ハースF1は、2026年F1イタリアGPでフェラーリの最新パワーユニット「ADUO 2」をオリバー・ベアマン車だけに投入する。エステバン・オコンは従来仕様を使用するため、同じチームの2台で異なるPU仕様を走らせる異例の状況となる。
フェラーリからカスタマーチームに供給された新仕様PUが現時点では各チーム1基に限られていることが理由だ。ハースF1代表の小松礼雄は、モンツァでは新PUの性能をガレージに眠らせておくべきではないと判断。
そのうえで、最近のアップデートではオコンを優先してきた経緯から、今回はベアマンに新PUを割り当てることが「最も公平」だと説明した。
ハースがモンツァで「1台だけ」新PUを使う理由
フェラーリはイタリアGPで、ADUO(Additional Development and Upgrade Opportunities=追加開発・アップグレード機会)を利用した2度目のPUアップデート「ADUO 2」を投入する。フェラーリのルイス・ハミルトンとシャルル・ルクレールは、ともに新仕様を使用する。
一方、カスタマーチームに対して現時点で用意された新仕様は各チーム1基のみ。キャデラックはモンツァでは2台とも新PUを使用しないことを選択したが、ハースは違う判断を下した。
モンツァは長い全開区間を持ち、PU性能がラップタイムに大きく影響するサーキットだ。新仕様を1基しか使えないとしても、その性能向上を活用する価値があるとハースは判断した。
問題は、ベアマンとオコンのどちらに新PUを与えるかだった。
小松礼雄によれば、その判断にはシーズン中のアップデート配分が関係している。夏休み前に導入したブレーキの改善やパワーステアリングの変更では、オコンが先に新しいパーツを使用していた。そのため今回はベアマンを優先することで、シーズンを通した公平性を保つことにした。
前回は2基揃うまで待ったハース
ハースにとって、1台だけに新仕様PUを投入することは本来望んでいた形ではない。
フェラーリが6月末のF1オーストリアGPで最初のADUOアップデートを導入した際、ハースは新仕様が2基揃うまで投入を延期し、両ドライバーを同時に切り替えた。
しかし今回は、モンツァというサーキットの特性が判断を変えた。
「前回はそうしませんでした。十分な数のエンジンが揃うまで待って、2人のドライバーに同時に導入しました」と小松礼雄は説明した。
「でも今回は、当然ながらモンツァはパワー感度が非常に高いサーキットです。性能があるのに、それをガレージに置いておくのはもったいないですよね。ただ、もちろん1基しかないというのは非常に難しい状況です」
「少なくとも2基用意されていれば、その方がよかったです。ただ、フェラーリもエンジンからできる限りの性能を引き出すために全力で取り組んでいます」
「先ほどお話しした理由から、当然彼らはモンツァで導入したいわけです。そうすると、規則を満たすために必要な最低限の数量しか用意できないということです」
F1規則ではカスタマーへの「最低1基」で条件を満たす
ハースが新PUを1基しか受け取っていない背景には、F1技術規則がある。
新しいホモロゲーション仕様を導入する場合、PUメーカーは、その仕様を初めて使用する大会で「PUメーカーが供給する各F1チームに対して、新しいホモロゲーション仕様のパワーユニットを少なくとも1基」利用可能にすることが求められている。
つまり、カスタマーチームにも新仕様を提供する義務はあるものの、最初の大会から2台分を揃える必要はない。
少なくとも1基の供給を義務づけることで、ワークスチームだけが新仕様を使用し、カスタマーチームが性能面で取り残されることを防いでいる。一方ですべてのカスタマーチームに2基ずつ用意することを義務づければ、多数のチームにPUを供給するメーカーほど製造面の負担が増し、新仕様そのものの投入時期が遅れる可能性がある。
フェラーリは規則上必要な新仕様をハースにも供給したが、その数が1基だったことで、チーム内でどちらのドライバーに割り当てるかを決める必要が生じた。
小松礼雄「隠された意図はありません」
こうした状況では、PUの性能差以上にチーム内の公平性が問題になり得る。
小松礼雄は、オコンが新PUをすぐに使用できないことを喜ばないのは当然だと認めた。そのうえで、重要なのは判断基準を両ドライバーに明確に説明することだと強調した。
