アストンマーティンF1チームは、英国のハウスミュージック専門レーベル「Defected Records」とパートナーシップを締結した。
モータースポーツと音楽の組み合わせ自体は珍しくないが、今回の取り組みは単なるイベント演出ではなく、F1という競技の枠を越えてファンコミュニティを広げることを狙ったものだ。
F1とハウスミュージックはいずれも世界規模で支持を拡大しており、アストンマーティンは両者に共通する「グローバルな規模」と「ファン同士の親密なつながり」に着目した。グランプリを訪れない層にもチームの世界観に触れてもらうことで、新たなファンとの接点を築こうとしている。
アストンマーティンF1とDefected Recordsが提携
アストンマーティンは今週、英国を代表するハウスミュージックのレコードレーベル、Defected Recordsとのパートナーシップを発表した。
ハウスミュージックは1980年代初頭に米国シカゴで誕生し、その後世界的なジャンルへと成長した。現在ではヒットチャートにも頻繁に登場し、若い世代を中心に大きな支持を集めている。
F1との距離も決して遠くない。ドライバーがSNSに投稿する動画などでもハウスミュージックが使用される機会は多く、オスカー・ピアストリもその一例だ。
アストンマーティンは今回、その関係をさらに一歩進めた。ロンドン中心部のソーホーでは、ファンコミュニティ「I/AM」のメンバーを対象とした「Driven By Sound」と題するポップアップイベントを開催した。
一見するとF1チームとハウスミュージックのレーベルという異色の組み合わせだが、アストンマーティンF1チームの最高マーケティング責任者(CMO)を務めるロブ・ブルームは、両者には共通する考え方があると説明する。
「我々は象徴的な存在と結びつきたいと考えており、Defectedはまさにその条件を満たしている」
「Defectedには、ハウスミュージックはダンスフロアの内外に存在し、コミュニティ文化は音楽そのもの以上のものだという考え方がある。我々アストンマーティンF1チームも、まったく同じ考え方を持っている。グランプリに行くかどうかに関係なく、ファンと交流し、我々の世界に迎え入れたい」
「自動車会社やモータースポーツチーム以上の存在」
ブルームは、アストンマーティンというブランドそのものが、以前から自動車というカテゴリーだけに収まらない存在だったと強調する。
「アストンマーティンというブランドには100年の歴史があるが、常に文化的な現象でもあった。その存在は中核となる製品をはるかに超えている」
「我々は文化という領域で、自分たちのカテゴリーの外へ踏み出すことに非常に慣れている。そこが我々の活動する場所であり、単なる自動車会社やモータースポーツチーム以上の存在でありたいと考えている」
音楽とF1には以前から深いつながりがある。Fleetwood Macの「The Chain」がF1を象徴する楽曲として知られてきたほか、『F1/エフワン』でも音楽は作品を構成する重要な要素となった。
数多くの音楽ジャンルが存在するなか、アストンマーティンがハウスミュージックを選んだ理由について、ブルームは両者の「自然な一致」を挙げた。
「自然な親和性がある。ハウスミュージックとF1を見ると、どちらにも規模の大きさと親密さがある」
「ハウスミュージックとF1という2つのグローバルな存在があり、世界には8億2500万人のF1ファンがいる。本当にグローバルだ」
「しかし、今回のような小さな機会にファンを集めることで、そこに親密さが生まれる。巨大なグローバルプラットフォームでありながら、その中で非常に個人的で親密な関係や体験を作ることができる」

アロンソのレーシングスーツからホンダF1のPUサウンドまで
ソーホーで開催されたポップアップイベントでは、I/AMメンバーがアストンマーティンF1チームをより身近に体験できるさまざまな企画が用意された。
DJのサム・ディヴァインやRUZEによるセットを聴きながら無料のコーヒーを楽しめるほか、日曜日にはランニングクラブも開催された。
会場内にはフェルナンド・アロンソのレーシングスーツとヘルメットも展示された。また、来場者がさまざまな音を体験できる「サウンドウォール」も設置され、チーム無線やホンダ製F1パワーユニットのサウンド、さらにF1 ACADEMYドライバーのマリ・ボヤに関連するチーム無線などを聴くことができた。
ハウスユニット「The Shapeshifters」のプロデューサーであるサイモン・マーリンは、ダンスミュージックが生み出すコミュニティについて次のように語った。
「僕がこの仕事を始めてから、ダンスミュージックは大きく進化した。ダンスフロアで友人を見つけることほど特別なことはない」
「Defected Croatiaはその素晴らしい例だ。10年前には一度も会ったことがなかった人たちが、いまでは親友になり、今年のフェスティバルが終わったことを一緒に泣いて惜しんでいる」
「そういうことは、自分が特別だと感じられ、期待していたものを超えるような共有体験によってしか起こらない。そうした瞬間が人々を結びつける。ハウスミュージックは、それを実現する最大かつ最高のプラットフォームだ。とてもポジティブな力がある」
F1とハウスミュージックで広がる新たなファン文化
F1とハウスミュージックの接点は、すでにさまざまな形で生まれている。世界的なDJがF1公式プレイリスト「F1 Tracks」に参加しているほか、2026年F1シンガポールGPではDiploがパフォーマンスを行う予定だ。
元F1ドライバーが音楽の世界へ進んだ例もある。フェルナンド・アロンソと同じスペイン出身のハイメ・アルグエルスアリは、F1引退後に「Squire」の名義でDJ、音楽プロデューサーとして活動している。
アストンマーティンとDefected Recordsの提携が示しているのは、F1チームがレース週末だけをファンとの接点とは考えなくなっていることだ。音楽やファッション、ライフスタイルといった領域を通じて、サーキットを訪れない人々とも継続的なコミュニティを形成することが、チームのブランド戦略で重要性を増している。
世界規模のファンを持ちながら、一人ひとりには身近な体験を提供する。アストンマーティンF1チームはハウスミュージックとのコラボレーションを、その新しいファンとの関係を築く手段のひとつとして位置づけている。
