カテゴリー: マクラーレンF1チーム

  • マクラーレンF1:MCL39の優位性を支えるメカニカル&空力パッケージの統合

    マクラーレンF1:MCL39の優位性を支えるメカニカル&空力パッケージの統合

    マクラーレンMCL39が今季ライバル勢に対して示しているアドバンテージの核心には、同マシンのメカニカルおよび空力パッケージの統合された洗練性がある。

    フロントサスペンションのレイアウト──ハブに対して分離された下部ウィッシュボーンの接続構造、およびブレーキへと導かれる気流の流し方──は、フロントタイヤの温度コントロール性能において重要な役割を果たしていることはほぼ間違いない。

    F1マシンにおいては、タイヤを素早く適正な作動温度まで引き上げ、その後は過加熱させずに安定させ続けることが課題となる。

    これには、ブレーキダクトとホイールリムを通じて流れる気流に対し、極めて精密な流量と方向のコントロールが要求される。

    さらに、フロントサスペンションの極端なアンチダイブ設計により、低速域でも車体前部を低く保ちつつ、リアのライドハイト上昇を最小限に抑えることが可能となっている。これらのメカニカルおよび空力的システムが連携してタイヤ温度を制御しつつ、広い速度域で高いダウンフォースを発生させることこそが、パフォーマンスの鍵となっている。

    マクラーレン F1 図解左は部分組み立て状態の最新ブレーキダクト、右は標準的なアウタードラムを装着した完成状態。

    こうした中で、新たなフロントウイングがモントリオールで試験され、次戦オーストリアGPでの導入に向けた準備が進められた。この際、マシン設計の高い統合性ゆえに、ウイング単体だけでなく、サスペンションフェアリングやブレーキダクト周辺の細部に至るまで、いくつかの補完的な変更が必要となった。

    「今回のアップグレードはフロントエンドの空力システムを全体として進化させるものであり、フロントウイングと一体化したサスペンション改良を施している」と語るのは、エンジニアリング技術ディレクターのニール・ホールディ。

    「カナダで試験したフロントウイングとサスペンションフェアリングは、ひとつのパッケージとして開発されているんだ」

    このフロントウイングには、新たなエレメント形状とエンドプレートが採用されており、フロントタイヤ外側へのアウトウォッシュ(外向きの気流)をより強力に生み出す設計がなされている。加えて、“マーメイドテール”と呼ばれるボルテックス生成構造によってそのアウトウォッシュを加速。タイヤ上部と周辺の乱流を抑えるフィンも再設計されている。

    これらの変更は、チームによれば「さまざまな車両姿勢における空力性能を向上させること」を狙ったものだという。

    マクラーレン MCL39 ブレーキダクト左が旧型のブレーキダクト、右が新型。見た目はよく似ているが、内部の流路が異なっており、ホイール周辺の乱流抑制フィンも再プロファイリングされている。

    また、サスペンションアームを覆うカーボン製の「サスペンションフェアリング」も再設計されている。「気流の整流性能を改善し、それにより空力性能の向上を図る」という目的である。こうした整流性能を最大限に活用するために、フロント周辺の空力デバイスも新たに導入された。

    今季を通じて、ブレーキダクトにも微妙な変更が加えられている。ブレーキディスクおよびキャリパーの周囲には、全チーム共通の標準アウタードラム(外装カバー)が装着されているが、その内側にはマクラーレン独自設計の内部シールドが存在する。この内部構造には可動式のパネルが設けられており、サーキットの特性に応じてブレーキの露出量を調整可能となっている。冷却空気の流路は非常に緻密に設計されている。

    ダクトの吸気口から内部に至る冷却気流の流れは青い矢印で、2つのドラム間で熱の移動を制御するシーリング壁の位置は赤い矢印で示されている。

    そしてマクラーレンは、このアップグレードを経たオーストリアGPおよびイギリスGPで今季最大となる圧倒的勝利を挙げた。チーム代表アンドレア・ステラは、これらの結果においてフロントエンドのアップグレードが大きく貢献したとみている。

  • マクラーレン FIAに苦言「F1ドライバーの発言の自由を取り戻すべき」

    マクラーレン FIAに苦言「F1ドライバーの発言の自由を取り戻すべき」

    マクラーレンのチーム代表アンドレア・ステラは、FIA(国際自動車連盟)と協議し、F1ドライバーが自由に意見を述べられる環境を取り戻す意向を示した。

    FIA会長モハメド・ビン・スライエムによる発言や振る舞いへの厳格な対応方針は、これまで多くの反発を招いてきた。スライエム会長はイギリスGPの場で「ドライバーの声に耳を傾け、スポーティングコードのセクションBを修正し、罰則を緩和した」と主張した。

