優勝する姿を見ることができたのは、私たちにとって本当に嬉しいことです。サファリ・ラリーは41年前、私がWRCで初優勝したラリーでもあり、これほど難易度の高いイベントで優勝できたというのは、まさに特別なことです。今回のサファリ・ラリーは、WRCのカレンダーに復帰して以来、最も過酷なラリーでしたし、私たちにとってもジェットコースターのような週末でした。昨日は3台がリタイアするという大惨事もありましたが、オリバー、セブ、エルフィンは今日懸命にプッシュし、チームのために日曜日のポイントを最大限獲得してくれました。貴元が優勝し、サミも多くのステージ優勝を含む素晴らしい走りで再び表彰台に立ったので、我々としては大いに喜ぶことができます。

    エルフィン・エバンス(GR YARIS Rally1 33号車)
    間違いなくタフな週末でした。頭を使って走ろうとしましたが、それでもラリー全体を走り切ることはできませんでした。ラリーではこのようなことも時々あるのは分かっています。今日の走りにも少しがっかりしています。午前中の最初のステージはかなり遅く、コンディションも理想的ではありませんでした。頑張ったのですが、期待していたほどのポイントは獲得できませんでした。それでもチャンピオンシップの首位を維持できているのは嬉しいですし、次のクロアチアが楽しみです。貴元とアーロンは一生懸命努力してきたので、この勝利は彼らにふさわしいと思いますし、とても嬉しいです。

    セバスチャン・オジエ(GR YARIS Rally1 1号車)
    今日はできる限り多くのポイントを獲得しようと努めましたが、パワーステージのようなコンディションで限界までプッシュをするのは決して簡単ではありません。轍の中ではクリーンに走ることを心がけましたが、本気でプッシュすればもっと速く走れたはずです。スピードという点では良い週末だったと思いますが、このラリーは一年の中でスピードが最も重要ではないイベントでもあります。それでも、貴元がチームと自分自身のために優勝を勝ち取り、本当に嬉しいです。長年の努力が報われた、まさに彼にふさわしい勝利です。

    オリバー・ソルベルグ(GR YARIS Rally1 99号車)
    今日の目標は、昨日の悔しさを晴らすために最後の力を出し切ることでした。とにかく挽回しようと全力を尽くしましたが、スーパーサンデーとパワーステージで優勝するという素晴らしい一日になりました。挽回するためにできる限りのことをやり切ったので、今日の結果には本当に満足しています。自分たちが優勝できなくとも、貴元とアーロンがラリーで勝ったことを嬉しく思います。これまでの貴元の努力と情熱を考えれば、彼は本当にこの勝利にふさわしいと思います。

    勝田貴元(GR YARIS Rally1 18号車)
    この結果を成し遂げることができて、本当に素晴らしい気分です。フィニッシュラインを通過した時の気持ちを言葉で表わすのは難しいですが、とにかくクレイジーでした。これまで本当に多くの困難な瞬間を経験してきたので、それらの記憶が頭の中を駆け巡りました。決して楽な道のりではありませんでしたが、ついにここまで来ることができました。自分と一緒に一生懸命努力してくれたアーロン、そして常に僕を信じてくれたチームの皆に感謝します。今日は小さな岩ひとつひとつが目に入ってしまい、それを避けるのは本当に大変でしたが、何も問題なく走り切ることができました。こんなにも強いクルマとサポートを提供してくれたチームに感謝します。自分たちがここまで来られたのは決して諦めなかったからですし、これからもこのような結果を出せるように努力し続けます。

    サミ・パヤリ(GR YARIS Rally1 5号車)
    再び表彰台に立つことができて本当に嬉しいです。今回はまさに冒険のような、非常にタフなラリーでしたが、それがこのイベントの本質です。特に金曜日に発揮したパフォーマンスは良かったと思いますし、ベストタイムを5本記録することができたので最高です。今日も自分たちにスピードはありましたが、とにかくトラブルなく完走することが一番重要でした。一週間を通してクルマを最高の状態に保ってくれたチームに感謝します。また、貴元とアーロンの初優勝を、私とマルコは本当に嬉しく思っています。

    サファリ・ラリー・ケニアの結果
    1 勝田 貴元/アーロン・ジョンストン(トヨタ GR YARIS Rally1)3h16m05.6s
    2 アドリアン・フォルモー/アレクサンドレ・コリア(ヒョンデ i20 N Rally1)+27.4s
    3 サミ・パヤリ/マルコ・サルミネン(トヨタ GR YARIS Rally1)+4m26.1s
    4 エサペッカ・ラッピ/エンニ・マルコネン(ヒョンデ i20 N Rally1)+6m07.3s
    5 ロバート・ヴィルヴェス/ヤッコ・ヴィッロ(シュコダ Fabia RS Rally2)+11m37.8s
    6 ガス・グリーンスミス/ヨナス・アンダーソン(トヨタ GR Yaris Rally2)+12m09.0s
    7 ファブリツィオ・ザルディヴァー/マルセロ・デル・オハネシアン(シュコダ Fabia RS Rally2)+12m20.0s
    8 アンドレアス・ミケルセン/ヨルン・リストゥルード(シュコダ Fabia RS Rally2)+12m30.7s
    9 ディエゴ・ドミンゲス/ロヘリオ・ペナーテ(トヨタ GR Yaris Rally2)+13m28.4s
    10 オリバー・ソルベルグ/エリオット・エドモンドソン(トヨタ GR YARIS Rally1)+16m44.5s
    11 セバスチャン・オジエ/ヴァンサン・ランデ(トヨタ GR YARIS Rally1)+17m30.7s
    13 エルフィン・エバンス/スコット・マーティン(トヨタ GR YARIS Rally1)+26m20.9s

