ホンダF1は、アストンマーティンとの新たなワークス体制に向けた準備段階で、人材面にも課題を抱えていたことを認めた。ホンダ・レーシング(HRC)の折原慎太郎は、2025年末の時点では組織全体として「F1に対応するには十分なレベルではなかった可能性がある」と振り返っている。
これは、アストンマーティンのエイドリアン・ニューウェイが2026年シーズン序盤に指摘していた問題とも重なる。
レッドブルとのF1活動を終えた後、ホンダでは多くの技術者が別プロジェクトへ移っており、新たなF1プロジェクトの立ち上げでは経験の浅いスタッフを含めた組織の再構築が必要になっていた。
ニューウェイが指摘していたホンダF1の人材問題
アストンマーティンとホンダは2026年からワークスパートナーとしてF1に参戦しているが、新しいパワーユニット(PU)の開発は決して順調ではなかった。
ニューウェイは3月のオーストラリアGPで、ホンダの準備状況について厳しい現実を明かしていた。
「我々がそれに気づいたのは昨年11月になってからだった。ローレンス、アンディ・コーウェル、私の3人で東京へ行った。開幕戦までに当初の目標としていた出力に届かないのではないかという話が出始めていたからだ」
ニューウェイによれば、その過程でホンダがF1活動を再始動した際、以前のプロジェクトを支えていたスタッフの多くが戻っていないことも分かったという。
「元々いたメンバーの多くが、再始動した際に戻っていなかった。彼らはソーラーパネルか何か、そういった別の仕事をしていた」
レッドブルと組んでいた時代にF1の最前線を経験した人材が、そのまま新プロジェクトへ再集結したわけではなかった。
折原慎太郎「スタッフは常にプロジェクト間を行き来する」
折原慎太郎も、ニューウェイの指摘には事実に即した部分があったことを認めている。
「ホンダは非常に独特な会社です。そのため、人材はロードカーのプロジェクトとF1プロジェクトの間を、いわば常に行き来しています」
ホンダではモータースポーツだけに人材を固定するのではなく、F1で培った技術や経験を市販車開発へ還元し、その一方で別部門で経験を積んだエンジニアをF1へ投入するという人材交流が行われている。
「昨年は多くのスタッフがいました。新人というわけではなく、非常に優秀な人材です。ロードカーのプロジェクトから来た人もいれば、レッドブルとのプロジェクトで働いていた人もいました」
「私たちはF1プロジェクトを通じて常に人材を育成し、ホンダ全体の知識を高めようとしています」
つまり、問題はエンジニア個々の能力そのものではなく、F1特有の開発環境や仕事の進め方を経験している人材が十分ではなかったことにあった。
「F1に対応するには十分ではなかった」
折原慎太郎は、2025年末の段階では組織としてF1に必要なレベルへ完全には到達していなかったとの認識を示している。
「おそらく昨年末の時点では、人材育成という意味での全体的なレベルが、F1に対応するには十分ではなかったと思います」
その弱点が表面化したのが、2026年シーズン開幕前の冬季テストだった。
アストンマーティンとホンダはバーレーンやバルセロナで厳しい問題に直面し、新しいPUと車体を組み合わせた実戦環境の中で、多くの課題への対応を迫られた。
だが折原慎太郎は、その苦しい期間そのものがエンジニアの成長につながったと考えている。
「冬季テストではかなり厳しい時期もありました。ただ、その経験によってスタッフは成長できたと思います。F1で仕事をするために何が必要なのか、多くのことを学びました」

技術力ではなく「F1でどう働くか」の経験
折原慎太郎が強調するのは、投入されたスタッフに技術的な能力が欠けていたわけではないという点だ。
「彼らにはすでに十分な知識と高いレベルのスキルがありました。そのうえで、F1ではどのように仕事をしなければならないのかという経験を身につけました」
F1では短期間で問題を分析し、設計、製造、実車確認までを高速で繰り返す必要がある。さらにPUメーカーには、単体性能だけでなく、シャシー側との統合やエネルギーマネジメント、ドライバビリティ、信頼性などを同時に成立させることが求められる。
市販車開発で高い能力を持つエンジニアであっても、このF1特有の開発サイクルに適応するには実戦経験が必要になる。
冬季テストで発生した問題への対応は、ホンダにとってPUそのものを改善するだけでなく、組織をF1仕様へ鍛え直す期間にもなった。
冬季テストを経て「大きく進歩した」
その経験を積んだことで、現在のホンダF1プロジェクトは数カ月前とは異なる状態にあると折原慎太郎は語る。
「新しく加わったスタッフも、冬季テストを通じてそうした経験を積むことができました。それ以降、人材育成という面でもかなり進歩したと思っています」
「現在は、強力なパワーユニットを開発すること、そして優れたエネルギーマネジメントを構築することの両方において、良いポジションにいると自信を持っています」
2026年F1ではPU性能だけでなく、電気エネルギーをどこで回生し、どこで放出するかというエネルギーマネジメントも競争力を大きく左右する。そのため、ハードウェアの改良と並行して制御面を成熟させることも重要な開発テーマとなる。
ザントフォールトで新スペックPU投入へ
ホンダは今週末のオランダGPで新スペックPUを投入する予定であり、アストンマーティン側もAMR26に追加の空力アップデートを持ち込む。
シーズン序盤にはPUの性能と信頼性、車体との統合など複数の問題に苦しんだアストンマーティンとホンダだが、開発を進めるだけでなく、その過程でF1経験の少なかったスタッフも実戦のノウハウを蓄積してきた。
ニューウェイがシーズン序盤に指摘した人材面の問題をホンダ側も認めた形だが、折原慎太郎の説明から浮かび上がるのは、単純な「人材不足」というよりも、F1特有の開発スピードと仕事の進め方に組織全体を適応させる必要があったという実情だ。
新スペックPUとAMR26のアップデートが投入されるザントフォールトは、その数カ月にわたる技術開発と組織強化が、実際の競争力としてどこまで成果を生み始めたのかを測る重要な週末となる。