    しかし、依然として国際スポーティングコード第12.2.1.f条には、以下のような表現が残されている。

    「FIA、その機関、構成員、役員、またはモータースポーツの利益およびFIAが擁護する価値に対し、道徳的損害や損失を与える言動、文書、発言など」

    この曖昧な条項が残されている限り、F1ドライバーにとっては自由に意見を述べることがリスクを伴う状態が続く。

    現在ランキング首位に立つオスカー・ピアストリも、イギリスGPでセーフティカー中のブレーキ行為により10秒ペナルティを科された直後、怒りをにじませながらも口を慎んだ。

    「ここで何か言えば、年間出場停止になるかもしれない」とピアストリは苦笑まじりに語った。

    「あまり多くは言わないよ。問題になるからね」と続けた。

    マックス・フェルスタッペンも同様に、FIA記者会見で以前より静かな態度を見せており、当該条項の存在が彼の発言を抑制していると見られている。

    マクラーレン F1

    ステラ代表はピアストリの慎重な姿勢を支持しつつも、次のようにFIAに提言している。

    「F1のようにヒートアップしやすい環境では、ドライバーにはまず映像を確認してから発言するよう助言している」

    しかし、ドライバーが正当な意見すら述べられない状態は問題だと強調した。

    「公正な意見すら問題視されるなら、それは別の次元の話だ」

    「この点は見直す必要がある。我々はFIAと協力してそれを行うつもりだ」

    「対立する意図はまったくない。この点においてはすべての関係者の利害は一致している」

    「我々は常にFIAおよびスチュワードと協調的な立場を取っている」

    F1における自由な意見表明とスポーツマンシップとのバランスは、今後の大きな論点になりそうだ。

  • マクラーレンF1 ピアストリに“拒否された”新サスペンションを試させたい理由

    マクラーレンF1 ピアストリに“拒否された”新サスペンションを試させたい理由

    マクラーレンF1チームは、ランド・ノリスが使用している新しいフロントサスペンションの構成をオスカー・ピアストリにも導入すべきかどうかを検討している。

    6月中旬のカナダGP以降、マクラーレンの2台はフロントサスペンションのジオメトリーが異なっており、ノリスは最新仕様を採用。一方でピアストリは、シーズン開幕時からの構成を継続している。

    新しいサスペンションは、主にフロントアップライトの取り付けポイントが見直されており、ドライバーがコーナリング中にステアリングを通じてクルマの挙動をより繊細に感じ取れるようにすることを目的としている。これは、今季序盤に両ドライバーが感じていた“ステアリングからの情報が希薄”という「無感覚(numbness)」への対応策だ。

    ノリスはこの感覚により悩まされていたため変更を受け入れたが、ピアストリは従来仕様に不満を感じておらず、現状維持を選んでいる。

    マクラーレンはこのサスペンションの違いについて「アップグレードというよりセットアップの選択肢」と位置づけているが、実際には2種類の仕様を並行運用することによる部品管理上の複雑さが生じている。そのため、チーム代表のアンドレア・ステラはピアストリにもノリス仕様の一部を採用させる可能性に言及した。

    「この違いによってパフォーマンス比較やドライビング評価に問題が出ることはない」とステラは語る。「ただし、部品管理という観点では、異なる仕様を常に持ち運ぶ必要があるため非効率だ。ランドが採用している仕様の一部をオスカーが使う可能性について、現在検討しているところだ」

    ピアストリはこの「代替ジオメトリー」について、パフォーマンス面で明確な優位性があるとは考えておらず、現時点では導入に積極的ではない。イギリスGP前に次のように述べている。

    「僕はまだこの仕様を使ったことがない。これは“アップグレード”ではなく、“違うだけ”のものだ。いい点もあれば悪い点もある。もし全てが改善されるのなら迷わず取り付ける。でも僕自身はその“感覚”に悩まされていない。シーズンも順調だし、今はこの仕様で安定性を保ち、他のアップグレードとセットアップ最適化に集中したいと思っている」

    オスカー・ピアストリ マクラーレン F1

    ステラもその姿勢を尊重しており、「ランドには明確な効果があったが、オスカーは現仕様に高い満足度を示している。この違いは今季残りの期間中も続く可能性がある」と認めている。