    (現地時間3月15日19時00分時点のリザルト)

    第3戦終了時点でのドライバー選手権順位
    1 エルフィン・エバンス 66ポイント
    2 オリバー・ソルベルグ 58ポイント
    3 勝田 貴元 55ポイント
    4 アドリアン・フォルモー 47ポイント
    5 サミ・パヤリ 32ポイント
    6 セバスチャン・オジエ 26ポイント
    7 ティエリー・ヌービル 25ポイント
    8 エサペッカ・ラッピ 21ポイント
    9 ロバート・ヴィルヴェス 10ポイント
    10 ガス・グリーンスミス 8ポイント

    第3戦終了時点でのマニュファクチャラー選手権順位
    1 TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team 157ポイント
    2 Hyundai Shell Mobis World Rally Team 114ポイント
    3 TOYOTA GAZOO Racing WRT2 35ポイント
    4 M-Sport Ford World Rally Team 23ポイント

    次回のイベント情報
    WRC次戦は4月9日から12日にかけてクロアチアで開催される「クロアチア・ラリー」だ。2021年にWRCとして初開催されたイベントで、今回は2年ぶりの開催となる。

    ホストタウンは首都ザグレブから、アドリア海に近い都市リエカへと移動する。ターマック(舗装路)のステージは路面コンディションの変化が大きく、グリップが変わりやすいのが特徴だ。

    コースは中高速コーナーとテクニカルなコーナーがミックスされた、攻め甲斐のあるステージで構成されている。

  • トヨタ自動車、近健太氏が社長就任 現職の佐藤恒治氏は副会長就任

    トヨタ自動車、近健太氏が社長就任 現職の佐藤恒治氏は副会長就任

    トヨタ自動車は2月6日、2026年4月1日付の役員人事および第122回定時株主総会後の取締役体制について発表した。

    執行役員の近健太が社長およびChief Executive Officer(CEO)に就任し、現職の代表取締役社長である佐藤恒治は、代表取締役副会長に就くとともに、新設されるChief Industry Officer(CIO)を兼務する。

    今回の人事では、佐藤が副会長・CIOとしてトヨタにとどまらず産業全体に軸足を置き、近が社長・CEOとして社内経営に専念する新たなフォーメーションへ移行する。トヨタはこの体制変更について、経営スピードの向上と、「産業報国」という使命を果たすための体制整備が目的だとしている。

    背景には、自動車産業を取り巻く事業環境の厳しさがある。国際競争力強化に向け、業界連携を実践的に加速する必要がある中で、佐藤が日本自動車工業会の会長として果たす役割の重要性が高まっている。また、佐藤は2025年5月に経団連副会長に就任しており、日本の産業競争力強化に向けた政策提言や産業連携の推進も期待されている。

    一方でトヨタ社内では、「もっといいクルマをつくり続ける」ための基盤となる「稼ぐ力」の向上や損益分岐台数の改善が喫緊の課題となっている。機能分業にとどまらず、バリューチェーン全体を見据えた改革が求められる中、Chief Financial Officerとして収益構造改善を主導してきた近が、その役割を担うことになる。近は、ウーブン・バイ・トヨタでの経営経験も含め、機能を超えた経営に携わってきた。

    トヨタでは、経営トップの人事を長期的視点で検討すべき重要テーマと位置付け、役員人事案策定会議において将来の候補者検討を継続してきた。昨年10月には、日本自動車工業会から佐藤に対し、次期会長就任の要請があり、取締役会は2026年1月からの会長就任を承認している。

    これを受け、トヨタの執行トップ、自工会会長、経団連副会長という役割を同時に担うことの影響について議論が行われ、個々の特性と環境変化を踏まえた最適な体制として今回の人事案がまとめられた。2月6日の取締役会で提案され、決議された。

    4月1日付の役職変更では、佐藤恒治が代表取締役副会長およびChief Industry Officerに、近健太が社長およびChief Executive Officerに就任するほか、宮崎洋一が代表取締役副社長およびChief Financial Officerに就く。

    また、第122回定時株主総会後には、佐藤恒治が取締役を退任し、副会長・Chief Industry Officerとしての役割に専念する予定となっている。新たに近健太が代表取締役社長として取締役に選任される予定で、これらは株主総会での承認および総会後の取締役会を経て正式決定される。

