ホンダ・レーシング・コーポレーションUSA(HRC US)は、ケルビン・フーが新社長に就任すると発表した。現社長のデビッド・ソルターズはモータースポーツ業界を離れ、テクノロジー系スタートアップ企業に移る。新体制は2026年9月12日付で発足する。
フーはこれまでHRC USの副社長を務め、インディカーやIMSAをはじめとする幅広いプログラムに携わってきた。ホンダ・パフォーマンス・デベロップメント(HPD)時代から組織を支え、ソルターズと約6年間にわたって緊密に仕事をしてきた人物である。
デビッド・ソルターズがHRC USを退任
ソルターズは2020年、当時のHPDの社長に就任。2015年にチーフエンジニア兼エンジン技術責任者としてHPDに加入し、2019年にはテクニカルディレクターへ昇進した。
ホンダ加入以前には、フェラーリのF1プログラムで内燃エンジンのパワーユニット開発責任者、メルセデス・ベンツ・ハイパフォーマンス・エンジンズ(旧イルモア)でF1エンジン開発責任者を務めたほか、コスワース・レーシングではCARTインディカー向けエンジンの開発・設計エンジニアを務めた経歴を持つ。
HRC USのトップとして、ソルターズはインディカー・シリーズで3度のマニュファクチャラーズタイトルと5度のドライバーズタイトル獲得を指揮。2022年のIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権では、チーム、ドライバー、マニュファクチャラーの各タイトルを制した。
また、競技プログラムの電動化と近代化も推進。2023年のIMSAにアキュラARX-06 LMDhを投入し、2024年にはハイブリッドシステムを搭載したインディカーの導入に携わった。
さらに、アパレルやパフォーマンスパーツ、ビンテージのホンダ/アキュラ・レーシングカーとコレクターを結びつけるヘリテージ・レーシング・プログラムなどを扱う新たな事業部門の立ち上げも主導した。
ソルターズは退任にあたり、次のように語った。
「ホンダ・レーシング・コーポレーションUSAの素晴らしいスタッフ、我々のレーシングチーム、そして才能あるドライバーたちに心から感謝したい。米国におけるホンダのレーシングヒストリーに、みんなと一緒に新たな歴史を加えられたことを光栄に思っている」
「ホンダ・レーシングは11年前、私と家族にカリフォルニアへ移る機会を与えてくれた。私たちは米国市民になるという栄誉にも恵まれ、ホンダファミリーの一員として本当に素晴らしい人生経験をすることができた」
「HRC USはこれまで以上に強い組織になっている。素晴らしいチームがあり、インディカーには非常にエキサイティングな未来があり、さらに多くのクールな新プロジェクトも控えている。今こそケルビンにバトンを渡す最高のタイミングだ。私たちはこの6年間、緊密に仕事をしてきた。ケルビンはHRC USのチームを支え、未来へ導いていく理想的な人物だ」
ケルビン・フーが9月12日付で新社長に就任
新社長となるフーは、副社長としてHRC USの活動を支え、ホンダがこれまで記録したインディアナポリス500での17勝のうち4勝に携わった。
フーは2015年にHPDへ加入。当初はシャシー設計、エアロダイナミクス、パフォーマンスエンジニアリング部門を統括した。2020年にプログラムディレクターとなり、2021年には副社長へ昇進した。
ホンダでモータースポーツの世界に入る以前は、防衛・航空宇宙産業でキャリアを築いた。ミシガン大学で機械工学の学士号と修士号を取得し、その後カリフォルニア大学バークレー校で博士号を取得してポスドク研究員を務めた。さらにウィスコンシン大学マディソン校でもポスドクを経験した。
その後、HRテキストロンに研究開発エンジニアとして入社してプロダクトマネージャーまで昇進し、ITTエアロスペースではエンジニアリングディレクターを務めた。
フーは新社長就任について次のようにコメントした。
「HRC USに加入したとき、いつかこの素晴らしい組織を率いる機会を与えられるとは想像もしていなかった。本当に身の引き締まる思いだ」
「HPDとHRC USでのキャリアを通じて、NSX GT3、アキュラDPiレーシングカー、LMDhのエンジンと車両の開発から、レーシングチームとの長期的なパートナーシップ構築まで、幅広いプログラムに携わる幸運に恵まれた」
「デビッド・ソルターズには、リーダーシップ、友情、そして指導に心から感謝したい。デイブは常に我々全員に、もっと大きく考え、もっと速く動き、そして自分たちが根っからの競争者であることを決して忘れないよう求めてきた」
「彼は真のレーサーだ。そのビジョンと献身によって、HRC USは今日の世界トップクラスの組織へと形作られた。その影響は今後何年にもわたって残り続けるだろう」
インディカー継続と新事業を軸にHRC USの次章へ
HRC USは今後も北米モータースポーツを重要な活動領域と位置づける。特にインディカーについては参戦継続を改めて決定しており、フーはシリーズの成長に期待を示した。
「これからのHRC USの未来をとても楽しみにしている。我々は最近、インディカーへのコミットメントを更新した。シリーズは成長を続け、北米モータースポーツにおける地位をさらに強固なものにしている」
「新たなビジネス事業によって、ホンダのレーシングファンにこれまで以上のサービスを提供できる体制も整っている。我々はこれからもイノベーションと競争に取り組み、モータースポーツの未来を形作る人材と技術の育成に力を注いでいく」
「ホンダのレーシングスピリットは、常に既成概念に挑み、限界を押し広げることにある。HRC USを率い、みんなと一緒にその物語の次の章を書いていくことを楽しみにしている」
ソルターズの退任によってHRC USはひとつの節目を迎えるが、その後任にはHPD時代から技術開発と事業運営の双方を熟知するフーが就く。インディカー、IMSA、新規ビジネスを含むHRC USの次の時代を、新たなリーダーとして率いることになる。
