レッドブル・レーシングで、チーム代表ローラン・メキースが進める組織改革をめぐり、一部のスタッフから「フランスのチームになりつつある」との声が上がっているという。クリスチャン・ホーナーの後任として就任してから1年あまり、メキースは徐々に自身の色を組織に反映させている。
近年のレッドブルでは、エイドリアン・ニューウェイをはじめ、ロブ・マーシャル、ジョナサン・ウィートリー、ウィル・コートネイ、クレイグ・スキナーら長年チームを支えてきた主要スタッフが相次いで離脱。
さらにポール・モナハンもチームを離れ、キャデラックへ移籍するとみられており、英国人を中心に構成されてきたミルトンキーンズの組織は大きな転換期を迎えている。
ニューウェイ離脱後に変わったレッドブルの勢力図
レッドブルは長年、英国を拠点とする技術者を中心に強力な組織を築いてきた。しかし、相次ぐ幹部の離脱によって、その構造は急速に変化している。
ニューウェイが去った現在、テクニカルディレクターのピエール・ワシェは、ミルトンキーンズの技術部門で最も大きな影響力を持つ人物のひとりとなった。
そして、ホーナー時代の終焉後に進められている人事で特に注目を集めているのが、メルセデスからグウェン・ラグルーを獲得したことだ。
ラグルーはメルセデスで約10年間にわたってドライバー育成部門を担当し、ジョージ・ラッセルやキミ・アントネッリらのF1昇格を支えてきた人物である。2027年からレッドブル・ジュニアチームのディレクターに就任し、事実上、長年若手育成を取り仕切ってきたヘルムート・マルコの役割を引き継ぐことになる。
また、フェラーリからコンサルタントとして加入したジーノ・ロサートは、カナダのフランス語圏であるケベック出身だ。
メキースの人事にレッドブル内部から疑問
F1 Insiderのラルフ・バッハによると、レッドブル内部では、フランス人のメキースが自身と近いバックグラウンドを持つ人物を周囲に集めているのではないかと見る向きがあるという。
その狙いについてバッハは、純粋な競争力向上だけではなく、メキースが組織内部の安定を重視している可能性を指摘した。
「彼は自分の周囲に人を集め、政治的な平穏を確保しようとしている。必ずしも彼を前進させてくれる人ではなくても、少なくとも問題を起こさない人たちを求めているということだ」
「これはレッドブルの人たちと話していて出てくる話のひとつだ」
もっとも、ラグルーの起用が単純に国籍を理由としたものなのかについて、バッハ自身も断定していない。
「彼(ラグルー)がフランス人なのは偶然なのか? それは分からない。ただ、レッドブル内部には『もう本拠地をル・カステレかマニクールに移せばいい』という声もある。要するにフランスへ移転してしまえということだ。どうせフランスのチームになりつつあるんだからね」
メキースが目指すのは安定か、それとも新たなレッドブルか
こうした「フランス化」という表現には皮肉も含まれているが、その背景にはレッドブルの組織文化が大きく変わりつつあることへの警戒感がある。
ホーナーのもとで長期間にわたって形成された経営体制に加え、ニューウェイ、ウィートリー、マーシャルらが担ってきた技術・運営面の中核もすでに大きく様変わりした。そこにメキースが新たな人材を配置することで、従来とは異なる権力構造が形成され始めている。
一方、ラグルーはメルセデスで若手育成の実績を残しており、その招聘自体には明確な理由がある。ワシェも長年レッドブルの技術部門を支えてきた人物であり、フランス人スタッフが要職を占めているという事実だけで、人事の意図を判断することはできない。
F1では、同じ国籍や過去に仕事をともにした人物が新たな責任者の周囲に集まること自体は珍しくない。重要なのは、その人事によって組織の安定と競争力を両立できるかどうかだ。

アルピーヌとは対照的な“フランス化”
興味深いのは、本来「フランスのF1チーム」であるアルピーヌが、実際には英国オックスフォードシャーを活動拠点とし、現在はルノー製パワーユニットも使用していないことだ。
アルピーヌの実権を握るフラビオ・ブリアトーレはイタリア人で、マネージングディレクターのスティーブ・ニールセンは英国人。一方で英国ミルトンキーンズを本拠地とするレッドブルでは、フランス人のメキースとワシェが重要なポジションを担い、さらにラグルーが加わろうとしている。
もちろん、これだけでレッドブルが文字通り「フランスのチーム」になるわけではない。それでも、内部からこうした冗談交じりの声が聞かれること自体、ホーナー時代から続いてきたレッドブルの組織が大きな変革期にあることを象徴している。
メキースが進める人事が組織に安定をもたらすのか、それとも一部スタッフが懸念するように新たな軋轢を生むのか。最終的な評価を決めるのは国籍ではなく、再編されたレッドブルがF1でどのような結果を残すかになりそうだ。