「こういうことについては、透明性を保つしかありません」と小松礼雄は語った。
「私たちは可能な限り透明で、公平な方法でチームを運営しています」
「もちろん、毎回すべての人を満足させることはできません。ただ、私たちには隠された意図はありませんし、どちらか一方のドライバーを個人的に優遇するような考えもありません」
「そういう関係をこれまで築いてきました。当然、エステバンはPU4をすぐに使えないことを喜んではいないでしょう。でも、これがチームにとってベストですし、私たちができる最も公平な方法です」
今回ベアマンが選ばれたのは、単純にどちらかのドライバーを優遇した結果ではない。ブレーキやパワーステアリングなど直近の開発ではオコンが先行していたため、その履歴まで含めて機会を均等化した形だ。

オコンは旧PUで「かなりの損失」と予想
では、ADUO 2による性能差はどれほどなのか。
フェラーリF1代表のフレデリック・バスールは、大幅な勢力図の変化につながるようなアップデートではないとの姿勢を示している。
「これは正しい方向への一歩だ。今年は小さなゲインの積み重ねが非常に重要だということは分かっている」とバスールは語った。
一方、旧仕様を使うオコンは、自身が聞いている情報から、新旧PUの差を無視できないものと受け止めている。
「僕は古いエンジンで走ることになる。だから、かなりの損失になると思う」とオコンは語った。
フェラーリのアップグレード版PUには、より大型のターボが採用され、そのほかにも出力向上を目的とした重要な設計変更が施されているとみられている。
フェラーリは2026年シーズン開幕時、レスポンスを重視して比較的小型のターボを選択していた。特にレーススタート時に、レスポンスに優れたPUが大きなアドバンテージをもたらすと考えていたためだ。
しかし、その後スタート手順に変更が加えられたことで、ライバルが抱えていたターボラグによる不利が大幅に縮小した。その結果、小型ターボによってフェラーリが得ていた相対的なアドバンテージも失われた。
そこで今回の新仕様では、より大型のターボを採用することで、全体的な出力を高める方向へと進んだと考えられている。
その差が勢力図を一変させるほど大きなものになる可能性は低いものの、パワー感度の高いモンツァでは、旧仕様と新仕様の違いが通常以上に表れやすい。
ハミルトン「必要な差のすべてではない」
ハミルトンも、新PUだけでフェラーリのパフォーマンス不足がすべて解消されるわけではないと認めている。
「少しでも助けになる」とハミルトンは語った。
「ここまでのシーズンでは、前戦のような短いサーキットでさえ、レースでは1周あたり4コンマを失っていた。それはものすごく大きな差だし、今年はここまでずっとそれを抱えてきた」
「これは前進だ。僕たちが必要としている差のすべてを埋めるものではないけど、そうなることは分かっていた。でも毎週末、少しずつ新しいものが投入されてマシンに加わっていくのを見るのはうれしい。僕たちがまだプッシュし続けていることが分かるし、勝つために必要なものを持っていると今も強く信じている」
異なるPU仕様が生むモンツァでの比較
ハースがモンツァで選んだのは、2基が揃うまで待つという意味での完全な平等ではなく、限られた1基をすぐに投入してチーム全体のパフォーマンスを最大化することだった。
前回のADUOアップデートでは2台分が揃うまで待ったが、モンツァではPU性能の重要度が高い。新仕様によって得られる可能性のあるゲインを使わずに週末を戦うことは、ハースにとって得策ではないとの判断だ。
一方で、新PUをベアマンだけに与えれば、オコンとの間に性能差が生じる可能性がある。オコン自身が「かなりの損失」と表現している以上、予選や決勝で両者の結果を単純に比較する際にはPU仕様の違いを考慮する必要がある。
同時に、同じハースのマシンで新旧フェラーリPUが走ることで、ADUO 2が実戦でどれほどの効果をもたらすのかを確認できる貴重な機会にもなる。
高速・高出力型のモンツァで新仕様がどこまでラップタイムに寄与するのか。ベアマンとオコンの「PU分割」は、ハースのチーム内事情だけでなく、フェラーリがADUO 2で実際にどれほどの性能向上を果たしたのかを測るうえでも注目すべきポイントとなる。
