2026年F1スペインGPの決勝では、新設されたマドリンク特有の「極端に長いピットレーン」が戦略を大きく左右する可能性がある。
金曜日には予想を上回るタイヤデグラデーションが確認され、一時は複数回のピットストップも想定されたが、ピットで失う時間の大きさから、最終的には1ストップが主流になるとの見方が強まっている。
ピレリによれば、マドリンクでは1周につき約0.2~0.3秒というF1としては大きなタイヤ性能低下が確認された。通常なら2ストップを促す材料だが、ランド・ノリスが「6kmもあるみたいだ」と表現した長大なピットレーンと、コース上での追い抜きの難しさが正反対の方向に作用している。
予想外だったマドリンクの高グリップとタイヤデグラデーション
初開催となるマドリンクでは、新しいアスファルトにもかかわらず、F1各チームが予想していた以上に高いグリップレベルが確認された。
メルセデスのチーム代表トト・ヴォルフは、FP1終了時点ではタイヤの性能低下があまりにも激しく、戦略担当者が冗談交じりに「6ストップ」と口にしたほどだったと明かした。
「週末の最初は難しかった。このコースは完全に新しいアスファルトなのに、非常にグリップが高かったからだ。そして興味深いことに、我々が予想していたのとは正反対の問題に直面した」
「最初のセッション後の状況を見ると、我々のストラテジーディレクターは『6ストップだ!』と言っていた。実際、1周あたり0.8秒ものデグラデーションがあったからだ。あんなものは見たことがない。ただ、最終的には1ストップになると思う」
実際のデグラデーションはヴォルフが挙げた数字ほど極端ではないものの、それでもピレリの分析では、金曜日にタイヤの劣化だけで1周につき約0.2~0.3秒を失っていた。
ピレリのチーフエンジニア、シモーネ・ベッラも、この数値は事前予測の範囲を超えていたと認める。
「ええ、率直に言って驚きだった。各チームはパフォーマンスとロングランでのデグラデーションの最適な妥協点を見つけるため、セットアップに取り組んでいる。ただ、こうした数値になったのは間違いなく驚きだった。我々が想定していた範囲を外れている」
フロントのグレイニングとリアの熱劣化が同時発生
ピレリによれば、マドリンクでデグラデーションが大きくなっている原因はひとつではない。フロントタイヤのグレイニングと、リアタイヤの熱によるデグラデーションが組み合わさっている。
「滑らかな路面と高いグリップレベルによって、グレイニングが発生している。基本的にはストレスのピークに達して、タイヤ表面が裂け始め、それがグレイニングへと発展していく」
特に金曜日の燃料搭載量を増やしたロングランでは、左フロントのグレイニングが制約となった。
「グレイニングは間違いなくここでの制限要因だ。ドライバーはパフォーマンスが落ちていることを感じられる。金曜日のハイフューエル走行で確認された現象のひとつで、左フロントのグレイニングによってスティントを通じてコーナー中盤でアンダーステアが発生していた」
「一方で、リアアクスルには熱による性能低下もあった。この2つの現象が組み合わさることで、大きなデグラデーションが生まれている」
本来なら、こうした状況はピットストップ回数を増やす方向に働く。
ノリスが批判「ピットレーンは6kmもある!」
ところが、マドリンクにはタイヤデグラデーションとは正反対に、ピットストップ回数を減らす大きな要素が存在する。
極端に長いピットレーンだ。
マドリンクのピットレーンはIFEMA施設の配置によって事実上2つの区間に分かれる特殊なレイアウトとなっている。ターン1とターン2をショートカットする形にはなっているものの、ピットストップによるタイムロスはシーズン最大級とみられている。
予選後の記者会見でランド・ノリスは、この設計を強く批判した。
「ピットレーンは6kmもあるみたいだ!」
「ピットレーンを2つに分けるべきだと思う。ピットリミッターを使って、一度解除して、それからもう一度ピットリミッターを使うようにすればいい。年間で最も長いピットレーンだし、ピットストップによるタイムロスも年間最大だ」
ノリスは、長いピットレーンが単に時間を失わせるだけでなく、戦略の多様性そのものを損なっていると指摘する。
