マクラーレンF1 同じメルセデスPUでなぜ遅い? ワークスとの差は「投資」

マクラーレンF1 同じメルセデスPUでなぜ遅い? ワークスとの差は「投資」

マクラーレンは2026年F1シーズン、メルセデスと同じパワーユニット(PU)を搭載しながら、その性能をワークスチームほど引き出せていない。この差をめぐり、メルセデスとマクラーレン双方の技術陣が、その背景にある複雑な事情を明らかにしている。

問題の核心にあるのは、単純なPUの仕様差ではない。新世代PUを車体と組み合わせて最適に運用するためのシミュレーションツールやソフトウェア、そしてそれらを開発・運用するためのリソースだ。

メルセデス側は、マクラーレンがさらに自ら投資する必要があるとの見方を示している。

同じメルセデスPUでも生まれた性能差
2025年にドライバーズ、コンストラクターズの両タイトルを獲得したマクラーレンだが、新しいテクニカルレギュレーションが導入された2026年は苦戦を強いられている。

夏休み前のハンガリーGPではランド・ノリスが今季初のポールポジションから勝利を挙げたものの、それまでの10戦で表彰台は4回。コンストラクターズランキングでは、前年に364ポイント差をつけて破ったメルセデスに対し、現在は159ポイントのビハインドを抱えている。

その要因のひとつとして注目されてきたのがPUの使い方だ。

2026年のF1では、内燃エンジンと電動部分の出力比率が53対47となり、従来以上にエネルギーマネジメントが重要になった。同じメルセデス製PUを使用していても、車体特性に合わせた制御やエネルギー配分によって実際のパフォーマンスには差が生じる。

マクラーレンのチーム代表アンドレア・ステラは6月末、ストレートでメルセデスに最大約0.15秒/周を失っていると説明していた。

さらに7月のイギリスGPでは、メルセデスのワークス車両が予選で使用していたPUのパフォーマンスを引き出す手法について、マクラーレン側が驚きを示す場面もあった。

「HPP(メルセデス・ハイパフォーマンス・パワートレインズ)とは技術レベルで継続的に話し合っている。この素晴らしいPUで利用可能なものを確実に使えるようにするためだ」とステラは語った。

「これは本当に素晴らしい技術で、多くのパフォーマンスがある。ただ、その性能は細かな使い方の部分にも存在している」

「ストレートでのパフォーマンスを見ると、彼らの方がドラッグが少ない可能性を考慮しても、まだいくつか疑問が残っている」

メルセデス「意図的に差をつけているわけではない」
この問題について、メルセデスの副チーム代表ブラッドリー・ロードは、ワークスチームが意図的にカスタマーチームへ情報を与えていないという見方を否定している。

「すべてはレギュレーションと契約に従っている。マクラーレンだけでなく、アルピーヌやウィリアムズも素晴らしいパートナーだ。彼らが要求の高い存在なのは当然だし、優れたサポートと製品を提供する会社としてメルセデスを選んでいる」

ロードによれば、ブリックスワースのHPPは長年にわたりカスタマー供給において公平な対応を続けてきた。

それでもワークスとカスタマーの間で差が生まれる理由として、ロードが挙げたのがシミュレーションツールだ。

「違いがあると認識されたり、カスタマー側が一歩遅れていると感じたりする部分があるとすれば、多くの場合、それはシミュレーションツールやPUとシャシーの挙動を予測する能力といったところにある」

ここで重要なのは、メルセデスが使用するツールのすべてがHPPだけで開発されたものではないという点だ。

ワークス専用の技術はそのまま渡せない
メルセデスのPU運用ツールには、ブリックスワースのHPPだけでなく、F1ワークスチームであるメルセデスのシャシー部門と共同開発したものも含まれている。

F1の技術規則では、チーム間で共有できる知的財産(IP)について厳格な制限が設けられている。そのため、メルセデスが持っているツールをそのままマクラーレンへ渡せるわけではない。

「そうしたツールの多くはブリックスワースだけでなく、MGP(メルセデスF1チーム)のシャシー部門とHPPが共同で開発したものだ」とロードは説明する。

「当然ながら技術規則では、シャシーチームのIPについて、チーム間で何を共有できて何を共有できないのかが非常に明確に定められている」

このため、カスタマーへ提供する前にワークス側のIPを切り離す作業が必要になるケースがある。

そして、ここからマクラーレン自身の「投資」という問題が浮上する。

「場合によっては、カスタマーチーム自身が作業を行い、自分たちのコストキャップのリソースを使って、PUから最大限の性能を引き出すためのツールを開発する必要がある」

「おそらく、これが我々が直面している複雑さのひとつだ。ただ、新しいレギュレーションであり、しかも以前より複雑な規則になっていることを考えれば理解できることでもある」

つまり、同じPUを購入すれば同じ性能が自動的に手に入るわけではない。PUそのものに加えて、それを最大限に活用するための解析環境にもマクラーレン自身がリソースを投入しなければならない。

マクラーレンも「リソース不足」を認める
この点については、マクラーレン側の説明とも一致する。

マクラーレンのエンジニアリング担当テクニカルディレクター、ニール・ホールディは、2026年シーズン開幕前の準備について、自分たちとHPPの双方で十分なリソースを投入できていなかったと認めている。

