初開催となったF1スペインGPで追い抜きの難しさが浮き彫りとなったマドリンクは、2027年に向けてコースの3カ所を改修する方針を固めた。ターン5〜6、ターン13、ターン20が対象となり、より明確なオーバーテイクの機会を生み出すことを目指す。
マドリンクは予選ではドライバーから高い評価を受けた一方、決勝ではポジション変動が極めて少ない展開となった。こうした問題は開幕前から懸念されており、今回検討されている改修案の一部は、実際には初開催のF1スペインGPを迎える前から浮上していたという。
追い抜きの少なさが初開催で露呈
マドリンクで行われた初のF1スペインGPでは、スタート直後を除いてコース上での追い抜きがほとんど見られなかった。
F1は各グランプリの追い抜き回数について統一された公式集計を公表していないものの、マドリードでは今季でも特に少ないレベルだったとみられている。一部の推計では、1周目以降の追い抜きはわずか4回で、モナコGPを下回った可能性さえある。
数少ない動きとしては、リアム・ローソンがフランコ・コラピントをオーバーテイクし、その後ジョージ・ラッセルがローソンを攻略した場面などがあった。
ハードタイヤのデグラデーションが小さかったことも、レースを膠着させた要因のひとつだった。タイヤ性能に大きな差が生まれず、異なる戦略を採用したマシン同士でも十分なペース差が発生しなかった。
ただし、それ以上に大きな問題とされたのが、現在のマドリンクには明確なオーバーテイクポイントが存在しないことだった。
コースそのものについては、高速区間や壁に囲まれたセクション、そして大きなバンク角を持つラ・モニュメンタル(La Monumental)などがドライバーに高い難易度を要求し、特に予選では高く評価された。
一方、決勝で前車を抜くとなると話は別だった。
ターン5〜6のシケインを拡幅へ
最大の問題として指摘されているのが、ターン5〜6のシケインだ。
序盤のコーナー群を抜けた後の長い加速区間の先に位置するため、本来であれば有力なオーバーテイクポイントになり得る。しかし、現在のレイアウトではシケインへの進入が非常にタイトで、2台が並んでブレーキングできるだけの自由度がない。
オリバー・ベアマンも週末前から、このレイアウトについて懸念を示していた。
「こういうコーナリングしながらのブレーキングでは、違うラインを取ってイン側から仕掛ける可能性がなくなってしまう。残念だし、設計上で少し見落とされた部分なのかもしれない」
もっとも、現在の形状になった背景には安全上の理由もある。
ターン5〜6の出口にはトンネル区間があり、マシンがそこへ進入する速度や角度を考慮する必要がある。ランオフエリアにも制約があり、単純にストレートを延長して強いブレーキングゾーンを設けることは難しかった。
それでも初開催の決勝で問題が明確になったことで、2027年に向けてターン5〜6のアプローチとシケインそのものを広げる方向で検討が進められる。
今回のレースではコーナーへの進入形状と縁石の配置によって、2台がクリーンに並走するスペースが十分ではなかった。そのため、前車を抜くには非常にアグレッシブな仕掛けが必要となり、相手をコース外へ押し出すリスクも高かった。
ターン13を強いブレーキングゾーンに変更か
2カ所目の改修候補はターン13だ。
ラ・モニュメンタルの直後に位置する左コーナーで、現在は中速で通過するレイアウトとなっている。
ラ・モニュメンタルで前車のスリップストリームを利用できても、ターン13で十分に大きな減速が必要ないため、そのままブレーキング勝負へ持ち込むことが難しい。
そこでターン13を現在よりタイトな形状に変更し、より明確なブレーキングゾーンを作る案が検討されている。
これが実現すれば、ラ・モニュメンタルからターン13までの区間で前車に接近し、ブレーキングでイン側へ飛び込むという新たな攻防が期待できる。
ターン20の“ボトルネック”も解消へ
3カ所目はターン20だ。
マドリンクでも特にタイトなコーナーのひとつだが、現在はバリアの配置によって進入部分がボトルネックのように狭くなっている。