  • ジャック・ドゥーハン、ハースF1チームのリザーブドライバーに就任

    ジャック・ドゥーハン、ハースF1チームのリザーブドライバーに就任

    ジャック・ドゥーハンが、2026年F1シーズンに向けてTGRハースF1チームのリザーブドライバーとして加入することが発表された。

    ハースは、2026年F1キャンペーンに向けた体制の一環として、元アルピーヌのドライバーであるジャック・ドゥーハンと契約を結んだ。ドゥーハンは、平川亮とともにリザーブドライバーを務める。

    元アルピーヌのF1ドライバーであるドゥーハンは、500ccクラスで5度の世界王者に輝いたミック・ドゥーハンの息子。2023年と2024年にアルピーヌのリザーブドライバーを務めた後、2024年アブダビGPから2025年シーズン開幕6戦まで、計7レースにわたってレースドライバーとして起用された。

    その後、フランコ・コラピントの起用により再びリザーブに戻り、2025年シーズン終盤をその役割で過ごしたが、先月エンストン拠点のチームと袂を分かっていた。

    バーレーンでの公式プレシーズンテスト開始を翌週に控え、ハースはドゥーハンの加入を正式に発表。アメリカ拠点のチームは、2026年型マシンの開発を進めながら、新時代に向けた準備を本格化させている。

    「TGRハースF1チームに加入できて本当にうれしい」とドゥーハンは語った。

    「ここは、僕のF1キャリアを続けていくうえで理想的な場所だと思っている。チームが成長の機会を与えてくれたこと、そして2026年という大きなチャレンジに一緒に取り組めることに感謝している。チームと仕事を始め、成功したシーズンに向けて協力していくのが待ちきれない」

    ジャック・ドゥーハン ハースF1チーム

    一方、チーム代表の小松礼雄も、ドゥーハンの加入を歓迎している。

    「彼のこれまでのレースキャリアの強さや、F1でリザーブドライバーを務めてきた経験を考えると、個人的にもジャックがチームに加わってくれることをとてもうれしく思っています」

    「チームのやり方を理解しながら、常にレースに出られる準備を保つというのは、どのドライバーにとっても簡単なことではありません。特に、再びこのレベルで走りたいという強い意欲を持っているドライバーにとっては、なおさらだと思います。これまでジャックと話を重ねる時間を楽しんできましたし、彼をチームに迎え入れ、その貢献を得られることを楽しみにしています」

    ハースは、他チームと同様に2026年型マシンの作業を継続中で、2回に分けて行われるバーレーンでの3日間テストに向けて準備を進めている。最初のテストは2月11日にスタートする予定だ。

  • トヨタがTF109で仕掛けた“偽フロントウイング” F1ライバルを欺いた舞台裏

    トヨタがTF109で仕掛けた“偽フロントウイング” F1ライバルを欺いた舞台裏

    トヨタTF109は、トヨタがF1から撤退する直前に投入した最後のマシンだった。7年間にわたる参戦の末、世界的な金融危機の影響を受けてプログラムは終了するが、その時点ですでに2010年型マシンは完成し、レースに出られる状態にあった。

    この撤退は、無制限に近い予算が投入されていた「過剰な時代」の終焉を象徴する出来事でもあった。

    トヨタはケルンの拠点に最新鋭の風洞を2基保有し、24時間体制で稼働させていた。空力部門のオフィスは、その2基の風洞をまたぐ橋の上に設けられ、常に新しいアイデアが実験に投入されていた。

    TF109の開発過程で生まれた数多くのアイデアの中に、後にF1の空力設計史に残る“欺瞞”があった。その中心人物が、当時若手だったCFDエンジニア、サミー・ディアシノスだ。

    ディアシノスはオーストラリア出身のCFDエンジニアで、トヨタF1加入時は空力分野で博士課程を修了したばかりだった。研究テーマは、フロントウイングと前輪の相互作用。従来は個別に研究されることが多かった2つの要素を、CFDと風洞試験を組み合わせて包括的に解析するという、当時としては最先端のアプローチだった。

    彼が航空宇宙工学を志したきっかけは、ハーベイ・ポスルスウェイトの助言だった。ヘスケス、ティレル、フェラーリ、ホンダで活躍した名エンジニアは、専門誌で「F1を目指す学生の理想的な進路」を示しており、それをディアシノスは忠実に実行した。

    「F1を見て育った普通のティーンエイジャーだった。ドライバーになりたいとは思わなかった。設計したかったんだ」とディアシノスは語る。

    「レースカー・エンジニアリング誌を読み、ポスルスウェイトが書いていた進路をそのまま辿った。航空宇宙工学を学び、車両力学か空力で博士号を取る。それがF1への近道だと書かれていた」

    高校時代から模型車両をいじり、ワールド・ソーラーカー・チャレンジにも参加。大学ではニューサウスウェールズ大学のソーラーカーチームを率いたが、博士課程に進む条件としてプロジェクトからは一度離れることになった。

    その代わり、彼は地元のモータースポーツ界に飛び込み、フォーミュラ4000や当時のV8スーパーカー下部カテゴリーでレースエンジニアとして活動する。報酬はなく、経験を積むための完全なボランティアだった。

