アストンマーティンF1 AMR26Bで劇的改善 カルディレ「以前のマシンは壊れていた」

アストンマーティンF1 AMR26Bで劇的改善 カルディレ「以前のマシンは壊れていた」

アストンマーティンF1は、2026年シーズン途中に投入したAMR26Bによってマシンの性格を大きく変えることに成功した。テクニカルディレクターのエンリコ・カルディレは、従来型のAMR26について、ドライバーの視点では「ある意味で壊れていた」と表現している。

AMR26Bの進歩は単純なダウンフォース増加だけではない。フェルナンド・アロンソとランス・ストロールがセットアップ変更に対して予測可能な反応を得られるようになり、ドライバビリティそのものが大幅に改善されたという。

1ポイントから巻き返したアストンマーティンF1
アストンマーティンは2025年のコンストラクターズ選手権を7位で終え、5位だった2024年から後退した。そして、新しいF1レギュレーションが導入された2026年は、さらに厳しいスタートを切った。

エイドリアン・ニューウェイの設計思想のもとで開発され、カルディレが技術面を統括したAMR26は、重量超過に加えてダウンフォースが不足。さらにホンダF1のパワーユニットも出力不足と振動の問題を抱えていた。

ハンガリーGPを迎えるまで、アストンマーティンが獲得していたポイントはわずか1点。アロンソがF1モナコGPで記録した10位が唯一の入賞だった。

そこでアストンマーティンは、複数のレースにわたって小規模から中規模のアップデートを投入するのではなく、リソースをひとつの大規模パッケージに集中させる方針を選択した。

カルディレ自身が「勇気のある決断」と表現したこの計画では、シャシーを再ホモロゲーションして新たなクラッシュテストを受ける必要があり、ノーズ、空力サーフェス、リアサスペンションなどにも大幅な変更が加えられた。

その結果として誕生したのがAMR26Bだった。

「僕たちは、いわば2つのステップを同時に踏み出した。純粋なパフォーマンスを大きく向上させると同時に、ドライバビリティも大幅に改善した」

「以前のマシンはある意味で壊れていた」
カルディレは、シーズン序盤にアロンソとストロールが直面していた問題の深刻さを隠そうとはしない。

「以前は、彼らの視点からすれば、ある意味でマシンが『壊れていた』。一貫した反応をしてくれなかった」

AMR26ではセットアップを変更しても、その効果が予測できないケースがあり、ドライバーが自分の好みに合わせてマシンを仕上げることが難しかった。

AMR26Bでは、まさにその部分が改善されたという。

「今のマシンはより予測しやすくなっている。セットアップ変更に対して正しく反応するので、彼らはその変更を使って自分の好みに合わせてマシンを調整できる」

カルディレにとって、それは単なるラップタイム以上に重要な進歩だった。

「率直に言って、彼らのためにも本当にうれしく思っている。彼らが望むようにドライブできるマシンに近づけることは、我々にとって重要だった」

シーズン序盤、カルディレはアロンソとストロールの苦悩を間近で見ていた。

「シーズン序盤には、彼らのフラストレーションを見たし、私自身もそれを感じていた。このレベルでは簡単なことではない」

F1では、ドライバーがマシンを信頼できるかどうかがパフォーマンスに大きく影響する。また、挙動に一貫性がなければドライバーから得られるフィードバックの精度も低下し、開発そのものが難しくなる。

しかし、現在ではドライバーとの会話の内容も変化しているという。

「今では、彼らとの会話の多くが将来についてのものになっている。2026年型マシンにはどんな制約があり、2027年に向けてどうすればもう一度大きなステップを踏み出せるのか。それを考えている」

2025年のアップデートとは根本的に違うAMR26B
カルディレは、今回のアップデートと2025年に投入した大型パッケージには決定的な違いがあると説明する。

「昨年、大規模なアップデートパッケージを投入したときは、その限界も分かっていた。改善幅という意味では、根本的な変化ではなかった」

2025年のアップデートでも競争力は向上したが、マシンそのものの性格までは変えられなかったという。

「少し競争できるようにはなったが、マシンのキャラクターを根本的に変えるものではなかった。ドライバーにとっては基本的に同じマシンで、ただ少しダウンフォースが増えただけだった。ドライブする楽しさが本当に変わったわけではなかった」