    一方、ノリス本人はサスペンション変更による恩恵は「過大評価されている」との考えを示した。

    「正直言って、人々はこれを話題にしすぎだと思う。確かに影響はあるかもしれないが、あったとしてもコンマ0秒台の差。僕がここ2戦で勝てたのは、このサスペンションだけの成果じゃない。トラック外での努力やチームとの連携の成果が大きい」

    「それに、前の仕様に戻っても同じ結果が得られたかもしれないとも思っている」

    マクラーレンは今後も、各ドライバーにとって最適なフィーリングを引き出せる仕様の選択を尊重しつつ、パフォーマンスと運用効率のバランスを取る方針だ。

  • ランド・ノリス マクラーレンF1の新サスペンションは「勝因の全てじゃない」

    ランド・ノリス マクラーレンF1の新サスペンションは「勝因の全てじゃない」

    ランド・ノリスは、自身の最近の好成績の根本的な理由についていまだに確信が持てておらず、その好調がマクラーレンの新しいフロントサスペンションに密接に関係しているという一部の見方について、懐疑的な姿勢を見せている。

    オーストリアでの勝利からわずか1週間後、ノリスはホームレースであるシルバーストンでも圧巻の勝利を挙げ、選手権ポイントでチームメイトのオスカー・ピアストリに8ポイント差まで迫った。

    この快進撃は、コーナーでのフィードバックを向上させることを目的として導入された新しいフロントサスペンションと同時期に起きており、注目されている。

    このサスペンションはチーム内でも話題となっており、アップグレードが施されているのはノリスのマシンだけで、ピアストリは現時点で装着を見送っている。

    チーム側はこれがノリスの最近のパフォーマンスに貢献していると考えているが、ノリス本人はその重要性を控えめに評価しており、このアップグレードをめぐる騒ぎは過熱気味だと指摘した。

    「君たちの方が僕よりポジティブだね」と、シルバーストンでこの件について聞かれたノリスは冗談交じりに答えた。「そうだな。もっと悪くてもおかしくない。だけどたぶん……人々はこの件についてちょっと話しすぎてると思う」

    「正直なところ、それが僕を助けてる可能性はあるし、“助けてる”って言っても、百分の一秒とか千分の一秒とか、そういうレベルかもしれない。数値的に明確に表せるものではないと思う」

    ノリスは、チームがこのサスペンションに一定の効果があると信じていることは認めたが、それを最近の勝利の理由と断言することは避けた。

    「前にも言ったけど、これはチームが“もしかしたらフィーリングが良くなるかも”って思ったもので、僕はただそれに従っただけなんだ。信じて、ね」

    「チームが“これが助けになるかもしれない”って考えた。それが確実だとは限らないけど、“かもしれない”ってね。僕もそれを信じた。それだけだよ」

    ランド・ノリス マクラーレン F1

    成果の裏にある地道な努力
    ノリスは、サスペンションではなく、レース以外の場所での準備やチームとの協力の方が、成功の鍵だったと考えている。

    「たしかに2勝した。カナダでもすごく速かった。でも、それが全部サスペンションのおかげだとは言いたくない。むしろ、自分の努力や、レース以外でやってきたこと、チームや周囲の人たちとの作業の成果だと思いたい」

    「僕は、そういった部分の方が大きいと思ってる。サスペンションの変更よりもね」

    「同時に言えるのは、もし前の仕様のままだったとしても、同じことを成し遂げられたかもしれないということ。だから、分からないんだよ」

    とはいえ、ノリスは比較テストによって何らかの答えが得られる可能性には言及しているが、それすらも決定的なものではないという。

    「いつか、新しい仕様と前の仕様を比較テストできたら、何か違いを感じるかもしれないし、感じないかもしれない」

    「ここ数戦、自分のフィーリングは良かった。でもそれは、“マシンの改善によるもの”というよりも、むしろ“自分が良い感触を得ようと取り組んできたこと”、そして“フィーリングが十分に得られない中でもどう最大限に活用するかを学んできたこと”によるところが大きいと思う」

    それでも、ノリスはマクラーレンの開発努力には敬意を示し、マシンの競争力が大幅に向上していることを認めた。

    「クルマは進化してるよ。先週末にもアップグレードがあったし、そういうのが助けになる」

    「今週は30秒差で勝ったし、先週は20秒差だった。クルマはかなりいい状態だと思う」

    「僕は自分の努力による部分が大きいと思いたいけど、実際には両方の要素がある。両方の組み合わせなんだよ」

    サスペンションの影響、個人の成長、マシンの進化――どれが主因なのかは依然としてはっきりしないが、1つだけ確かなのは、ランド・ノリスが今勢いに乗っており、その歩みはまだ止まる気配がないということだ。