    その学術的成果と現場経験が評価され、2007年、トヨタF1のCFDエンジニアとしてヨーロッパに渡ることになる。

    2009年シーズンを前に、FIAは大幅なレギュレーション変更を導入した。フロントウイングは前輪と完全にオーバーラップする形状が認められ、これはディアシノスが博士論文で研究してきたテーマそのものだった。

    「僕の博士研究は、フロントウイングと前輪がどの程度重なるか、その影響を調べることだった。完全に重ならない状態から、完全に重なる状態まで、迎角や高さを変えて解析していた」

    「2009年のルールは、まさにそれを現実のマシンでやることを要求してきた。完璧なタイミングだった」

    彼はフロントウイング開発チームの一員となり、新しいエンドプレートのコンセプトを提案する。ダブルディフューザーが注目を集めていた時代だが、トヨタはフロントウイングでも独自の解を持ってシーズンを迎えようとしていた。

    しかし、トヨタのエンジニアたちは分かっていた。革新的なパーツは、姿を見せた瞬間からライバルに解析され、コピーされるということを。

    そこで彼らが選んだのが、“偽物”だった。

    TF109の発表時、マシンに装着されていたフロントウイング・エンドプレートは、実戦用ではなかった。ディアシノス自身が、過去に失敗したアイデアを寄せ集め、もっともらしく仕上げたダミー仕様だった。

    「マネジメントから、ローンチ用の偽エンドプレートを作ってほしいと言われた。実際に機能しなかった案を全部組み合わせて、洗練されたように見せた」

    「3Dプリンターで巨大なエンドプレートを作って、発表用のマシンに装着した」

    ローンチからわずか3日後、ポルトガルのアルガルヴェで行われたシェイクダウンで、TF109はまったく異なる本物のエンドプレートを装着して走行した。

    「他チームにいる友人たちから『いい仕事したな、あのエンドプレート』って言われたよ。1週間後に本物が出てくるとは知らずにね」

    現在も出回っているTF109の写真の多くは、この偽物エンドプレートを装着した姿だという。

    トヨタ F1 TF109

    2009年のプレシーズンテストで、トヨタはダブルディフューザーだけでなく、フロントウイングも覆い隠した唯一のチームだった。それほど、このエンドプレート設計は重要だった。

    この種の情報戦は、F1では珍しいことではない。ライバルの開発リソースを誤った方向に誘導し、時間と資金を浪費させるための“競争の一部”だ。

    近年では実車ではなくCGレンダーが使われ、意図的に簡略化されたり、旧世代の仕様が描かれたりすることも多い。

    「風洞とCFDに制限がなかった時代にF1で働けたのは、本当に幸運だった」とディアシノスは振り返る。

    「トヨタでは2基の風洞が24時間動いていた。試すアイデアがなければ、風洞は回せない。だから多少突飛でも、どんどん試させてくれた」

    「最初にスロット付きエンドプレートを描いたとき、マネージャーは『これは機能しない』と言った。でもクラスタに投げてみたら、実際に機能した」

    2009年以降、スロットギャップはフロントウイング設計の標準的要素となり、前輪周辺の流れを制御するための重要な手段として定着していく。

    その後、ディアシノスはウィリアムズに移籍。CFDと風洞の両方に精通したエンジニアとして、両者を結びつける役割を担った。

    「当時はCFDと風洞が完全に分断されていた。僕はその橋渡しができた」

    アンダーノーズのターニングベーンを“単なるダウンフォース部品”ではなく、フロントウイングとフロアをつなぐ調整装置として再定義し、実際にマシンに反映させた。

    その後移籍したケータハムでは、別の教訓を得ることになる。空力改善を狙ってステアリングラックを下げた設計が、致命的なブレーキ冷却不足を招いたのだ。

    「それは完全に僕のミスだった。風洞では良かった。でも、ブレーキ冷却への影響を理解していなかった」

    その判断は2年にわたってチームを苦しめることになる。

    現在、ディアシノスはマッコーリー大学で機械工学の上級講師として、次世代のエンジニアを育てている。CFDと空力に関する研究も続け、F1で得た経験を教育と研究に還元している。

    F1から離れた今も、彼の情熱は変わらない。TF109の“フロントウイングの欺瞞”は、限界なき時代のF1が生んだ、知略と創造性の象徴として語り継がれている。

  • ハースF1チーム、2026年F1マシン『VF-26』を発表 “GR”ロゴを大胆に配置

    ハースF1チーム、2026年F1マシン『VF-26』を発表 “GR”ロゴを大胆に配置

    TGRハースF1チームは、2026年FIAフォーミュラ1世界選手権を戦う新型マシン「VF-26」のデザインと新リバリーを発表した。VF-26は2026年シーズン全24戦で使用され、ドライバーはオリバー・ベアマンとエステバン・オコンが務める。開幕戦は3月6〜8日に開催されるオーストラリアGPだ。

    チームはF1参戦11年目を迎えるアメリカのチームで、VF-26はソーシャルメディア上で公開された一連のデジタルレンダーを通じて披露された。

    白を基調に赤のアクセントを配した新リバリーは、2026年F1の最新レギュレーションに基づいて設計されたマシンを彩っている。

    2026年レギュレーションでは、マシンは小型・軽量化され、より機敏な特性となる一方で、ダウンフォースと空気抵抗は大幅に削減される。VF-26も全体寸法の縮小とピレリ製タイヤのナロー化が施され、フェラーリ製パワーユニットを搭載。内燃エンジンと電動出力の比率は50:50となり、100%持続可能燃料が使用される。

