レッドブル・レーシングのチーム代表兼CEOを務めるローラン・メキースが、就任から約1年を振り返った。
2025年シーズン後半の劇的な巻き返しから、レッドブル・フォード・パワートレインズによる自社製F1パワーユニットのデビュー、そして2026年序盤の苦戦からトップ争いへの復帰まで、目まぐるしく状況が変化した1年を「ジェットコースターのようだった」と表現している。
49歳のメキースが特に強調するのは、2026年の新レギュレーションを控えながらも2025年型マシンの開発を諦めなかったチームの姿勢だ。その決断によってマックス・フェルスタッペンはタイトル争いに復帰し、同時に新時代に向けた巨大プロジェクトも進められていた。メキースは、この二つを並行して成し遂げた組織の粘り強さこそ、現在のレッドブルの競争力につながっていると評価している。
2025年の逆襲「誰も諦めようとしなかった」
メキースがクリスチャン・ホーナーの後任としてレッドブルを率いることになった当時、2025年のドライバーズタイトル獲得は厳しい状況にあるとみられていた。しかし、フェルスタッペンはシーズン後半に猛烈な追い上げを見せ、最終的にはランド・ノリスにわずかなポイント差まで迫った。
「この1年はジェットコースターのようだった。率直に言って、何よりもまず、このチームの一員でいられることは大きな名誉だ。昨年加入した当初の数週間を振り返ると、今では少し非現実的に感じる」
メキースはまず、シャシー部門とパワーユニット部門のスタッフをできるだけ早く理解することに努めたという。その一方で、チームは2025年序盤の低迷から立て直すための大規模な作業を続けていた。
「シャシー側にもパワーユニット側にも素晴らしい人材がいる。そうした人たちをできるだけ早く理解しようとしていた。そして最初に取り組んだのが、2025年シーズン序盤の難しい状況から立て直すための大きなプッシュだった」
「ピエール(ワシェ)とチームが諦めようとしなかったことをよく覚えている。彼らは昨年のマシンにパフォーマンスが足りないという状況を受け入れようとはしなかった」
2026年には全面的なレギュレーション変更と新パワーユニットの導入が控えていた。さらにチーム代表も交代しており、2025年型マシンを早期に見切る理由はいくらでもあったとメキースは振り返る。
「2026年のレギュレーションがあり、新しいパワーユニットがあり、新しいチーム代表もいる。『このマシンはうまくいっていない。来年解決すればいい』と言う理由はいくらでもあった」
「しかし、誰もそうしようとはしなかった。少しずつではあるが確実に、マシンの新しいバランスポイントを見つけ、新たな開発、新たな方向性を見いだしていった。そこにマックスの少しばかりの魔法が加わり、あの巻き返しにつながった」
F1パワーユニット自社開発という「最もクレイジーなプロジェクト」
2025年のタイトル争いが終わっても、レッドブルに休む時間はなかった。2026年には、フォードとの協力によって開発した自社製パワーユニットを初めてF1に投入するという、チーム史上最大級の挑戦が待っていたからだ。
「アブダビでシーズンが本当に終わったと実感する時間さえなかった。目の前には大きなカウントダウンがあったからだ。正確に言えば、スタッフにとってそのカウントダウンは4年ほど前から始まっていた」
「その先にあったのは、自分たちでパワーユニットを作るという、考え得る中でも最もクレイジーなプロジェクトだった」
メキースは、既存メーカーに依存せずF1パワーユニットを構築するという決断そのものが、通常の企業論理では考えにくいものだったと語る。
「世界中のどんな取締役会や株主でも、『これはいいアイデアだ。自分たちでF1パワーユニットを作り、90年にわたってそれをやってきた人たちと戦おう』とは、なかなか考えないだろう。普通なら選ばない道だ」
「しかし、それこそがレッドブルのやり方だ。我々は、不可能だと思われることに挑戦する。当時、株主と経営陣がそう決断した。そしてベン(ホジキンソン)が率いる素晴らしいチームが集められ、彼らは4年間、舞台裏で仕事を続けてきた」
失敗すれば「1年、2年、3年と競争力を失う」
メキースは、新パワーユニットのデビューが近づくにつれて、チーム内の緊張感が高まっていったことも明かした。
「ある時点から、カウントダウンの終わりが近づいてくる。そして冬の間、我々の頭上には黒い雲があったと言っていい」
「パワーユニットのプロジェクトに失敗すれば、1年、2年、場合によっては3シーズンにわたって競争力を失うことになるからだ」
その危険性を示す例として、メキースは2014年に始まった前回のパワーユニット規則時代を挙げた。
「2014年に始まった前回のレギュレーションサイクルでもそれを見ている。新規参入だったかどうかに関係なく、最初につまずいたところは非常に長い期間にわたってトップから遅れることになった」
バルセロナでハジャーが100周「それが普通に見えた」
大きな不安を抱えたまま迎えた2026年1月、レッドブル・フォードの新パワーユニットはバルセロナで実走デビューを果たした。プレシーズンテスト初日にはアイザック・ハジャーが100周を走破した。
「キャンパスにいる全員が何日も何晩も、週末まで働き続け、ようやく1月を迎えた。そしてバルセロナでのプレシーズンテスト初日、アイザック(ハジャー)がマシンを走らせて100周した」
「我々はただ顔を見合わせた。それがあまりにも普通のことのように感じられた」