だが、AMR26Bは違う。

「今回は違う。全体的なダウンフォースという意味でも、このパッケージはベース車両と比較して非常に大きなステップになっている」

さらに重要なのは、単に空力性能が向上しただけではないことだ。

「マシンの挙動も変わっている。ドライバーへの情報の伝え方、コーナー中盤での反応、荷重変化への対応も変わった」

「だから、いわば2つのステップを踏み出した。純粋なパフォーマンスが大幅に向上し、それと同時にドライバビリティも大きく改善した。それがドライバーにとって感覚が大きく違う理由であり、彼らから非常にポジティブなフィードバックが得られている理由でもある」

アストンマーティン・コグニザント・フォーミュラワンチーム

シャシー改善でも隠せないホンダF1の出力不足
AMR26Bの進歩は、空力性能やメカニカルバランスが重要になるサーキットでは明確に表れている。

テクニカルなレイアウトでストレートが比較的短いザントフォールトでは、アロンソが9位に入り、シーズン2度目のポイント獲得を果たした。

一方、パワーユニットへの依存度が高いモンツァとマドリンクでは、シャシーでは補えない弱点が露呈した。

F1イタリアGPではアストンマーティンの2台が予選最後列に沈み、ポールポジションから約4秒遅れとなった。ストレートでは、トップチームだけでなくキャデラックなどに対しても大きなタイムを失った。

続くF1スペインGPでは、アロンソが17位でフィニッシュ。優勝したアンドレア・キミ・アントネッリから2周遅れとなり、ストロールはブレーキトラブルによってリタイアした。

原因のひとつがホンダF1のRA626Hだ。

ホンダF1のパワーユニットは、FIAが基準としているレッドブルのパワーユニットに対して推定約70馬力の出力差を抱えているとされる。

さらにレースではエネルギーマネジメントの問題も加わる。アロンソは上海で、予選では1周の約75%でパワーユニットの性能を最大限使用できる一方、ロングランではそれが約半分にまで低下すると説明していた。

ホンダF1はザントフォールトで第2仕様のパワーユニットを投入したものの、トラックサイドのチーフエンジニアを務める折原伸太郎も、依然としてライバルに対して総合的なパワーで遅れていることを認めている。

つまりAMR26Bによってダウンフォースが増え、ドライバビリティが改善され、以前の「壊れていた」状態から予測可能なマシンへと変貌しても、パワーが支配的なサーキットではその進歩が覆い隠されてしまう。

シャシーは改善した。しかし、そのシャシーだけでパワーユニットの不足分を埋めることはできない。

HRCの渡辺康治社長も、パワーユニットの問題を今シーズン中に完全に解決することは難しいとの認識を示している。

AMR26Bを土台に2027年型マシンを開発
アストンマーティンはすでに視線を2027年へと移している。

カルディレによれば、ドライバーからも2027年型マシンについての質問が出るようになり、チームの開発リソースも来季プロジェクトへと重点が移されている。

ハンガリーで投入されたAMR26Bの大型パッケージと、ザントフォールトで加えられた小規模な修正が、AMR26に予定されている最後の空力アップデートになるという。

2027年型マシンは、AMR26Bによって確立された方向性を発展させるものになる。ただし、単純に現在のマシンを継続使用するのではなく、各コンポーネントは新たに設計される。

その意味でAMR26Bには2つの役割がある。

ひとつは、アロンソとストロールが自分の好みに合わせてセットアップできる予測可能なマシンを提供し、2026年シーズンの競争力を改善すること。そしてもうひとつは、2027年型マシンにつながる技術的な方向性を実戦で検証することだ。

「これは我々にとって大きな意味を持っている。数字が変わっただけでなく、フィーリングそのものが変わったことを示している」

シーズン序盤にはAMR26の挙動に苦しみ、フラストレーションを募らせていたアロンソとストロールだが、現在の議論はすでに2027年へと移っている。

AMR26BによってアストンマーティンF1は、単なるダウンフォース増加以上の成果を手にした。予測不能だったマシンをドライバーが調整できるマシンへと変え、その方向性を次のF1マシンへとつなげようとしている。