    ハースF1チームl

    TOYOTA GAZOO Racingとのタイトルパートナーシップ
    2026年シーズンに向けてパートナーポートフォリオを拡大するなか、今回のリバリーは、昨年12月に発表されたTOYOTA GAZOO Racing(TGR)とのタイトルパートナーシップの開始を強く反映している。TGRはトヨタ自動車のモータースポーツ競技および研究開発部門であり、今季から新たなブランド構成を導入することが発表されている。

    GAZOO RacingとTOYOTA Racingが異なる役割を担う体制へ移行するなかでも、TGRハースF1チームはシーズンを通してTGRのブランディングを掲げて戦う。

    両者は2024年10月に複数年にわたるテクニカルパートナーシップを締結しており、今回のタイトルパートナー契約は、その関係における中核的な目的を改めて示すものとなった。焦点となるのは「People、Product、Pipeline」であり、ドライバー、エンジニア、メカニックといった人材育成を通じて、持続可能なモータースポーツ産業と文化の構築を目指している。

    ハースF1チーム トヨタ自動車

    チーム創設者兼オーナーのジーン・ハースは、次のように語った。

    「他のすべてのチームと同様に、我々も2025年を戦いながら、2026年の新レギュレーションに対応したマシンを設計し、製作するという課題に直面してきた。プレシーズンは、これらのマシンが何をできるのか、そしてドライバーやエンジニア、チーム全体がどのように適応するのかを理解するうえで極めて重要になる。我々はオリバーとエステバンというドライバーの継続性、そして設計・エンジニアリングチームの継続性を確保できている。昨季のミッドフィールドの争いは非常にレベルが高く厳しかったが、再び挑み、オン・オフ両面で開発を続けていく必要がある。新レギュレーションがパフォーマンス面で何をもたらすのか、グリッド全体がどうなるのかを見るのが、個人的にも非常に楽しみだ」

    ハースF1チーム 2026年のF1世界選手権

    チーム代表の小松礼雄は、2026年シーズンに向けた準備について次のように述べた。

    「年明けのこの時期に新車を発表するというのは、正直なところ少し非現実的に感じますが、それでも大きなレギュレーション変更を伴う新しいF1シーズンに踏み出すことは、やはりとてもエキサイティングです。我々はバルセロナでのシェイクダウン・ウィークに向けて、完全に集中して準備を進めています。昨シーズン終了から1月にマシンを走らせるまでの非常にタイトなスケジュールの中で、チーム全員が本当に大きな努力を重ねてくれました。

    これだけ多くの話題や議論があったあとですので、実際にマシンがどのように走るのか、そしてオーストラリアに向けたテストプログラムを進める中で、どんな課題に直面するのかを見るのが待ちきれません。スペインとバーレーンでの走行時間は極めて重要になると考えていますし、困難が待ち受けていることは分かっていますが、それでも我々がF1に情熱を注いでいる理由は、まさにそこにあります」

    ハースF1チーム フォーミュラ1カー

    初走行と今後のスケジュール
    TGRハースF1チームは、1月26〜30日にスペインのカタルーニャ・サーキットで行われるシェイクダウン・ウィークで、2026年シーズンの初走行を迎える。各チームには3日間の走行が認められており、その後は2月11〜13日、18〜20日にバーレーン・インターナショナル・サーキットで公式テストが実施される。

  • 【速報】 ハースF1チーム 2026年F1マシン『VF-26』のリバリーを披露

    【速報】 ハースF1チーム 2026年F1マシン『VF-26』のリバリーを披露

    ハースF1チームは、2026年のF1世界選手権を戦う新型マシン『VF-26』のリバリーをお披露目した。

    今回の発表はオンライン形式で行われ、デトロイトでライブショー形式のローンチイベントを開催したレッドブル・レーシングとは対照的に、シンプルな手法が採られた。新レギュレーション初年度を迎える中、ハースF1チームは実務的かつ効率重視の姿勢を示している。

    ドライバーラインアップは2026年も継続される。新F1レギュレーション下では、開発初期における安定したデータ収集が重要となるため、既存体制の維持は合理的な判断といえる。

    一方で、パフォーマンス面には注目が集まっている。マラネロを拠点とするハースF1チームは、歴史的にフェラーリの競争力と連動する傾向があり、その浮き沈みの大きさはF1ファンの間でもよく知られている。2026年の新レギュレーション環境において、その関係性がどのような形で表れるのかが焦点となる。

    2026年、チームは、WRC、WEC、IMSAで数々の成功を収めてきたトヨタ・ガズー・レーシングがタイトルスポンサーに就任し、『TGRハースF1チーム』として参戦する。

    ハースF1チームにとって2026年シーズンは、新レギュレーション下での競争力回復と中団上位への再浮上を目指す重要な一年となる。VF-26は今後、プレシーズンテストを通じて本格的な走行準備に入る予定だ。