  • アラン・プロスト 「オスカー・ピアストリをアルピーヌF1に推したのは私」

    アラン・プロスト 「オスカー・ピアストリをアルピーヌF1に推したのは私」

    F1四度の王者アラン・プロストが、現在2025年シーズンのチャンピオンシップをリードするオスカー・ピアストリのキャリア始動において、決定的な役割を果たしていたことを明かした。

    先週末のグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードに登場したプロストは、元F1ドライバーのカルン・チャンドックとのトークの中で、当時ルノー(後のアルピーヌ)のドライバーアカデミーにピアストリを加入させるよう、裏で強く働きかけたと語った。

    「私はかなり前からオスカーのことをよく知っていた。ルノーに彼をアカデミーに入れるよう推したのは私だったんだ。彼らは最初、乗り気ではなかった。でも私は、彼がF3やF4、そしてF2を走っている姿を見て確信していた」と語るプロスト。

    その後、ピアストリは2020年1月にアルピーヌ・アカデミーに加入し、2021年にはFIA F2選手権を制覇した。

    プロストの支援にもかかわらず、ピアストリとアルピーヌの関係は2022年末に決裂。彼は2023年にマクラーレンと契約し、アルピーヌはこれに法的異議を唱えたが敗北した。

    それからわずか2年、現在24歳のピアストリは、チームメイトのランド・ノリスに8ポイント差をつけて、2025年シーズンのドライバーズ選手権首位に立っている(第12戦終了時点)。

    オスカー・ピアストリ F1 マクラーレン

    プロスト「彼は自分に似ている」
    プロストはピアストリのレーススタイルに、かつての自身と重なるものを感じているという。

    「私は彼の立ち振る舞いが好きだ。オーバーテイクのタイミングをよく考え、頭を使って動く――少し私に似ているよ」と語ったプロスト。

    「このタイプのドライバーは、通常しっかりと成長していく。単にドライビングスキルだけで勝負していると、途中で伸び悩むこともあるからね」

    「ノリスのことはあまり知らないけど、どんな結果であれ、今年のようなシーズンでは“最もふさわしいドライバー”が勝つべきだと思う」と締めくくった。

    ピアストリ vs ノリス、ヒートアップするタイトル争い
    2025年シーズン折り返しを迎え、マクラーレン内で繰り広げられるピアストリとノリスの熾烈なタイトル争いはF1ファンを魅了している。
    第9戦カナダGPでは両者が接触し、ノリスがリタイアする事態となるなど、緊張感が高まっているが、ザク・ブラウンCEOは依然として「自由に戦わせる」方針を堅持している。

    「ルールは変わらない。ハードに、クリーンに、そしてできるだけ多くのポイントを持ち帰ること。順位は彼ら自身に任せている」と語り、2人の関係性についても「素晴らしい関係だ。チーム内の化学反応を大切にしており、それはドライバーから始まっている」と評価している。

    F1界のレジェンドが認めた若き才能ピアストリ。果たしてプロストの眼力は正しかったのか、その答えはシーズン終盤に明らかになるだろう。

  • マクラーレンF1代表 将来構想を語る「レガシーを継承し勝利を積み重ねる」

    マクラーレンF1代表 将来構想を語る「レガシーを継承し勝利を積み重ねる」

    マクラーレンのチーム代表アンドレア・ステラは、現在の成功を踏まえ、チームの将来に向けた明確なビジョンを語った。

    マクラーレンは2023年のF1オーストリアGPで大規模なアップグレードを投入して以来、目覚ましい成長を遂げてきた。2024年シーズン序盤はやや出遅れたものの、その後は着実に巻き返し、レッドブルを打ち破って1998年以来となるコンストラクターズタイトルを獲得。

    今年のMCL39でも勢いは衰えず、開幕12戦中9勝を挙げ、ランキングで2位に238ポイント差をつけて独走状態となっている。

    ドライバーズランキングでもマクラーレンは圧倒的な存在感を示しており、オスカー・ピアストリが僚友ランド・ノリスに8ポイント差でトップを走り、マックス・フェルスタッペンは首位から69ポイント遅れている。

    一方、2026年には新パワーユニット規定の導入という大きな転換期が控えており、将来に向けた戦略の重要性が増している。そんな中、ステラはマクラーレン・レーシング・ライブの場でマーティン・ブランドルから将来構想を問われ、次のように語った。