そのため、前車のイン側に飛び込むスペースが限られており、仮に並びかけても出口まで安全に2台が走れる余裕が少ない。
2027年に向けてはコーナー進入部の形状とバリアの配置を変更し、ドライバーがより安心してオーバーテイクを仕掛けられるスペースを確保することが検討される。
今後数週間でマドリンク側、FIA、F1チーム、ドライバーの間で協議が行われ、具体的な変更内容が詰められる予定だ。
実は初開催前から3カ所の改修を検討
興味深いのは、今回対象となった3カ所の変更が、F1スペインGPの決勝を受けて初めて考えられたものではないという点だ。
ターン5〜6、ターン13、ターン20の変更案は、追い抜きが難しくなる可能性への懸念から、初開催前の段階ですでにFIAへ提案されていた。
しかし、マドリンクの建設スケジュールには余裕がなかった。
コース建設は2025年4月に始まり、さらにマドリードを襲った非常に雨の多い冬によって工事が遅延。レイアウトを変更する場合には新たなシミュレーションや安全性の検証、FIAによる承認手続きを行う必要があり、初開催に間に合わせるにはリスクが大きすぎると判断された。
変更を急いだ結果、ホモロゲーションや建設そのものが遅れれば、F1スペインGPの開催に影響する可能性もあった。
特にマドリンクは一般的な常設サーキットとは異なり、道路の変更だけでなく、鉄道や航空関連の事業者、緊急サービス、水道・排水、環境関連の当局など、多数の関係機関との調整を必要とする。
ターン5〜6についても、出口に位置するトンネルの存在によって設計の自由度が制限された。トンネルへ向かうマシンの進入角度や速度、限られたランオフエリアなどを考慮する必要があったためだ。
こうした事情から、まず2026年の初開催を現在のレイアウトで実施し、その結果を踏まえて2027年に変更する方が現実的だと判断された。

ルクレール「小さな変更で大きく変わる」
ドライバー側も、マドリンクそのものを否定的に評価しているわけではない。
シャルル・ルクレールは、予選でのドライビングという点では非常に魅力的なサーキットだと評価したうえで、決勝についてはわずかな変更だけでも大きな改善につながると考えている。
「素晴らしいサーキットだし、特に予選については、今のレイアウトを作った全員が本当に素晴らしい仕事をしたと思う」
「でもレースになると、いくつかのコーナーが……大きな変更が必要だとは思わない。小さな変更、あるいは2つくらいの小さな変更だけでも、僕たちがここでやるレースは大きく変わると思う」
重要なのは、サーキット全体で数多くのオーバーテイクポイントを作ることではなく、確実に勝負できる場所を少なくともひとつ設けることだ。
その代表例として挙げられるのがマカオだ。市街地コースの大部分は狭く曲がりくねっているため追い抜きは難しいが、長いストレートの先にあるリスボアでは、タイトなコーナーでありながら進入部分に十分な幅があり、ブレーキング勝負が可能になっている。
サインツJr.「バクーやマカオを参考に」
マドリンクのアンバサダーでもあるカルロス・サインツJr.も、今後FIAとコース変更について話し合う意向を示している。
サインツJr.は、成功している市街地サーキットの特徴としてバクーとマカオを挙げた。
「バクーやマカオのような良い市街地サーキットには、非常に長いストレートの先に、本当に追い抜ける場所がひとつあることが多い」
そのうえで、マドリンクでも同様の場所を作れるかを検討すべきだと語った。
「そうだね。どこにそういうオーバーテイクゾーンを追加できるのかを見て、それが実現可能かどうかを確認するだけだと思う」
マドリンクは初開催で、予選ではドライバーの技量を試すチャレンジングなコースとして一定の評価を得た一方、決勝では追い抜きの少なさという明確な課題を残した。
ターン5〜6、ターン13、ターン20という3カ所の改修案は、その弱点を解消しながら現在のコースが持つ個性を残すことを狙ったものとなる。初開催では安全性や建設スケジュール、ホモロゲーションを優先したマドリンクだが、2027年にはよりバトルを生み出せるF1サーキットへと進化することになりそうだ。
