2026年に導入された新世代F1マシンをめぐる議論が続くなか、ル・マン24時間レースで歴代最多9勝を誇るトム・クリステンセンが、新レギュレーションへの評価を語った。
マックス・フェルスタッペンやフェルナンド・アロンソらが、オーバーテイクにおけるエネルギーマネジメントの影響が大きすぎると批判する一方、クリステンセンは新世代マシンの方向性そのものを支持。
「現代のドライバーは適応できなければ終わりだ」と述べ、複雑化したF1への対応力もトップドライバーに求められる能力のひとつだと主張した。
軽量・コンパクト化は「F1にとって正しい方向」
アウディのアンバサダーを務めるクリステンセンは、2026年の新レギュレーションを完全に第三者の立場から評価しているわけではない。アウディがF1参戦を決断した背景のひとつには、今季から導入された新しいパワーユニット規則がある。
それでも、ル・マン24時間で9度の総合優勝を飾ったクリステンセンは、2026年型マシンに導入された変更はF1にとって前向きな進化だと考えている。
特に評価しているのが、マシンの小型化と軽量化だ。
「マシンはよりコンパクトで軽くなった。それは見ていても分かる。マシンはより俊敏になったし、これはF1にとって正しい方向だ」
FIAは2026年規則でマシンのサイズと重量を削減し、従来よりも扱いやすく、ドライバーがマシンの挙動により大きな影響を与えられる方向を目指した。クリステンセンは、その狙いについて一定の成果が表れていると評価している。
エネルギーマネジメントには「人工的」に映る場面も
一方で、クリステンセンも2026年規則が完成形だとは考えていない。特に課題として挙げたのが、新世代ハイブリッドパワーユニットにおける電気エネルギーの使い方だ。
シーズン序盤からエネルギーマネジメントをめぐってはドライバーから不満が相次ぎ、スパ・フランコルシャンやシルバーストンといった高速サーキットでも、その特徴が顕著に表れた。
「ドライバーたちの批判にも確かに根拠はある。特にシーズン前半や一部のサーキットではそうだった。時にはすべてが少し人工的に見えることもあった。ただ、ドライビングという面では、それ以降かなり改善されている」
フェルスタッペンやアロンソを含む複数のF1王者は、2026年型マシンではオーバーテイクの成否が電気エネルギーをどれだけ利用できるかに左右されすぎており、純粋なドライビング能力の比重が小さくなっているとの考えを示してきた。
クリステンセンもそうした違和感そのものは理解している。しかし、それを新世代F1が抱える根本的な欠陥だとは捉えていない。
「アクセルとブレーキとステアリングだけ」は過去のもの
クリステンセンが強調するのは、時代とともに変化するマシンへ適応することもドライバーの能力だという点だ。
「現代のドライバーである以上、状況に適応できなければならない」
F1が純粋にアクセル、ブレーキ、ステアリングだけで競うべきだという考えにも否定的だ。
「理想的な世界ならアクセルとブレーキとステアリングだけでいい、という考え方は間違っていると思う。以前より少し複雑になっただけで、今ではドライバーがそれに適応できることが不可欠なんだ」
そして、現代F1で生き残るための条件を端的に表現した。
「それができなければ、終わりだ」
クリステンセンの主張は、2026年型マシンをめぐる議論に別の視点を提示している。エネルギー管理によってレースが人工的に見えるという批判を認めつつ、そのシステムを最大限に使いこなす能力まで含めて現代のドライビングスキルだという考えだ。
クリステンセンが最も評価するアントネッリ
技術面だけでなく、クリステンセンは2026年シーズン前半のドライバーについても評価を語った。そのなかで最も強い印象を受けた存在として挙げたのが、メルセデスF1のキミ・アントネッリだ。
19歳のアントネッリは現在、ルイス・ハミルトンとチームメイトのジョージ・ラッセルを上回ってF1ドライバーズ選手権をリードしている。シーズン開幕前にはラッセルが有力候補のひとりと見られていたが、アントネッリは新世代マシンへの高い適応力を示している。
「2026年シーズンにはいくつかポジティブな点がある。でも僕にとって、キミ・アントネッリはそのなかでも圧倒的に輝いている存在だ」
「今の彼には自信があふれている」
クリステンセンは、その自信こそが複雑な2026年型マシンを速く走らせるうえで重要な要素になっていると分析する。
自信がエネルギー管理と速さにつながる
2026年のF1では、単純にマシンを限界まで走らせるだけでは十分ではない。電気エネルギーの配分やパワーユニットの各種モード、車載システムなどを把握しながら、レース全体を組み立てる能力がこれまで以上に要求されている。
クリステンセンは、そうした状況だからこそドライバーの精神状態がパフォーマンスを大きく左右すると考えている。
「精神的にいい状態にいれば、自然とドライビングも良くなると確信している。特にエネルギーマネジメントではそうだ」
「こういうマシンでは、自分自身を強く信じているドライバーの確かな操作が必要になる」
「大きな自信があれば、プレッシャーをよりうまく管理できるし、ドライビングも良くなる」
2026年F1は、軽量化と小型化によってマシン本来の俊敏性を取り戻す一方、エネルギーマネジメントという新たな複雑さをドライバーに課した。クリステンセンは、その部分に改善の余地があることを認めながらも、変化した技術を理解し、使いこなす能力まで含めて現代のF1ドライバーに必要な資質だと評価している。
