キャデラックF1のチーム代表交代は、F1界でも異例の突然の人事となった。プロジェクトの立ち上げから約4年間にわたって中心的な役割を担ってきたグレアム・ロードンが、F1参戦からわずか11戦でチーム代表を退任。後任には元アルピーヌF1エグゼクティブディレクターのマルチン・ブドコウスキーが即時就任した。
キャデラックF1のCEOを務めるダン・トーリスは、この交代について「双方合意ではない」と明言。さらにロードン本人に決定を伝えたのは発表当日の朝だったことを明かした。
一方で、代表交代そのものは数カ月前から検討されており、キャデラックF1が次の成長段階へ進むための組織改革だったと説明している。
「私の決定だった」ロードンに当日朝に通告
F1がサマーブレイクに入っているなか、キャデラックF1は水曜日午後、ロードンの退任とブドコウスキーのチーム代表就任を発表した。
61歳のロードンは、トーリスやアンドレッティ家とともに約4年間にわたってF1参戦プロジェクトを構築してきた中心人物のひとりだった。それだけに、参戦初年度のシーズン前半を終えたばかりのタイミングでの交代は大きな驚きをもって受け止められた。
トーリスはメディアとのインタビューで、今回の決定がロードンとの合意によるものではなかったことを認めた。
「これは私の決定だった。双方合意ではない。お互いが合意して決めたことではない」
ただし、代表交代という考え自体が突然浮上したわけではないという。
「このプロセスが本当の意味で始まったのは数カ月前だったと思う。キャデラックのF1における次のフェーズがどうあるべきなのか、いつが適切なタイミングなのか、どのような形にすべきなのか、そして候補となるさまざまな人々がどのような能力を持っているのかを考え始めた」
「そしてもちろん、マルチンとの話し合いや、彼との関係がどのように発展していったかについて、我々は非常に満足していた」
数カ月前から検討も最終通告は発表当日
水面下では数カ月にわたって検討されていた一方、ロードン本人との最終的な話し合いが行われたのは発表当日の朝だった。
「そうだ。グレアムと私は今朝話をした。その意味では、本当に直近の話し合いだった。F1でこうした移行を簡単に進める方法はない」
トーリスによれば、早い段階から後任候補をチーム内部に出入りさせれば、現体制を不安定にする危険性があった。
「もしマルチンがファクトリーを歩き回って見学していたり、我々がこうした話し合いをしていたりしたら、メディアがどう反応するか想像できるだろう。それでは、その時点で組織が不安定になってしまう」
「だから、その時点で責任を負っている経営陣の職務範囲を尊重することが重要だった。それによって必然的に、決断を下すまでの時間やスケジュール、すべてを実行に移す方法は限られてくる」
「そのため、通常とは違って非常に唐突に物事が進んだように見える。しかし、それがF1という世界の性質であり、こうする必要があった」
つまりキャデラックF1は、交代を検討しながらもロードンが指揮を執っている間の混乱を避けるため、最終段階まで情報を厳重に管理していたことになる。
ロードンは最初から「暫定代表」だったわけではない
キャデラックF1が発表した声明では、ロードン退任の具体的な理由は示されなかった。ロードンについて触れられたのもわずかで、経営体制の進化は以前から計画されていたとの説明にとどまった。
トーリスはロードンとの個人的な話し合いの詳細について明言を避けたものの、将来的な代表交代について両者が以前から話していたことは認めた。
「グレアムと私は、いつか移行する時が来るということについて常に話をしていた。この決定は私が下したものだ」
ただし、ロードンがF1参戦を実現させるまでの「暫定的なチーム代表」として起用されていたとの見方は否定した。
「彼が暫定的な役割としてここにいたと言うのは正しくないと思う。実際にはパフォーマンスと、物事がどのように進展していくかに基づいていた」
トーリスは今回の交代について、参戦初年度の結果に対する処分というより、キャデラックF1の将来像をめぐる判断だったことを強調している。