「これでは追い抜きがさらに難しくなる。ピットに入って違う戦略を試そうという意欲もなくなる」
「新しいサーキットを造って、そこにこれだけのお金を使うのであれば、ピットレーンを短くすることはコースを設計するうえで最も重要な要素のひとつだと思う。そうすればピットに入りやすくなって、追い抜きも生み出せる」
1ストップと2ストップの純粋なレースタイムはほぼ同じ
興味深いのは、ピレリのシミュレーションでは1ストップと2ストップの純粋なレースタイムに大きな差がないことだ。
通常なら、これは戦略が分岐する理想的な状況となる。タイヤを長く使ってトラックポジションを守るか、新しいタイヤによるペースを利用して追加のピットストップを行うか、チームによって判断が分かれるためだ。
しかしマドリンクでは、長大なピットレーンによるロスタイムが1ストップを強く後押ししている。
さらに問題となるのが追い抜きの難しさだ。
ベッラは「チームと話をすると、ここでは追い抜きがかなり難しいようだ」と説明する。
「トラフィックに入るとかなりパフォーマンスを失うし、タイヤも傷めてしまう。ダウンフォースを失い、温度が上昇するからだ」
「つまりトラフィックには大きな悪影響があり、それも1ストップへと向かわせる要因になっている」
新品タイヤによるアンダーカットが先頭集団で成功すれば、ライバルが反応して2回目のピットストップに向かう可能性はある。しかし、コース上で抜き返すことが難しい以上、トラックポジションを手放す判断には大きなリスクが伴う。
基本戦略はミディアム→ハード
こうした要素を踏まえ、ピレリが基本戦略として想定しているのはミディアムからハードへつなぐ1ストップだ。
金曜日終了時点では2ストップも有力視されていたが、土曜日には1ストップ寄りへ予測が修正された。
ただし、マドリンクではセーフティカーや赤旗が戦略を一変させる可能性も高い。壁が近い区間を持つ新コースであり、FP2ではアービッド・リンドブラッドのクラッシュによって走行が中断された。この影響で各チームが十分なロングランデータを収集できなかったことも不確定要素になっている。
「決勝で何が起きるかは、すでに大きなクエスチョンマークだ。どんな状況も除外したくない」とベッラは語った。
フェラーリは新品ソフトを決勝用に温存
各チームはセーフティカーや赤旗によるレース中断も見据え、タイヤの残し方にも工夫を凝らしている。
その代表例がフェラーリだ。
フェラーリ勢は予選Q1をミディアムで突破したことで、決勝に向けて新品ソフトを温存することに成功した。通常の展開ならミディアムからハードへの1ストップを基本としながら、終盤にセーフティカーなどが入った場合には新品ソフトへ交換できる。
ピレリのモータースポーツ責任者ダリオ・マラフスキは、この判断について次のように説明した。
「彼らは少し余裕を持っていると思う。私の考えでは、ニュートラリゼーションの可能性を考えた選択だった。つまり、新品ソフトを1セット残しておけば、ニュートラリゼーションが発生した場合に最後のスティントで使える」
「通常のレースになれば、我々の推奨はミディアムからハードだ。しかし終盤にニュートラリゼーションが起きれば、新品ソフトを持っている。それは大きなアドバンテージになる。もっとも、ここではいずれにしても追い抜きは難しいがね」
タイヤより「トラックポジション」が優先される決勝に
マドリンクのF1初開催は、高いデグラデーションだけを見れば複数回のピットストップが期待できる状況にある。しかし、年間最大級のピットロスと追い抜きの難しさによって、戦略の方向性はむしろ1ストップへ傾いている。
基本線はミディアム→ハードの1ストップ。そこからアンダーカット、タイヤのグレイニング、トラフィック、そしてセーフティカーや赤旗のタイミングによって戦略が分岐することになる。
タイヤを交換すれば速く走れるとしても、長いピットレーンを通ってトラックポジションを失えば、その新品タイヤを生かせない可能性がある。予想外に大きなデグラデーションと「6kmもある」と揶揄されるピットレーン。その相反する要素への対応が、初開催となるF1スペインGP決勝の勝敗を左右する重要なポイントになりそうだ。