    「マーティン、あなたが言った『レガシー』という言葉、それは私自身、そしてマクラーレンF1チームにとって本当に重要なんだ」

    「ブルース・マクラーレン、アイルトン・セナ、アラン・プロストといった偉大な人々が築いてきた功績を我々は引き継いでいる。MTC(マクラーレン・テクノロジー・センター)に並ぶ数々のトロフィーを見るたびに、我々がどれほど恵まれているかを感じる」

    「そのレガシーを未来へと繋いでいく責任が我々にはある。最近、数多くのトロフィーを追加できたことは信じられないほど素晴らしい瞬間だったし、キャビネットが足りなくなってきたから、もっと大きなものを作らなければならないだろうね」

    「私にとって、これは非常に大きな喜びだ。自分たちがこのレガシーに貢献できていると実感できることが。我々の意志、目標、使命は極めて明確だ。これからもさらに多くのトロフィーをキャビネットに加え、マクラーレンのレガシーに成功を積み重ねていきたい。それが我々の使命だ」

    マクラーレン F1

  • フェルスタッペンの“失うもののない”現状はマクラーレンF1に新たな緊張感

    フェルスタッペンの“失うもののない”現状はマクラーレンF1に新たな緊張感

    金曜の苦戦、土曜の見事なポールラップ、そして日曜の現実――F1イギリスGPは、マックス・フェルスタッペンの今季を完璧に象徴する週末となった。そして同時に、彼が今もマクラーレンにとって“別の形で”重要な存在であることを示すレースでもあった。

    「ひどいレースだった」――これが日曜のレース後にフェルスタッペンが残した言葉だ。観客にとっては雨が演出した壮絶な展開だったが、フェルスタッペンにとってはシーズンを通じて繰り返される“現実”を改めて突きつけられたレースだった。

    週末の幕開けとなるメディアデーから、すでに今季の縮図は始まっていた。フェルスタッペンの去就を巡る質問が再び集中し、レッドブルの不安定なパフォーマンスと重なるかたちで、将来に対する憶測がパドックの話題を支配した。

    極端なセットアップが語るレッドブルの苦境
    コース上での展開も、今季の流れを如実に反映していた。金曜はまたしても苦戦し、フェルスタッペンは「信じられないほど扱いにくい」とアンダーステアを訴える。RB21は非常に狭い作動ウィンドウしか持たず、気温やコース特性の影響を受けやすい。オーストリアでは暑さに苦しみ、低速コーナーでは一貫して力を発揮できない。

    さらに問題なのはセットアップの狭さだ。これは前年型から続く課題だが、2025年型マシンでも大きくは改善されていない。加えて、シミュレーターと実走の乖離が大きく、金曜夜に大規模な変更を迫られるのが常態化している。結果的に、金曜から土曜にかけて最もパフォーマンスを伸ばすチームがレッドブルとなることも少なくない。

    シルバーストンでは、その“飛躍”のために極端な手段が取られた。リアウイングを削ってローダウンフォース仕様を選択したことで、予選では成果が出た。だが、これは他チームとの決定的な違いを示している。フェラーリはハイダウンフォース寄り、マクラーレンは中間的な安定路線を選び、レッドブルだけがギャンブルに出なければならなかった。

    かつては、たとえばスパで他チームより多くダウンフォースを積みながら、直線でも速さを失わない“贅沢な自由”があった。しかし今や、そうした余裕は消え去り、「戦える状態」に持ち込むためにはリスクを取らざるを得ない。

    そしてその賭けが、今回は裏目に出た。ウェットコンディションの中でローダウンフォース仕様は不利に働き、フェルスタッペンはスピンで8ポジションを落とす。トラフィックに阻まれ、巻き返しも難しかった。

    本人も冷静に現実を受け止める。「スピンがなかったとしても、速さが足りなかった。周囲と比べて自分のペースはそれが限界だった。リアウイングが助けにならなかったし、もっとダウンフォースを載せていてもマクラーレンとは戦えなかった」と認めた。

    「スピンがなかったとしても、速さが足りなかった。周囲と比べて自分のペースはそれが限界だった。リアウイングが助けにならなかったし、もっとダウンフォースを載せていてもマクラーレンとは戦えなかった」

    フェルスタッペンはそう振り返り、チームの現状を冷静に受け止めている。オーストリアとイギリスにかけて投入された新しいフロアについては「確かに機能している」としつつも、「それだけでは状況を一変させるには不十分」と強調する。