「どの部分でグレアムと私の考えが一致し、どの部分で一致していなかったのか。それについての話し合いは、間違いなくグレアムと私の間だけにとどめる」
「ただ、達成してきたことについては話せる。私はグレアムを心から尊敬しているし、我々は一緒に本当に多くのことを経験してきた」
「繰り返すが、私にとってもグレアムにとっても、これは暫定的な期間ではなかった。計画し、組織を築き、必要なすべてのステップを実現するために、ほぼ4年間を費やしてきた」
キャデラックF1が求める「次のフェーズ」
今回の人事の背景としてトーリスが繰り返したのが、キャデラックF1の「次のフェーズ」という言葉だ。
新規参入チームだからこそ、既存のF1チームを単純に模倣するのではなく、新しい組織をゼロから構築できる期間は限られているという。
「我々が今築いているものを考えれば、新しく革新的なものを構築できる非常に限られた機会が存在している」
「私が望まなかったのは、すでに誰かが作ったもの、古いものをもう一度作って、それを少し改善しようとすることだった」
「そして、この変更を行うタイミングが、予想していたよりも早く訪れたのだと思う」
一方で、参戦初年度にキャデラックF1が経験している苦戦や、ここ数戦で表面化した問題がロードン退任の直接的な原因だったとの見方は否定した。
「最近数週間のパフォーマンスや初期トラブルが原因だとは言わない」
「これは本当に、我々が将来に向けて何を構築しているのか、その明確なビジョンを持つこと、どのようなペースで前進しているのか、そしてそれをオーナーたちの野心と一致させることについての判断だ」
なぜ情報は一切漏れなかったのか
F1では、ドライバー移籍だけでなく、チーム代表や技術責任者の交代も正式発表より前に情報が漏れることが珍しくない。
しかし今回、ロードン退任とブドコウスキー就任を示唆する情報はほとんど表に出なかった。ロードン自身も直近のメディア対応で退任を示唆していなかった。
トーリスは、秘密を維持すること自体が難しかったと認めている。
「F1でこうした移行を行うときは、知ってのとおり非常に難しい。本当に秘密を守るのが難しい世界だが、今回はこの件についてリークがなかった」
結果として発表が「電撃的」に映ったのは偶然ではない。現体制の指揮系統を維持し、チーム内部への影響を最小限に抑えるため、キャデラックF1側が意図的に最後まで情報を限定していたというのがトーリスの説明だ。
ブドコウスキー起用で組織構築を加速
後任となるマルチン・ブドコウスキーは、F1の技術部門と統括組織、そしてチーム経営の双方を経験してきた人物だ。
マクラーレンやフェラーリなどで技術職を経験した後、FIAでF1技術部門の責任者を務め、その後ルノー/アルピーヌに加入。アルピーヌではエグゼクティブディレクターとしてチーム運営にも携わった。
キャデラックF1がブドコウスキーに期待するのは、単なる現場指揮だけではなく、新規参入チームを次の段階へ移行させるための組織構築だとみられる。
トーリスは、現在のチームとF1を取り巻く状況を考えれば、今が交代のタイミングだったと説明した。
「スポーツとチームの双方に存在する状況を考えれば、今が適切なタイミングだった。だから、このステップを踏むには今が正しい時期であり、正しい場所だった」
「グレアムがチームにもたらしてくれたすべてのものに、改めて心から感謝している。そしてマルチンのリーダーシップと、キャデラックの未来がどうなっていくのかを非常に楽しみにしている」
約4年間をかけてキャデラックF1参戦の基礎を築いたロードン。その役割を評価しながらも、トーリスは参戦わずか11戦でトップ交代を決断した。
今回の説明から浮かび上がるのは、単純な成績不振による更迭ではなく、オーナー側が求める成長速度や将来の組織像をめぐって、ロウドン体制からブドコウスキー体制へ早期に切り替える必要があると判断したという構図だ。もっとも、トーリスが「一致していた部分と、そうでなかった部分」に言及した以上、両者の間に今後のチーム運営をめぐる考え方の違いが存在していたこともうかがえる。キャデラックF1は、参戦初年度の折り返し地点で早くも次の組織づくりへと舵を切った。
