マクラーレンは、F1オランダGPでMCL40に投入したアップデートによって単にダウンフォースを増やしただけではない。新たに導入されたフロントホイールとホイールカバーには、フロントタイヤをより効率的に温める狙いがあり、ザントフォールトでの予選パフォーマンスを支える重要な要素となった。
ランド・ノリスがハンガリーGPに続く2連勝を飾ったことで、マクラーレンの開発が明確な成果を上げていることが示された。
MCL40は夏休み前後に投入されたアップデートによって不足していた空力荷重を補うと同時に、タイヤを適切な作動温度へ持ち込むという別の課題にも手を入れていた。
高速かつ長いコーナーで強さを増したMCL40
マクラーレンの強みはスペインGPですでに表れ、スパではそれまでで最も競争力の高いMCL40が姿を見せていた。
重要なのは、単純にコーナリングスピードが高いことではない。高速コーナーが長く続き、マシンに継続的な空力荷重が求められる状況になるほどMCL40の競争力が高まる傾向がある。アップデートによって追加されたダウンフォースが、そうした区間で大きな効果を発揮している。
その改善幅はマクラーレン自身の予想を上回るものだった。特に高速セクションで示した強さはチーム内部の期待以上であり、MCL40は高ダウンフォースを要求されるサーキットで基準となる存在へと変化した。
しかし、ザントフォールトでの勝利を読み解くうえでは、空力アップデートだけに注目するのは十分ではない。オランダGPでは、フロントタイヤの温度管理を目的とした新しいホイールも投入されていた。
新フロントホイールの狙いはタイヤ温度
マクラーレンのテクニカルディレクターのひとりであるニール・ホールディは、オランダGPを前に今回のアップデートについて説明していた。
「フロア後部に小さな変更を加え、少し追加のダウンフォースを生み出せるようにした。それに加えて、リアブレーキダクトにもいくつか小規模な変更を施している」
「さらに新しいフロントホイールも導入した。これによってタイヤにより多くの温度を発生させることができる。これらのアップデートはラップタイムという意味では大規模なものではないが、僕たちの競争力を少し高める助けになる」
この変更が重要なのは、MCL40が今季抱えてきた弱点のひとつに直接働きかけるものだからだ。
モナコで露呈したフロントタイヤの課題
アンドレア・ステラ代表はオランダGP後、ハンガロリンクとザントフォールトはいずれも高いダウンフォースを要求するため、MCL40の特性に適していたと説明した。
一方で、同じく高ダウンフォース仕様が用いられるモナコでは状況が異なっていた。ステラはモナコGPを前に前年のように優勝争いへ加わることへの期待を隠していなかったが、実際のMCL40は期待されたほどのパフォーマンスを発揮できなかった。
原因は単純な低速コーナーへの適性ではない。モンテカルロではセットアップの自由度が比較的高く、他のサーキットほど妥協を強いられない。それでもマクラーレンは必要なダウンフォースを十分に確保できず、さらにフロントタイヤを素早く適正温度に入れることにも苦戦した。
フロントタイヤを十分に機能させられなければグリップを引き出すことができない。同様の傾向はオーストラリアGPや中国GPでも確認されており、MCL40はグレイニングにも苦しんでいた。
つまりマクラーレンにとって、空力性能の向上とタイヤ温度の管理は別々のテーマではなく、マシン全体のパフォーマンスを引き出すために同時に解決すべき課題だった。
ザントフォールト予選で表れた効果
ザントフォールトでも週末を前に懸念されていたのが、フロントタイヤにグレイニングが発生する可能性だった。実際にはグレイニングは比較的限定的だったが、より重要だったのはドライコンディションでタイヤを素早く適正温度まで上げられるかどうかだった。
その違いは予選Q3最後のアタックで明確に表れた。
マクラーレンはアタックに入るとすぐにタイヤを機能させ、ランド・ノリスがポールポジションを決めるタイムを記録した。一方、フェラーリをはじめとする一部のライバルはタイヤを十分に温めることに苦戦し、さらに1周を費やして温度を作る必要があった。
わずかな違いに見えるが、予選ではタイヤをいつピークの状態に持ち込めるかがアタックの成否を左右する。特にザントフォールトのようにタイヤへの要求が厳しいサーキットでは、その差が直接ラップタイムへつながる。
2026年に再び開発領域となったホイール
この改善の背景には、F1の技術規則におけるホイール開発の変化もある。今季からホイールの開発自由度が再び広がったことで、各チームにとってタイヤの温度と作動圧力を管理するための新たな開発領域となっている。
ホイールの構造には、空気の流れ方をコントロールするための空間や形状を設けることができる。それによってホイール周辺を流れる空気を受動的に制御し、ホイール自体の温度、さらにタイヤへ伝わる熱を調整することが可能になる。
タイヤを直接変更することはできなくても、その周囲の熱環境をコントロールすることで、タイヤを狙った作動領域へ近づけられるというわけだ。

エンケイ製フロントホイールと閉じたホイールカバー
マクラーレンはザントフォールトで、まさにこの領域へ変更を加えた。
変更されたのは、長年のパートナーである日本のエンケイが製造するフロントホイールだ。新仕様ではホイール内部の温度をより高く維持し、その熱をタイヤへ伝えることでフロントタイヤのウォームアップを促進することを狙っている。
同時にホイールカバーも変更され、従来より閉じた形状が採用された。外部から入ってくる冷たい空気の影響を抑えることでホイールが冷却されすぎるのを防ぎ、より高い温度を維持しやすくしている。
興味深いのは、変更がフロントだけに限定されたことだ。
リアは変更せず 前後で異なる温度管理
リアホイールについては従来仕様が維持された。これはザントフォールトで各チームがリアタイヤの消耗にも苦しんでいたことと無関係ではない。
週末を通じて強い風が吹き、マシンは高速コーナーでスライドしやすい状況にあった。こうした場面ではダウンフォースが大きいほどマシンを安定させやすいが、スライドが増えればリアタイヤへの負荷も高まる。
さらに低速コーナーからの立ち上がりではリアタイヤに大きなトラクション負荷がかかる。そのためリア側については、フロントと同じように積極的に温度を上げる必要性はなかった。
マクラーレンは前後で異なるタイヤの要求を見極め、ウォームアップに課題を抱えるフロント側だけに変更を集中させたことになる。
空力だけではないマクラーレンの開発
MCL40がハンガリーとザントフォールトで示した速さは、高ダウンフォース型サーキットとの相性だけで説明できるものではない。
夏休み前後のアップデートによって空力荷重そのものを増やす一方、マクラーレンはホイールという細かな領域にも手を入れ、タイヤをより早く適正な作動温度へ入れるための改善を進めている。
新しいフロントホイールだけで大幅なラップタイム短縮が得られるわけではない。しかし、予選の1周でフロントタイヤを素早く機能させられること、そしてマシンが本来持つダウンフォースを確実にグリップへ変換できることは、僅差のF1では大きな意味を持つ。
ザントフォールトでの勝利は、MCL40が単にダウンフォースを増しただけではなく、空力とタイヤ温度管理を組み合わせることで、マシン全体の性能をより安定して引き出せるようになったことを示す結果でもあった。