    ハースF1チーム フォーミュラ1カー 2026年のF1世界選手権

  • ハースF1、トヨタの協力を得て英国拠点に自社シミュレーター導入

    ハースF1、トヨタの協力を得て英国拠点に自社シミュレーター導入

    ハースF1チーム代表の小松礼雄は、チームの自社シミュレーターが5月に稼働を開始する予定であり、これによって他チームと同等の環境が整うと明かした。

    F1の一部チームが潤沢なリソースを持つ一方で、ハースF1チームはこれまで常に身の丈に合った運営を続けてきた。それでも近年、より公平な競争環境を実現するために着実な前進を遂げている。

    2026年に向けて稼働する自社シミュレーター
    サーキット外において、シミュレーターはマシン理解を深めるだけでなく、ドライバーが各種条件に慣れるための重要なツールだ。しかしハースはこれまで、敷地内にシミュレーターを保有していなかった。

    だがトヨタとのパートナーシップによって道が開かれ、チームは英国バンベリーの拠点にシミュレーターを建設中だという。小松礼雄は、5月から6月頃に稼働予定で、設置された瞬間から使用可能になると語った。

    「バンベリーのものは5月、6月頃に稼働する予定だと思っています」と小松礼雄はPlanetF1.comを含むメディアに語った。

    「ただ、彼ら(トヨタ)にはエプソムに別のシミュレーターがあります。ですので、エプソムのものと並行して、モデル統合の実証作業を進めています。物理的にバンベリーに設置されたら、すぐに使える状態になります」

    「並行して進めているので、設置された時点で即座に問題なく使えるはずです」

    これまでハースはマラネロにあるフェラーリのシミュレーターを使用してきたが、自前の設備を持つことで、より良いデータ取得が可能になると示唆している。

    「これは非常に重要です。マラネロにあるフェラーリのシミュレーターを使うことはできますが、エンジニアリングチームの大半は英国にいますし、使用できる日数も限られていますし、場所もイタリアです」

    「ロジスティクスの面では、かなり難しかったです」

    「2026年には、シミュレーターはさらに重要になります。すぐに自由に使える環境が必要ですし、これは本当に、本当に重要な要素になります。チームにとって大きなマイルストーンです」

    ハースF1チーム

    トヨタとの提携がもたらす人材育成の価値
    小松礼雄がチームを率いるようになって以降、ハースF1チームは大きく進化してきた。2024年10月に発表されたトヨタとの提携により、同社のモータースポーツ部門であるトヨタ・ガズー・レーシングの支援を受けている。

    2026年からはTGRがハースのタイトルスポンサーとなり、この関係は双方に利益をもたらすと小松礼雄は示唆した。

    「豊田章男会長と私の間では、このコラボレーションの目的が“人を育てること”であり、それによって競争力のある組織を作ることだという点で完全に一致しています」

    「F1という環境を見れば、人材を育成したり、非常に競争的で国際的な場に放り込むという点で、これ以上のものはありません」

    「本当に驚くべきなのは、非常に国際的で、信じられないほど競争が激しいということです。企業の世界では、たとえば3か月かかることが、F1では2週間で解決されます」

    「人材育成という観点では、これ以上の環境は見つからないと思います。ここに我々のシナジーがあります。我々は人材を求めていますし、豊田章男会長は自分たちの人材を育て、成長させる場を探していました」

    「長い目で見れば、トヨタ自動車にとっても、これは単なるレースの話ではありません。この環境で育ち、鍛えられた人材が、将来的には国際的かつ競争的なマインドセットを持った上級管理職や経営層になることを期待しています」

    「これは『パワーユニットを作るのか』とか『トヨタのワークスチームになるのか』といった話ではありません。そこが目的ではまったくありません。毎回その質問をされますが、そういう話ではありません」

  • トヨタ、2026年WEC反撃へ進化型ハイパーカー「TR010 HYBRID」を公開

    トヨタ、2026年WEC反撃へ進化型ハイパーカー「TR010 HYBRID」を公開

    トヨタは2026年FIA世界耐久選手権(WEC)に向けた進化型ハイパーカーの公式画像を公開した。2025年10月1日に最初のビジュアルが示されて以降、このマシンは段階的にテストと開発を重ねてきた。

    最初のシェイクダウンは10月8日と9日にポール・リカールで行われ、カモフラージュ仕様ながら初の走行が実施された。その後、マシンはドイツ・ケルンにある風洞へ戻され、さらにFIAおよびACOのホモロゲーション施設として使用されている米ノースカロライナ州ウィンシアでの作業が続いた。

    12月10日と12日には、2026年シーズン開幕戦(3月28日開催)を迎えるカタールのルサイル・インターナショナル・サーキットで追加テストが実施されている。今後も走行は継続され、今月中には再びポール・リカールでのテストが予定されている。

    そして東京オートサロン(1月9日〜11日)を目前に控えたこのタイミングで、トヨタは2026年型ハイパーカーの公式画像を初公開した。

    最大のトピックは「名前」の変更
    今回明らかになった最大のニュースは、技術的な詳細ではなく組織とブランド名の変更だった。

    トヨタ自動車とToyota Racing GmbHは、これまで「Toyota Gazoo Racing Europe GmbH」として知られていた欧州研究開発拠点(ドイツ・ケルン)を、2026年1月7日付で旧称の「Toyota Racing GmbH」に戻した。