    ヘルムート・マルコも同調するかのように、オーストリアで事実上の“白旗”を掲げたあと、イギリスでもこう語った。「まだいくつかのアップデートは用意しているが、それでどうにかなるレベルではない。マクラーレンのほうが上だし、今季中に追いつくのは非常に難しい」

    天候がどうであれ、イギリスGPは改めて“純粋なレースペース”での現実を突きつけた週末だった。これは今季のレッドブルにとって、すでに何度も味わってきた感覚だ。

    マックス・フェルスタッペン F1

    タイトル争いには絡めずとも、マクラーレンにとっては“無視できない存在”
    ランキングではすでに69ポイントのビハインド。シーズン折返し時点で、フェルスタッペンのタイトル争いは現実的に終わっている。レッドブルはスパでさらなるアップデートを予定しているが、全チームが2026年のレギュレーションに向けて開発リソースを振り分ける中で、今季を巻き返すのはほぼ不可能だ。

    その中で、フェルスタッペンにできるのは「勝てるレースを確実に取ること」と「光る瞬間を見せること」だけ。シルバーストンのようなポールラップや、イモラでのピアストリへのオーバーテイクのように、印象的な走りで存在感を残していく。

    それでも、彼は“タイトル争いを左右する存在”として、まだ確かな影響力を持っている。今季すでに4回のポールポジションを記録していることからも分かるように、マクラーレンの2台――ランド・ノリスとオスカー・ピアストリ――は毎戦、序盤の展開で必ずフェルスタッペンと対峙しなければならない。

    そして今のフェルスタッペンには、守るべきものがない。タイトル争いから外れたことで、彼は全力で勝利だけを狙いにいける状況にある。自身もイギリスGP前に「もうタイトル争いに絡んでいない分、思いきり楽しんで戦える」と語っていたように、今の彼は“自由な立場”でマクラーレン勢にプレッシャーをかけられる存在だ。

    これは2021年以前と似た構図だ。当時のフェルスタッペンは、年間を通じたタイトルではなく、1戦ごとの勝利のためにリスクを惜しまなかった。そして今、あのスタイルが再び戻ってきている。

    ペナルティポイントの懸念も小さい。6月30日に2ポイントが消滅し、仮にレース出場停止となっても選手権への影響はほとんどない。コンストラクターズランキングも4位が濃厚であり、欠場がレッドブルに大きな打撃を与えることもない。

    この状況は、マクラーレンの2人にとって見過ごせない。直接のライバルであるチームメイトとのポイント争いが熾烈を極める中、フェルスタッペンと激しくバトルすることが「無用なリスク」になる可能性があるのだ。

    とはいえ、フェルスタッペンを警戒しすぎて自滅するわけにもいかない。あくまで2人のタイトル争いが優先であり、彼らにとっては「彼をどう扱うか」という駆け引きが新たな戦略要素として加わる。

    今季のタイトルレースの主役からは外れたフェルスタッペンだが、それでもまだサーキット上の“支配者”であることに変わりはない。オレンジ(フェルスタッペン)対パパイヤ(マクラーレン)の構図は続いており、その形は徐々に変化しながら、これからの戦いに新たな緊張感をもたらしていくだろう。

  • マクラーレン首脳 フェルスタッペンのメルセデスF1移籍は「ちょっと怖い」

    マクラーレン首脳 フェルスタッペンのメルセデスF1移籍は「ちょっと怖い」

    マクラーレンCEOのザク・ブラウンは、マックス・フェルスタッペンが2026年にもメルセデスに移籍する可能性が報じられていることについて、「ちょっと怖い」と率直な感想を述べた。

    メルセデスのチーム代表トト・ヴォルフは、F1オーストリアGPでフェルスタッペン獲得に関心を示したが、交渉がすでに進展しているという報道は否定している。

    フェルスタッペンは2028年までレッドブルとの契約を結んでいるが、チャンピオンシップで夏休みまでにトップ3に入っていなければ契約解除が可能となる「成績条項」が含まれているとされており、その適用が現実味を帯びてきている。

    メルセデスは2026年の新レギュレーション導入を見据え、現行レギュレーション下での勢いを失っているレッドブルに代わる有力な移籍先と見なされている。

    この件について、ザク・ブラウンは英『ESPN』の取材に対し、次のように語った。

    「ちょっと怖いね。メルセデスは明らかに前進しているが、レッドブルはそうではない。そしてマックスは信じられないほどの才能を持っている」

    「だから、マックスがメルセデスに乗るとなると、それはかなり強力な相手になるよ」

    ブラウン率いるマクラーレンは、現行レギュレーション下で最も強力なチームの一角と見なされており、ランド・ノリスとオスカー・ピアストリのラインアップは長期契約で固定されている。ブラウンは、たとえフェルスタッペンが市場に出たとしても、獲得に動くつもりはないと明言した。

