ホンダF1 メルセデスに「70馬力差」報道 実際の課題はドライバビリティ改善

ホンダF1 メルセデスに「70馬力差」報道 実際の課題はドライバビリティ改善

アストンマーティンとともに2026年のF1新時代に挑んでいるホンダのパワーユニットをめぐり、メルセデスに約70馬力の差をつけられているとの報道がイタリアから浮上した。ただし、この数字を単純なICE(内燃エンジン)の出力差として受け取るには注意が必要だ。

ホンダ自身も、現時点でライバルに対して総合的なパワーで後れを取っていることは認めている。

一方、オランダGPでスペック2を投入した現在の重点課題として挙げているのはドライバビリティであり、HRC Sakuraでは燃焼制御の安定化を中心とした作業が進められている。

パワーへの依存度が高いモンツァは、その成果を確認する重要な舞台となる。

イタリアメディアが「70馬力差」と報道
イタリアメディア『Autoracer.it』は、オランダGPでスペック2が投入された後も、ホンダのパワーユニットはメルセデスに対して約70馬力の差があると報じた。

同メディアは、この差が平均して1周あたり約1.2秒のタイムロスに相当するとし、フェラーリのエンジニアの見解として、ホンダがギャップを完全に埋めるまでには複数年を要する可能性があるとも伝えている。

ただし、約70馬力という数字はホンダやアストンマーティンが公表したものではない。また、具体的にどの条件で算出された出力差なのかも明確ではない。

2026年のF1パワーユニットでは、ICEだけでなく大幅に強化された電動システムの性能が実際の加速や最高速に大きく影響する。そのため、「70馬力」という数字だけをもってホンダのICEそのものがメルセデスより常時70馬力低いと断定することはできない。

2026年F1では単純な「馬力差」では測れない
2026年のF1では、パワーユニットの競争力を従来のような最高出力だけで評価することが難しくなっている。

ICEの性能に加え、MGU-Kによる電気エネルギーの供給、バッテリーの状態、回生効率、そして限られたエネルギーをラップのどこで使用するかというデプロイメントが実際のパフォーマンスを左右するためだ。

例えば、ストレート前半ではライバルと同等の加速を示していても、電気エネルギーを早い段階で使い切れば、後半では出力差が急激に拡大する可能性がある。逆に、エネルギーを温存すれば別の区間でタイムを失うことになる。

さらに、車体側の空気抵抗やギア比、コーナーからの立ち上がり速度などもストレートでの速度に影響する。このため、外部から観測された速度差をそのままパワーユニットの馬力差に置き換えることは難しい。

『Autoracer.it』が伝えた「約70馬力」「1周約1.2秒」という数字についても、現時点ではホンダとメルセデスの絶対的なICE出力差を示す確定値ではなく、あくまでイタリアから伝えられた推定値として扱う必要がある。

ホンダ自身は「総合的なパワー不足」を認める
一方で、ホンダがライバルとの差そのものを否定しているわけではない。

Honda F1のトラックサイド・ゼネラルマネージャー兼チーフエンジニアを務める折原伸太郎は、イタリアGPを前に、スペック2による前進を認めながらも、総合的なパワーでは依然としてライバルに後れを取っているとの認識を示している。

「今週末の舞台となるモンツァは、長いストレートと11のコーナーで構成され、2026年カレンダーの中でも全開率が最も高いサーキットのひとつです。このコースでは、限られたエネルギーを各区間にどう配分するかが重要で、特に予選ではその影響が大きくなります。モンツァのラップタイムはパワーに非常に敏感です」

「ザントフォールトでスペック2エンジンを導入し、パフォーマンス面では一歩前進することができました。ただ、総合的なパワーという点ではまだライバルに遅れていることは分かっていますので、今週末については現実的に考える必要があります」

重要なのは、折原が「総合的なパワー」と表現している点だ。

ホンダは具体的な馬力差には言及しておらず、70馬力という数字を認めたわけでもない。ICEだけでなく電動システムやエネルギーマネジメントまで含めた2026年型パワーユニット全体として、まだ競争力を高める必要があるというのがHRC側から示されている現状認識となる。

スペック2で浮上したドライバビリティの課題
ホンダはオランダGPで、ADUO(追加開発・アップグレード機会)による開発を反映したスペック2のパワーユニットを投入した。

性能面では前進した一方、ザントフォールトでは新たな課題も表面化した。特に問題となったのがドライバビリティだった。

フェルナンド・アロンソは週末を通じて、ダウンシフトやエンジンブレーキの挙動に一貫性がない状況に苦しんだ。最終的には18番グリッドから9位まで追い上げて2ポイントを獲得したものの、スペック2の性能を完全に引き出せたとは言い難い週末となった。

つまりホンダにとって現在必要なのは、単純に最高出力を積み増すことだけではない。ドライバーがアクセル操作に対して予測可能なレスポンスを得られ、コーナー進入から立ち上がりまで安定してパワーユニットを使える状態を作る必要がある。

アストンマーティン・コグニザント・フォーミュラワンチーム

HRC Sakuraで燃焼制御の安定化に集中
オランダGP以降、ホンダが重点的に取り組んできたのが、このドライバビリティの改善だ。

折原はイタリアGPに向けた作業について説明している。

「イタリアGPでの重要なテーマは、ドライバビリティを改善することです」

「オランダGP以降、HRC Sakuraのダイナモで多くの作業を行ってきました。特に、安定して一貫性のある燃焼制御を実現することに取り組んでいます」

「モンツァではその作業の効果を確認しながら、さらにチューニングを進めていきます。それによって、今後のレースでより高い競争力につなげていきたいと考えています」

スペック2でハードウェア側の性能を引き上げても、燃焼状態やトルクの出方にばらつきがあれば、ドライバーはその性能を安定して利用できない。特にコーナー進入時のエンジンブレーキや、立ち上がりでのICEと電動システムの協調は、ラップタイムだけでなくドライバーのマシンに対する信頼にも直結する。

そのため現在のホンダにとって、燃焼制御の安定化は単なる扱いやすさの改善ではなく、スペック2が本来持つ性能を引き出すための重要な開発項目となっている。

モンツァでホンダの現在地が見える
イタリアGPの舞台となるモンツァは、ホンダにとって厳しい一方で、その現在地を測るには適したサーキットでもある。

長い全開区間ではICEの性能だけでなく、電気エネルギーをどこまで効率的に使い続けられるかが問われる。折原が指摘するように、特に予選では限られたエネルギーを1周のどこに配分するかが重要になる。

したがって、モンツァで注目すべきなのは「本当に70馬力遅れているのか」という数字だけではない。

スペック2によって総合的なパワー差がどこまで縮まったのか。そしてオランダGP後にHRC Sakuraで進められた燃焼制御の安定化によって、ドライバビリティがどこまで改善されるのか。アストンマーティンのストレートでの競争力と実際のラップタイムは、その成果を判断する重要な材料になる。

約70馬力という衝撃的な数字の真偽を外部から正確に確認することは難しい。しかし、ホンダ自身が総合的なパワーでライバルに後れを取っていることを認めているのも事実だ。高速のモンツァは、その差の大きさとスペック2の改善効果をより鮮明に映し出す週末となりそうだ。