「レッドブル・パワートレインズ・フォードのスタッフとシャシー側のスタッフが、同じシャツを着て一緒に働いている。それを見るのは素晴らしい感覚だった。そしてかなり早い段階で、自分たちは戦いの中にいると感じられるようになった。それが本当に短い時間で当たり前のことになった」
もちろん、すべてが順調だったわけではない。
「誤解してほしくない。普通に感じられたと言っても、望んだように機能していないものは数多くあったし、必要なレベルに達していない部分も数多くあった。それでも、戦えるだけの距離にはいると感じられた」
開幕戦で突きつけられた「1.2秒」の現実
プレシーズンで手応えを得たレッドブルだったが、開幕戦オーストラリアGPでは厳しい現実を突きつけられた。基準となったメルセデスに対し、約1.2秒もの差があったという。
「メルボルンに着いた時点では、大きなポジティブ要素がいくつもあった。黒い雲はもうなくなっていたし、戦えると思っていた。しかし、そこで突きつけられた厳しい現実は、ペースから1.2秒遅れていたということだった」
ただしメキースは、その差について、2025年型マシンの開発をシーズン終盤まで続けたことを考えれば、ある程度は合理的だったと分析する。
「正直なところ、昨年どれだけ遅い時期まで開発をプッシュしたかを考えれば、おそらくかなり論理的な結果だった。今年のマクラーレンにも、ある意味で同じことが見えている。そして我々は昨年、彼ら以上に強く、より遅い時期までプッシュしていたと思う」
「そこにパワーユニットの要素も加わる。1.2秒という差の一部はシャシー側、一部はパワーユニット側にあった。それでも我々には戦えるという感覚があった」
当時のレッドブルは自らを「4番手チーム」と評価していた。
「我々が『今は4番手チームだ。それでも現時点ではポジティブに受け止めている』と言ったことで、ファンやもっと広い層の人たちは驚いたかもしれない」
「もちろんレース週末になり、実際に3チームが自分たちの前にいる現実を見るのは、決して気分のいいものではない」
半年足らずで約1秒を挽回「残りは0.3秒」
そこからレッドブルは急速に差を縮めた。メキースによれば、開幕時にあった1.2秒の大部分はすでに解消されており、現在トップとの差は約0.3秒まで縮まっている。
「しかし、レッドブル・レーシングは再び、自分たちが非常に得意としていることをやった。それが開発のスピードだ」
「まだ半シーズンほどしか経っていないが、あの1.2秒の大部分は消えた。究極のペースに対して、残っているのはおそらく0.3秒だ」
一方で、最後の数コンマを埋めることこそ最も難しいとも認める。
「最後の0.3秒が最も難しいことはよく分かっている。その最後の0.3秒を取りにいけるかどうかは、時間が教えてくれるだろう」
「ただ、この4カ月、5カ月で成し遂げたことについて、ピエールのチームとベンのチームには敬意を表さなければならない。ある日は勝利を争い、次のレースでは表彰台を争う。そうした状態を普通だと思えるところまで我々を戻してくれた」
レッドブル・フォードは「期待を上回った」
新規開発したパワーユニットでここまで競争力を発揮できたことは、メキース自身にとっても予想以上だったという。
「私にとっても、おそらく多くの人にとっても、期待を上回るものだった」
「パワーユニットの専門家たちについて言えば、この12カ月で最も厳しかった時期には、グリッドに並び、しかも適切なレベルで戦うために解決しなければならない、かなり複雑で深刻な問題もあった」
「しかし最も難しい時でさえ、彼らは正しい場所に到達するために必要な手段を自分たちは持っているという確信を失わなかった」
「だから、確かに驚きではあった。彼らが期待を上回ったことに疑いはない」
メキースは特に、ホジキンソン率いるパワーユニット部門が困難な局面でも強さを失わなかったことを評価した。
「改めて、ベンと彼のチームを評価しなければならない。順調な日だけでなく、より重要なのは、うまくいかない日にも強さを保ち続けたことだ」
2027年タイトル争いへ「不利だとは思わない」
2025年後半から2026年前半にかけて、レッドブルは主要スタッフの離脱や独自パワーユニットへの移行という大きな変化を経験した。それでもメキースは、チームが将来の勝利とタイトルを争うための基盤をすでに築いたと考えている。
「2025年のあの段階からシーズン終了まで、レッドブルの進歩は非常に大きなものだった。そして大物の離脱や新しいパワーユニットプロジェクトがありながら、今年前半の進歩もそれに匹敵するものだった」
「将来の勝利とタイトルに向けた基盤は整っている。そして現実的なタイムラインは、当初考えられたものよりはるかに短くなっている」
そのうえでメキースは、2027年に向けてレッドブルがメルセデス、マクラーレン、フェラーリに対して構造的な不利を抱えているとは考えていないと強調した。
「来年に向けて、メルセデス、マクラーレン、フェラーリに対して我々が何らかの不利を抱えているとは思わない」
「だからといって、我々が勝つとか、彼らが勝つとか、そういう意味ではない。来年のタイトル争いに向けてマシンを開発していくうえで、かなり平等なチャンスを持った4つの大きなチームがいるということだ」
2025年型マシンを最後まで開発しながら、並行して自社製パワーユニットという巨大プロジェクトを進め、2026年開幕時の約1.2秒差を半年足らずで約0.3秒まで縮めたというのが、メキースが振り返るこの1年だ。残された最後の数コンマを埋められるかが、レッドブル・レーシングとレッドブル・フォード・パワートレインズが再びF1タイトル争いの中心に立てるかを左右することになる。
