F1では2027年に向け、2026年シーズンに各チームが開拓した複数の空力デバイスが禁止される。対象にはエキゾースト周辺のウイング、リアウイングのハンガー延長、そしてモナコGP以降に広がったアクチュエーターフェアリングのウイングレットなどが含まれる。
FIAは、これらの規制強化について単なる開発競争の抑制だけが目的ではないと説明する。最大の狙いは、マシン同士が接近して走れるという現行レギュレーションの基本コンセプトを守ることだ。
2022年に導入したグラウンドエフェクト規則では、当初は改善された後続車の空力性能が数年間の開発によって大幅に悪化した。
その失敗を繰り返さないため、FIAは早い段階で手を打つ。
2027年F1で禁止される主な空力開発
2026年の新レギュレーションでは、チームが想定以上のスピードで細かな空力上の余地を発見した。その代表例が、排気流周辺を利用する「エキゾーストウイング」だ。
さらにリアウイングでは、支持構造であるハンガーを延長して空力的に利用するアイデアも登場。モナコGP以降には、リアウイングのアクチュエーター周辺に設けられたフェアリングを利用し、小型ウイングレットを形成する開発も各チームに広がった。
FIAはこうした領域を2027年規則で規制する。目的のひとつはダウンフォースを抑えることであり、もうひとつは限られた小さな領域を巡って巨額の開発費が投入される「開発戦争」を防ぐことにある。
ただし、FIAは空力設計を完全に画一化する考えではない。チームが独自のアイデアを生み出せる余地を残しながら、レギュレーションの根幹を損なう方向への開発だけを封じる方針だ。
2022年F1で起きた「追い抜きやすさ」の後退
FIAシングルシーター部門ディレクターのニコラス・トンバジスは、現在の2026年型F1マシンについて、後続車が受けるダウンフォース低下は2022年シーズン開幕時と同程度の水準にあると説明する。
2022年の規則は、前を走るマシンが発生させる乱流の影響を抑え、後続車が接近しやすくすることを大きな目的として導入された。
当初、前走車から10メートル後方でのダウンフォース低下は約15%、20メートルでは約5%だった。しかし各チームが規則の自由度を利用して空力開発を進めた結果、数年後には10メートルで約35%、20メートルでも約15%まで悪化した。
つまり、マシンそのものは速くなった一方で、後続車にとっては再び走りにくい環境になっていった。
「2022年選手権のスタート時と似たところにいると思う。ただ、今年の方が少し堅牢だと思っている」
トンバジスは2026年規則についてそう評価する。
「チームはいろいろな空力ソリューションを導入してきたが、コンセプトそのものを壊すようなものはまだ見つけていない」
FIAが学んだフロントウイングとフロアの教訓
前世代のレギュレーションで問題となったのは、規則上残されていた設計自由度だった。
「以前のレギュレーションでは、コンセプトを大きく損なったものがいくつかあった。主にフロントウイングのエンドプレート、フロアエッジ、そしてフロントホイール周辺に付けられたさまざまな空力パーツだ」
「それらすべてが後流の特性をかなり悪化させた。我々はそこから学んだ。今回は同じような問題が存在しないことを願っている」
フロントウイングやフロアの開発によって前輪周辺の乱流を外側へ押し出す「アウトウォッシュ」が強まり、それが後続車に届くウェイクを悪化させたことが、2022年規則の狙いを徐々に損なう要因となった。
2026年規則では、この経験を踏まえて空力的な自由度の与え方そのものが見直されている。

エキゾーストウイングはFIAにも想定外
もっとも、FIAが2026年の空力開発をすべて予測できていたわけではない。
トンバジスは、エキゾースト周辺の開発など一部のアイデアについては想定外だったことを認める。
「例えば、エキゾーストを使ったソリューションが出てくるとは予想していなかった。ボディワークについてもいくつかのソリューションがあり、それについてはすでに来年に向けて修正している」
一方、リアウイングのアクチュエーター周辺については、2027年から合法領域を狭めるものの、完全に設計の余地をなくすわけではない。残されたスペースを利用して、各チームが新たなアイデアを考案する可能性は残る。
「全体として、チームにとってマシン開発が興味深いチャレンジであり続けるようにしたかった」
「完全に制限する方向には進まなかった。設計自由度を残しながら、パフォーマンスが徐々に収束していくという意味では、それほど悪い位置にはいないと思う」
トンバジスは、現在もチーム間には「妥当な性能差」が存在するとしながら、今後6カ月ほどで徐々に収束していくとの見通しを示した。
2026年F1マシンは「簡単に運転できない」ことも狙い
2026年の新パワーユニット規則についてはドライバーから不満も出ている一方、シャシーについては比較的好意的な評価が聞かれている。
前世代のグラウンドエフェクトカーで問題となった極端に硬いサスペンションや低い車高が緩和され、ダウンフォースも減少。コーナーではドライバーがより積極的にマシンを操る必要がある。
トンバジスは、それも意図したものだと語る。
「ドライバーにとって、今でもかなり難しいマシンだと思う。誰にでも運転できるようなクルマではないというのは良いことだ」
「空力規則の一部によって、チームはコーナーのあらゆる局面を完璧に解決することができなくなっている。だからこそドライバーには課題が残る」
そして、その考えをユーモアを交えて表現した。
「世界最高の22人のドライバーがいるのだから、僕のおばあちゃんでも簡単に運転できるようなマシンであるべきではない」
また、車高を以前より高くしたことで身体的な厳しさも軽減された。
「車高も少し上げたので、昨年ほど過酷ではない。それに少し軽く、小さくなった。そこはドライバーたちにも評価されている」
次世代F1では「さらに80kg軽量化」が目標
FIAは2026年規則の方向性には一定の手応えを得ているものの、現在のマシンを最終形とは考えていない。
トンバジスが次世代F1マシンで特に重視しているのが、さらなる軽量化と小型化だ。
「我々が望んでいるところまで来ているかと言えば、ノーだ」
「さらに80kgほど軽くしたいし、もう少し短く、もう少し小さくしたい」
「それが目標だ。今回可能だったところから、さらに大きな一歩を踏み出したい」
2027年の空力規制は、単純に革新的なアイデアを禁止するためのものではない。FIAが重視しているのは、2022年に経験したように、開発競争によって「接近して戦えるF1」という規則の根本思想が数年で失われることを防ぐことだ。
エキゾーストウイングなど想定外のアイデアには早期に規制を加える一方、技術競争そのものは残す。2027年の変更は、開発の自由とレースの質を両立させるための調整という位置づけになる。