「PUという観点では、その運用方法や複雑さについて、まだ学ばなければならないことが多いのは明らかだった。僕たちとHPPの間で、そこに十分なリソースを投入できていなかった」

「このレギュレーションではエネルギーマネジメントが難しくなることは分かっていたし、スタートするために良いと思えるものは準備していた」

しかし、特にソフトウェア面ではさらに準備できる余地があったという。

「テストや最初の数戦までに、僕たちもHPPもソフトウェア面でもっと作業できたと思う。そうしていれば、エネルギーマネジメントについて、もっと能力の高い状態でシーズンを始められたはずだ」

マクラーレンとメルセデスAMG・ペトロナス・モータースポーツ

MCL40専用のキャリブレーションが必要
問題をさらに複雑にしているのが、マクラーレンMCL40とメルセデスのマシンでは車体特性が異なることだ。

PUが同じでも、空力特性やドラッグ、車速、燃料搭載量などが違えば、最適なエネルギーの使い方も変わる。そのためマクラーレンにはMCL40専用のキャリブレーションが必要になる。

「僕たちのマシンはワークスチームとは違う。だから僕たちのマシン専用のキャリブレーションが必要になるが、現時点ではそれを素早く承認できるだけの能力がない」とホールディは説明する。

開幕から3〜4戦では大きな進歩を遂げたものの、まだPUから引き出せていない性能が残されているという。

「今後数戦、そして2027年に向けても、さらにステップを踏む必要がある。PUから得られる可能性がある最後の0.1秒を、現時点では完全には引き出せていない」

マクラーレンは「メインループ」の外側
マクラーレンのパフォーマンス担当テクニカルディレクター、マーク・テンプルも、カスタマーチーム特有の難しさを説明している。

マクラーレンもPUの設計や搭載方法について相当な意見を出すことはできる。しかし最終的な決定権は、HPPとメルセデスのワークスチーム側にある。

「僕たちにもかなりのインプットはあるが、最終的にHPPと何をするのかについて最終決定権を持つのはMGPだ。だからといって僕たちが無視されているという意味ではない。ただ、完全にコントロールしているのは僕たちではない」

レース週末にHPPはワークス側の「メインチーム」と各カスタマー向けのサポートチームという形で活動する。

「僕たちは少しメインループの外側にいて、プログラムへ情報を送り込むサイドループで仕事をしている。そのため、僕たちが望む設定や、自分たちに適した設定を必ずしも得られるとは限らない」

情報が届くタイミングにも違いがある。

「レースに向けてHPPから情報を受け取るが、その前には僕たちが参加していない意思決定や開発がある。何が使えるのか分かった時点では、それに反応して対応する時間があまり残されていないことも多い」

マクラーレンは、この弱点を解消するために従来存在しなかった「PUパフォーマンスチーム」を新たに構築している。

短いギア比もマクラーレンの足かせに
もうひとつの違いがギア比だ。

マクラーレンはシーズン開幕前に得られたメルセデス側の情報を基に、比較的短いギア比を選択した。短いギア比には加速性能やスタートなどでメリットがある一方、高速域では不利になる可能性がある。

現在の知識を持ってもう一度選択できるならどうするかと問われたホールディは、「メルセデスにもっと近づける」と認めた。

「もう一度やり直せるなら、メルセデスに近いギア比にすると思う」

「短いギア比だからこそ得られるパフォーマンス上の機会もある。コーナーでより低いギアまで落とさずに済む場合もあるし、リスタートやスタートでもメリットがある」

「ただ、高速側を考えれば、おそらく他のチームが持っているものを選ぶだろう」

もっとも、ホールディはギア比だけで大きな差が生じているわけではないことも強調する。

「小さなラップタイムの違いだ。ただ、そういう小さなものが積み重なると、それなりのラップタイムになる」

「とはいえ、ここで話しているのは10分の1秒ではなく、数ミリ秒だ」

2027年に向けて問われるマクラーレンのPU運用能力
メルセデスとマクラーレンの説明を合わせると、2026年に生じている差を単純な「ワークス対カスタマー」という構図だけで説明することはできない。

PUそのものは同じでも、メルセデスにはHPPとシャシー部門が共同で蓄積したシミュレーション環境があり、PUとマシンを一体として最適化できる。一方、その中には規則上マクラーレンへそのまま提供できないIPも含まれる。

マクラーレンは独自のツールやソフトウェア、人員にコストキャップ内のリソースを投入し、MCL40に合わせたエネルギーマネジメントやキャリブレーションを構築しなければならない。

さらに、情報を受け取るタイミング、設定に対する最終決定権、ギア比といった小さな違いも積み重なっている。

2025年にメルセデスを364ポイント上回った王者マクラーレンが、2026年には同じPUを搭載するワークスチームを追う立場となった背景には、新世代F1で「エンジンを持っていること」と「エンジンを完全に使いこなすこと」が別の問題になったという現実がある。

ハンガリーGPでノリスが示した速さはMCL40そのものに競争力があることを証明した。だからこそ、PUから取りこぼしている最後のパフォーマンスをどこまで回収できるか。そのための投資と技術基盤の構築が、残る2026年シーズンだけでなく2027年に向けてもマクラーレンの重要な課題となる。