    また、トヨタは2016年から2025年までFIA World Endurance Championshipにおいて「Toyota Gazoo Racing」の名で参戦してきたが、2026年シーズンからは新たに「Toyota Racing」ブランドとして参戦し、改良型ハイパーカー「TR010 HYBRID」を投入する。

    リバリーが示す過去と現在のつながり
    TR010 HYBRIDのカラーリングは、前日に発表されたヤリスWRCのリバリーと非常に近いデザインとなっている。両者の視覚的なつながりは新しいものではなく、ヤリスがシルバー基調へ変更されるまで、昨年までも共通性が保たれていた。

    さらにTR010のカラーは、2025年ル・マン24時間で走った7号車GR010 Hybridのデザインからも強い影響を受けている。このデザインは、トヨタGT-Oneへのオマージュとして知られている。

    トヨタ FIA 世界耐久選手権(WEC)

    トヨタLMHにとって「3度目」の大規模進化
    トヨタは2021年にハイパーカー規定で最初に参戦したメーカーであり、その開発の歩みは度重なる技術規則変更の影響を大きく受けてきた。

    デビュー直前には最低重量が70kg引き下げられ、重量配分の再設計を余儀なくされた。こうした経緯から、GR010はすでに2度の大規模アップデートを受けている。

    2021〜2022年のオフシーズンには、フロントタイヤ幅を31cmから29cmへ変更し、リアには34cmを採用。その翌冬にはさらなる軽量化と大幅に改善された重量配分が導入され、空力、シャシー、パワートレインも洗練され、ドライバビリティが明確に向上した。この際、トヨタは使用可能なホモロゲーション・ジョーカーのうち2つ目を使ったとされている。

    今回のアップデートは、トヨタLMHにとって3度目の主要進化にあたる。名称変更はあったものの、このマシンは2026年で6シーズン目の実戦投入となり、ハイパーカー時代では極めて異例の長寿命を誇る。トヨタが2021年から2027年の間に許可されている5つのEvoジョーカーのうち、少なくとも1つを今回使用したことは確実とみられる。

    BoP時代に、なぜ進化が必要なのか
    性能調整がBoP(バランス・オブ・パフォーマンス)によって管理される中で、なぜトヨタは大きな改修に踏み切ったのか。その狙いは単純な最高速向上ではなく、ドライバビリティ、挙動の一貫性、そして規定ウインドウ内で最適な位置を確保することにある。

    GR010は、ダウンフォースを重視しすぎてドラッグ面で不利になっていた可能性が指摘されている。

    数カ月前、Toyota Racing Europe副社長の中嶋一貴は、この点について次のように語っている。

    「最高速だけを見ているわけではない。ただ、ル・マンではやはりトップスピードが重要だと分かった。デュアルバンドBoPで修正されるはずだったが、まだ差があった。空力や、よりドライバーに優しいクルマづくりと合わせて、そこは改善しなければならない」

    当初、トヨタはこれらの変更を2025年に投入する予定だったが、風洞ホモロゲーション作業がスイス・ヒンウィルからウィンシアへ移されたことで、計画は遅延した。

    「今年のル・マンが、さらに踏み込む決断をさせた」と中嶋は認めている。

    トヨタ自動車 WEC(FIA 世界耐久選手権)

    外観から見える変更点
    トヨタは今回、名称変更以外の詳細な技術情報を公表していない。ただし、外観からいくつかのポイントは読み取れる。

    初めてトヨタのデザイン部門がハイパーカーの造形に関与しており、その影響はヘッドライト形状に最も顕著に表れている。市販車やコンセプトモデルのデザイン言語を想起させる意匠だ。

    さらに、フロントボディワークは全面的に再設計され、スリム化が図られている。これは直線速度向上を狙ったものと考えられる。同様の改良はサイドポッドやリアウイングにも施され、リアウイングはガルウイング状の独特な形状となった。

    2026年型トヨタの使命
    スポーティングな理由であれ、それ以外であれ、トヨタにとって2025年シーズンは極めて失望の大きいものだった。最終戦バーレーンまで表彰台ゼロが続き、コンストラクターズランキング2位を確保した経緯はいまだ説明が難しい。

    係数1.5が適用されたバーレーンでの1-2フィニッシュにより、トヨタはポルシェとキャデラックを一気に逆転したが、それでも2018–2019シーズンから守り続けてきたタイトルを失った事実は変わらない。

    トヨタには明確な雪辱の動機がある。この改良型GR010は反撃の中核として投入され、8度目のコンストラクターズタイトル、そして何より2022年以来となる6度目の24 Hours of Le Mans制覇を目標としている。