    「いや、今のドライバーラインアップにはこれ以上ないほど満足している」

    「初めから言ってきたように、我々にはF1で最高のドライバーラインアップがあると思っている。今ここにいる段階で、それを事実として否定するのは難しいはずだ。実際、統計的にもそうだよ」

    「彼らは素晴らしい人間性と才能を持っている。オン・トラックでもオフ・トラックでも、僕はこの2人を他の誰かと交換しようとは思わない」

    マックス・フェルスタッペン F1 メルセデスAMG・ペトロナス・モータースポーツ

    現在、ドライバーズランキングではオスカー・ピアストリがランド・ノリスに8ポイント差をつけて首位を維持しており、マクラーレンが1-2体制を築いている。

    一方でフェルスタッペンは、オーストリアGPの1周目リタイアに続きイギリスGPでもポイントを伸ばせず、首位のピアストリからのポイント差は69に広がっている。

    F1の歴史上、これほどのポイント差を逆転してチャンピオンを獲得した例はないが、まだ12戦が残されており、ブラウンはフェルスタッペンや4位のジョージ・ラッセルの逆転も否定していない。

    「まだまだシーズンの半分にも届いていないからね。マックスはとんでもない才能だし、ジョージだってゲームオーバーではないよ」

    「去年、我々のシーズンがどれほど急速に変わったかを見れば、マックスやメルセデスにも同じことが起きても不思議じゃない」

    「ジョージのポイント状況やフェラーリの動きも含めて、まだまだわからない。だから僕らは自分たちのやるべきことを続けていくだけだ」

    「今リードを得ているのは素晴らしいし、先週末にそれを広げられたのも良かった。でもまだレースはたくさん残っている。現時点でチャンピオン争いに現実的に加わっているドライバーは4人いると思っているよ」

  • ブラッド・ピット マクラーレンのF1マシンをドライブ 密着動画公開

    ブラッド・ピット マクラーレンのF1マシンをドライブ 密着動画公開

    映画『F1/エフワン』の撮影というアドレナリン満載の経験の後、主演を務めたハリウッド俳優ブラッド・ピットが、もうひとつの夢を叶えた。アメリカ・オースティンのサーキット・オブ・ジ・アメリカズで、実際のF1マシンを走らせるという貴重な体験を果たした。

    映画のプレミア上映や世界的なプロモーションツアーで多忙を極める中、ピットはマクラーレンのランド・ノリスと現地で合流。

    この走行体験は、彼が主演を務めるF1映画『F1/エフワン』の撮影を通じて実現したもので、使用されたのは2023年仕様のマクラーレン「MCL60」。F2マシンを改造した撮影用「Apexカー」とは比べものにならない、トップカテゴリーの本物のF1マシンだ。

    ノリスからドライビングのアドバイスを受けた後、F1アメリカGPの舞台でもある同サーキットを走行した。

    この特別な走行にはカメラも密着し、ピットの出走前後の心境やマクラーレンチームのコメント、さらには走行中の迫力ある映像までが余すところなく収められた。走行を終えたピットは興奮で震えていたという。

    映画の中だけでなく、リアルなF1の世界でも夢を実現したピット。その表情には、本物のF1のスピードと体験に心から魅了された様子が映し出されていた。

    動画の公開は終了しました

    「これは、母親のセダンなんかじゃない」

    コクピットに座ったピットがそう言い放つと、その表情には興奮と畏敬の念がにじんでいた。

    「今、フリーウェイを走ってるような感覚だった。賢明な判断だったかは分からないけど、F1カーでオースティンを走るっていうのは、人生で味わえる最高の経験のひとつだと思う」

    「3周は一生分の価値があるって言うけど、本当にその通りだった」

    ピットはそう振り返る。

    走行前、マクラーレンのエースであるランド・ノリスがピットにマンツーマンでアドバイスを送った。

    「『2周目にはイージーフラットで行ける』って言われたときは、“本気かよ?”って思ったよ。でも、あれは“ベストを尽くせ”っていう意味だって理解したんだ」

    すでにF2マシンでの撮影経験とシミュレータでのトレーニングを積んでいたピットにとっても、F1の世界はまったく別次元だった。

    「F2も速かったけど、これは桁違いだった。加速、ダウンフォース、ブレーキ、コーナリングスピード――全部が“もっと上”だった。高速コーナーでは、首にかかるGが本当に凄くて、体中に力がかかった」

