メルセデスF1 同じPUでもカスタマーと性能差「ツールセットが違う」

メルセデスF1 同じPUでもカスタマーと性能差「ツールセットが違う」

執筆者:

カテゴリ:

メルセデスF1は、2026年に導入された新世代パワーユニット(PU)を巡り、ワークスチームとカスタマーチームの間で性能を引き出す能力に差が生じている理由を説明した。

メルセデスは現在、マクラーレン、アルピーヌ、ウィリアムズにPUを供給している。しかし、同じメルセデス製PUを使用していても、ワークスチームほど性能を引き出せていないとの声がカスタマー側から上がっている。

メルセデスF1の副チーム代表ブラッドリー・ロードによれば、その背景にはPUそのものではなく、シミュレーションや予測に使用する「ツールセット」の違いがあるという。

同じメルセデスPUでも性能を引き出せないカスタマー
2026年はF1の新パワーユニット規則が導入された最初のシーズンであり、メルセデスはここまで11戦中8勝を挙げ、新規則への対応で一歩先を行っている。

一方、メルセデスPUを搭載するカスタマーチームからは、シーズン序盤からワークスとの差について疑問が示されてきた。

マクラーレンのチーム代表アンドレア・ステラは開幕戦オーストラリアGPで、メルセデスについて「彼らがやっていることを見ると、我々よりもはるかに多くのことを理解している。それに、情報の流れも想定していたものとは違っているのかもしれない」と語っていた。

ステラは、メルセデスF1とPUを開発・製造するメルセデス・ハイパフォーマンス・パワートレインズ(HPP)がより密接に連携できることについては「当然だ」と認める一方、マクラーレンとしてHPPとの協力をさらに強化したいとの考えを示していた。

この問題はその後も続き、イギリスGPではメルセデスがストレート上で使用していたスロットルリフトの手法が注目を集めた。

ステラは「少し驚いた。これは我々が話し合ってきたものではないし、そもそも我々が利用できるものなのかさえ分からない」とコメント。「あのようにPUを使うには、おそらく何らかの追加要素が必要なのだと思う」と語った。

メルセデス「すべてルールと契約に従っている」
これに対し、ブラッドリー・ロードは、ワークスチームがPUからより多くの性能を引き出せている理由について、供給されるPU自体の違いではなく、それを使いこなすための技術基盤にあると説明した。

「すべてルールに従っているし、すべて契約に従っている」

ロードはそう強調した。

「マクラーレン、そして他のカスタマーチームであるアルピーヌとウィリアムズは素晴らしいパートナーだと思っている。当然ながら彼らの要求水準は高い。優れたサポートと優れた製品を提供する会社と仕事をしたいからこそ、彼らはメルセデスを選んでいる」

「ブリックスワースのPUチームは、長年にわたるカスタマー供給を通じて、非常に公平かつ適切な方法でそれを行っていることを証明してきた」

つまり、メルセデスHPPはカスタマーチームに対して意図的に性能を制限したPUを供給しているわけではないということだ。

性能差を生むのはPUではなく「ツールセット」
では、なぜ同じPUを使いながら差が生まれるのか。

ロードは、最大の要因としてシミュレーション技術やPUとシャシーの挙動を予測するためのツールを挙げた。

「おそらく避けられないことだが、違いがあると認識されたり、カスタマー側が一歩遅れていると感じたりする部分がある。それは多くの場合、シミュレーションツールや、PUとシャシーがどのように振る舞うかを予測する能力といったところにある」

「そして、そうしたツールセットの多くは、ブリックスワースだけで開発したものではない。MGP(メルセデス・グランプリ)のシャシーチームとブリックスワースのHPPが共同で開発してきたものだ」

ここが重要なポイントとなる。

PUそのものに関する技術やデータはHPPからカスタマーへ提供できても、メルセデスF1のシャシーチームが開発に関与した技術は、F1の知的財産(IP)に関する規則によって、そのまま他チームへ渡すことはできない。

「技術レギュレーションでは、シャシーチームのIPについて、チーム間で何を共有できて何を共有できないかが非常に明確に定められている」

メルセデスAMG・ペトロナス・モータースポーツ

カスタマー側も独自開発への投資が必要
そのため、メルセデスがワークスチームで使用している技術をカスタマーへ提供する場合、シャシーチームのIPに該当する部分を切り離す作業が必要になるケースもある。

あるいは、カスタマーチーム自身が予算を投入し、同様の能力を持つ独自のツールを開発しなければならない。

「場合によっては、カスタマーチームに提供できるようにする前に、要素を切り分ける作業が必要になる」

「あるいは、カスタマーチーム自身が作業を行い、PUを最大限に活用するためのツールを開発するために、自分たちのコストキャップ内のリソースを使って投資する必要がある」

ロードは、これが2026年の新規則で浮上した複雑な問題のひとつだと説明する。

「おそらく、これが我々が直面している複雑さのひとつだ。ただ、まったく新しいレギュレーションであり、しかも以前より複雑な規則であることを考えれば理解できることでもある」

シーズン中盤でも続く新PUの学習
2026年のPU規則は従来以上に複雑であり、ロードによれば、ワークスのメルセデス自身もまだ完全に理解し尽くしたわけではない。

「メルボルンで開幕を迎えられるところまで持っていくこと自体、全員にとって本当に大仕事だった」

「ここ数戦を見ても、まだ急激な学習曲線の途中にいる。シーズンの半分まで来ても、我々はデバッグを続けているし、思わぬ問題につながるものを発見し続けている」

それでも、現時点で新PU規則を最もうまく活用しているのはメルセデスだ。

2026年シーズン前半の11戦でメルセデスは8勝を挙げ、フェラーリが2勝、マクラーレンがハンガリーGPで1勝を記録している。

コンストラクターズ選手権ではメルセデスがフェラーリに72ポイント差をつけて首位。ドライバーズ選手権でもキミ・アントネッリがルイス・ハミルトンに50ポイント差をつけてランキングトップに立っている。

同じメルセデスPUを搭載していても、PUの性能を最大限に引き出すには、エンジンそのものだけでなく、シャシーとの統合、シミュレーション、制御方法を予測する技術基盤が不可欠となる。2026年の新規則では、その「使いこなす能力」がワークスとカスタマーの新たな差になっている。