    それ以外の結果は、失敗と見なされることになる。

  • トヨタ、2026年WECは新ブランド「TOYOTA RACING」で参戦

    トヨタ、2026年WECは新ブランド「TOYOTA RACING」で参戦

    トヨタ自動車株式会社および欧州子会社のTOYOTA RACING GmbHは、2026年1月7日付で、ドイツ・ケルンに置く欧州研究開発拠点「TOYOTA GAZOO Racing Europe GmbH」の社名を「TOYOTA RACING GmbH」へ変更したと発表した。

    モータースポーツを通じた先端技術開発の中核拠点としての役割を明確化し、長期的にトヨタの技術基盤を支える体制を強化する。

    これに伴い、2016年から2025年まで「TOYOTA GAZOO Racing」として参戦してきたFIA世界耐久選手権(WEC)には、2026年シーズンから新ブランド「TOYOTA RACING」で挑む。

    一方で、GAZOO Racing(GR)は引き続き、FIA世界ラリー選手権(WRC)参戦や、GR YARIS Rally2、GR Supra GT4といったカスタマーモータースポーツを通じ、お客様とトヨタ製品の結びつきを強める活動を継続する。TOYOTA RACING GmbHは、ラリー車両向けエンジン供給やGT4車両生産などでGRの取り組みを支援し、市販車を用いたモータースポーツ活動を今後も推進していく。

    トヨタは、TOYOTA RACING GmbHを軸に先端技術への貢献を加速させるとともに、モータースポーツの魅力を広げ、新たなファンやパートナーと共に未来を創造していくとしている。

    トヨタ WEC 「TOYOTA RACING」

  • TOYOTA GAZOO Racing、名称を「GAZOO Racing」に変更

    TOYOTA GAZOO Racing、名称を「GAZOO Racing」に変更

    トヨタのモータースポーツブランドであるTOYOTA GAZOO Racingは2026年1月7日、設立当初の原点に立ち返る形で、名称を「GAZOO Racing」へ変更すると発表した。モータースポーツを起点とした「もっといいクルマづくり」と人材育成を、これまで以上に強化していく方針だ。

    GAZOO Racingは今後、世界ラリー選手権(WRC)などトップカテゴリーのモータースポーツ活動に加え、市販車を用いたカスタマーモータースポーツまで幅広く展開。

    競技の現場でクルマと人を鍛え、その成果を量産車へ還元するという思想を、ブランド名そのものに込め直す。

    「悔しさ」から始まったGAZOO Racingの原点
    GAZOO Racingの原点は2007年、豊田章男氏(当時副社長)が成瀬弘氏とともにニュルブルクリンク24時間耐久レースへ挑戦したことにある。当時は社内の正式活動として認められず、「Team GAZOO」の名で参戦し、豊田氏は「モリゾウ」のドライバーネームを使用した。

    開発中のスポーツカーを投入する欧州メーカーが並ぶ中、当時のトヨタには走らせるべきスポーツカーすら存在しなかった。コース上で他メーカーの開発車両に追い抜かれるたびに、「トヨタには作れない」と言われているかのような悔しさを覚えたという。

    スポーツカー開発という“クルマづくりの式年遷宮”
    この危機感から始まったのがLFAの開発だった。ニュルブルクリンクを舞台に進められ、2010年に発売されたLFAは、トヨタが約20年ぶりに自社開発した本格スポーツカーとなった。一方で、500台限定という条件が示す通り、その道のりは決して平坦ではなかった。

    開発完了直前には、マスタードライバー成瀬弘氏が事故で急逝するという悲劇も起きた。それでも「モータースポーツの現場でクルマと人を鍛える」という信念は受け継がれ、挑戦は途切れることなく続けられた。

    WRC復帰がもたらした発想の転換
    2017年のFIA世界ラリー選手権(WRC)復帰は、大きな転換点となった。
    それまでの「市販車を作り、その後で競技車を開発する」という流れから、「勝てる競技車を先に作り、その技術を市販車に落とし込む」という逆転の発想が生まれた。

    その象徴が2020年に登場したGRヤリスだ。オートサロンでの発表から同年のスーパー耐久24時間レースでのデビューウインを経て、GRカローラの開発・発売へとつながっていった。

    次なる挑戦とGAZOO Racingの未来
    2025年、豊田章男氏は6年ぶりにニュルブルクリンク24時間レースへ復帰した。次なる挑戦として掲げるのは、トヨタ内製による“トップ・オブ・スポーツカー”の実現だ。GR GT、GR GT3、そしてLFAコンセプトは、その象徴的な存在となる。

    欧州拠点は「TOYOTA RACING」へ
    ドイツ・ケルンの研究開発拠点であるTOYOTA GAZOO Racing Europeは、「TOYOTA RACING」へと名称を変更。パワートレーンや先行開発技術に特化したモータースポーツ活動を担い、長期的な技術開発を推進する。

    また、TOYOTA GAZOO ROOKIE Racing(TGRR)は活動を継続し、GAZOO RacingとTOYOTA RACINGをつなぐ“道場”として、クルマづくりと人材育成の実践の場を担っていく。

    ロゴマークの切り替えは2027年1月に向けて順次実施予定。

    「トヨタには作れない」と言われた悔しさを原点に、GAZOO Racingは再びその名のもとで、モータースポーツを起点としたクルマづくりと人づくりを加速させていく。