    とりわけ難関だったのが、第1セクターのターン2、3、4、そしてターン13~15の高速複合区間だ。

    「彼ら(F1ドライバー)はここを全部フラットで抜けていくんだ。僕は到底そこまで行けなかった。でも、“もっと信じて踏み込めば行ける”って頭では分かってた。怖さを乗り越えるには“もっと大きな度胸”が必要だったんだよ」

    それでもラップを重ねるごとに彼の走りは進化していった。チームは「ブレーキ圧が上がってきた」「タイムも1周ごとに数秒ずつ縮まっている」と評価し、ピット自身も確かな手応えを感じていた。

    「ブレーキのポイントを詰められるようになったし、だんだんクルマを信じられるようになってきた。スタッフが“このコーナーはもっと攻めていい”って言ってくれて、少しずつだけど前に進めてる気がした」

    そして何より、F1マシンを走らせることで得られた特別な感覚を、彼はこう表現した。

    「うまく決まったとき、“無”になれるんだ。頭の中が完全に静かになって、ただ“今この瞬間”だけが存在する。こんな集中の仕方、他では経験したことがないよ」

    走行を終えたピットは、ピットレーンで満足げにこう語った。

    「これは間違いなく、人生で一番のご褒美だった。でも正直なところ、今すぐもう一回走りたい。まだやり切った気がしないんだ(笑)」

    最後に、支えてくれたチームへの感謝を忘れなかった。

    「ザック・ブラウン、ランド・ノリス、そしてマクラーレンのみんな。本当にありがとう。この体験は、一生忘れない」

  • マクラーレンに悲劇 F1イギリスGP優勝レゴ製トロフィーがまさかの粉砕

    マクラーレンに悲劇 F1イギリスGP優勝レゴ製トロフィーがまさかの粉砕

    2025年F1イギリスGPでランド・ノリスが母国初勝利を飾った記念すべき一戦の裏で、“特別な”優勝記念品が悲劇に見舞われていた。マクラーレンが獲得したレゴ製コンストラクターズトロフィーが、表彰式後に粉々に壊れてしまった。

    このトロフィーは、F1とレゴの公式パートナーシップの一環として制作されたもので、ドライバー用に3つ、そしてコンストラクター用に1つ、計4つが用意された。

    7人のレゴマスタービルダーが総計210時間をかけ、2,717個のパーツを用いて設計・組み立てた「プライスレス」な一品だった。

    コンストラクターズトロフィーは、サウバーのニコ・ヒュルケンベルグがF1キャリア239戦目で初表彰台を獲得するなど波乱に満ちたレース後、マクラーレンのテクニカルディレクター、ピーター・プロドロモウに授与された。しかし、表彰式終了後に撮影された映像には、地面に砕け散ったトロフィーと、それを前に絶望の表情を浮かべるプロドロモウの姿が映っていた。

    SNSで共有された動画では、プロドロモウが懸命にトロフィーを元に戻そうとする姿も確認されている。壊れた原因は不明だが、シャンパンボトルの扱いがきっかけだったとされ、複数人が集まり修復を試みる様子も見られた。最終的にはサーキットのスタッフによって回収された。

    なお、ノリス本人は同じくレゴ製のドライバートロフィーとRACトロフィーを両手に持って表彰台裏の階段を下りている様子が撮影されており、壊れたトロフィーの周囲にはいなかったことから、今回の件に直接関与していないとされている。

    マクラーレン F1 イギリスGP ランド・ノリス

    ただしSNS上では、「ランドがまたやったんじゃない?」「マクラーレンのトロフィー呪いかよ」「さすがマクラーレン、いろいろ壊れる」といった冗談交じりの投稿も見られた。ノリスは過去に2023年のハンガリーGPで、シャンパンボトルを勢いよく叩きつけた結果、フェルスタッペンの陶器製優勝トロフィーを粉砕してしまった“前科”があるためだ。

    なお、今回ノリスは表彰式後のファンとの交流中に、フェンスが崩れた際にカメラマンと接触し鼻を負傷したものの、レゴトロフィー破損には無関係だったことが明らかになっている。

    レゴのクリエイティブ責任者であるサミュエル・リルトープ・ジョンソン氏は「このトロフィーにかけた時間と労力を考えると、金額では評価できない」と語り、「シルバーストンでこの瞬間の一部になれたのは本当にクレイジーな体験だった」と感慨を述べている。

    マクラーレン F1 イギリスGP トロフィー レゴ