FIAは、2026年F1シーズンから導入されたパワーユニット(PU)の追加開発制度「ADUO(Additional Development and Upgrade Opportunities)」について、制度そのものに「弱点」が存在することを認め、今後に向けて改善を進める方針を示した。
ADUOは、内燃エンジン(ICE)の性能が基準となるメーカーから2%以上遅れていると評価されたPUメーカーに、追加の開発・アップグレード機会を与える仕組みだ。
メーカー間の性能差が固定化することを防ぐ目的で導入されたが、初年度から評価対象や測定方法を巡って議論が続いている。
ICEだけを評価するADUOに浮上した問題
ADUOの基本的な考え方は、2026年の新PU規則でメーカー間に大きな性能差が生じた場合、その差を縮める機会を与えることにある。
一定期間ごとに各メーカーのICE性能を評価し、基準から2%以上遅れているメーカーには追加の開発機会が認められる。
一方で、大きな論点となっているのが、評価対象がICEに限定されていることだ。
2026年型PUでは電動側が総合的なパフォーマンスに大きな割合を占める。それにもかかわらず、ADUOの判定ではエネルギー回生システムを含む電動側の性能が直接的な評価対象とはなっていない。
そのため、PU全体では競争力が高いメーカーでもICE単体の数値によって追加開発機会を得られる可能性があり、逆に総合性能を正確に反映できていないとの指摘が出ている。
さらにライバルメーカーの間では、追加開発枠を獲得するため、シーズン序盤に本来の性能を意図的に低く見せることが可能なのではないかとの疑念も浮上している。

FIA「測定精度には自信がある」
FIAシングルシーター部門ディレクターのニコラス・トンバジスは、F1において全チームとPUメーカーの合意を得ること自体が極めて難しいと語った。
「F1では、ほとんどすべてのことが非常にデリケートな問題になるようだ。11チームと5社、あるいは6社のPUメーカーが『素晴らしい、全員一致だ』と言うことなんて、ほとんどない」
そして、F1で数少ない“全員が同意するもの”として夏季休暇を挙げた。
「全員が同意していると思える唯一のものは、8月のシャットダウンが良い制度だということくらいだ。それについては、僕のアイデアだったということを思い出してもらいたい」
「でも、全員が同意しているのはそれくらいだと思う。それ以外はすべて難しい。しかも、それですら全員が同意するまでには時間がかかった。フランツ・トストがまだアルファタウリの代表だったころは、彼は反対していたからね」
FIAによる最初の評価では、レッドブル・パワートレインズがICE性能の基準となった。この結果はパドックでも驚きをもって受け止められ、レッドブル側も事実関係の確認を求めた。
しかし、トンバジスはFIAが使用している測定データそのものについては高い精度が確保されているとの考えを示す。
「誰もが非常に競争的で、他との相対的な位置に集中しているから、すべてが非常にデリケートになる。だから、かなり難しい作業だった」
「ただ、僕の考えでは、我々の測定は非常に正確であることが証明されている」
制度は設計通りに機能も「すべて順調ではない」
一方で、トンバジスは測定精度への自信と、ADUOという制度全体の完成度は別の問題だと認めている。
「そうは言っても、すべてがうまくいっているのか? いや、そうではない。明らかに不満を持っている人たちがいるからね」
「将来に向けて改善を考える必要があるのか? それはイエスだと思う」
ADUOを巡っては、追加開発機会を与えられたメーカーが、その権利をすぐには使用せず、意図的に性能差を残すことも理論上は可能だとの指摘がある。
例えば、現在の基準となっているレッドブル・パワートレインズを上回らない状態を維持すれば、基準側のメーカーには追加開発機会が与えられず、追う側だけが継続的に開発枠を確保できるという考え方だ。
だが、トンバジスは、そのような戦略に実質的なメリットはないと考えている。
「追加の機会を得続けるためだけに、常に自分たちの最大出力を下回って走ることが得策だとは思わない」
「結局トップに立つために使わないのであれば、そもそも追加の機会を得ることに何の意味があるのか、という話になるからね」
FIAが認めたADUOの「弱点」
それでもFIAは、2026年に実際の運用を開始したことで、制度に改善すべき部分が見えてきたことを認めている。
「このシステムは設計された通りに機能していると思う。ただ、将来に向けて対処しなければならない弱点がいくつかあるとも思っている」
「また、より時間がかからず、より論争を招かないものにするためにも、将来的に改善するための措置を講じる必要がある」
これは、FIAがADUOそのものを失敗と判断したことを意味するものではない。
性能で後れを取ったPUメーカーに追加開発の機会を与え、長期的な性能格差の固定化を防ぐという基本理念については維持する姿勢だ。その一方で、ICEだけを基準とする評価方法、追加開発機会の運用、測定に伴う作業量、そしてメーカー間に生じる疑念や論争については改善の余地があると認識している。
2026年に初めて実戦運用されたADUOは、F1のPUメーカー間の競争を維持するためのセーフティネットとして導入された。しかし、その救済制度自体が競争上の駆け引きの対象になり得ることも初年度から浮き彫りになった。FIAは制度の基本思想を残しながら、より公平で透明性が高く、論争を生みにくい仕組みへと修正していくことになる。
