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  • マクラーレンF1 同じメルセデスPUでなぜ遅い? ワークスとの差は「投資」

    マクラーレンF1 同じメルセデスPUでなぜ遅い? ワークスとの差は「投資」

    マクラーレンは2026年F1シーズン、メルセデスと同じパワーユニット(PU)を搭載しながら、その性能をワークスチームほど引き出せていない。この差をめぐり、メルセデスとマクラーレン双方の技術陣が、その背景にある複雑な事情を明らかにしている。

    問題の核心にあるのは、単純なPUの仕様差ではない。新世代PUを車体と組み合わせて最適に運用するためのシミュレーションツールやソフトウェア、そしてそれらを開発・運用するためのリソースだ。

    メルセデス側は、マクラーレンがさらに自ら投資する必要があるとの見方を示している。

    同じメルセデスPUでも生まれた性能差
    2025年にドライバーズ、コンストラクターズの両タイトルを獲得したマクラーレンだが、新しいテクニカルレギュレーションが導入された2026年は苦戦を強いられている。

    夏休み前のハンガリーGPではランド・ノリスが今季初のポールポジションから勝利を挙げたものの、それまでの10戦で表彰台は4回。コンストラクターズランキングでは、前年に364ポイント差をつけて破ったメルセデスに対し、現在は159ポイントのビハインドを抱えている。

    その要因のひとつとして注目されてきたのがPUの使い方だ。

    2026年のF1では、内燃エンジンと電動部分の出力比率が53対47となり、従来以上にエネルギーマネジメントが重要になった。同じメルセデス製PUを使用していても、車体特性に合わせた制御やエネルギー配分によって実際のパフォーマンスには差が生じる。

    マクラーレンのチーム代表アンドレア・ステラは6月末、ストレートでメルセデスに最大約0.15秒/周を失っていると説明していた。

    さらに7月のイギリスGPでは、メルセデスのワークス車両が予選で使用していたPUのパフォーマンスを引き出す手法について、マクラーレン側が驚きを示す場面もあった。

    「HPP(メルセデス・ハイパフォーマンス・パワートレインズ)とは技術レベルで継続的に話し合っている。この素晴らしいPUで利用可能なものを確実に使えるようにするためだ」とステラは語った。

    「これは本当に素晴らしい技術で、多くのパフォーマンスがある。ただ、その性能は細かな使い方の部分にも存在している」

    「ストレートでのパフォーマンスを見ると、彼らの方がドラッグが少ない可能性を考慮しても、まだいくつか疑問が残っている」

    メルセデス「意図的に差をつけているわけではない」
    この問題について、メルセデスの副チーム代表ブラッドリー・ロードは、ワークスチームが意図的にカスタマーチームへ情報を与えていないという見方を否定している。

    「すべてはレギュレーションと契約に従っている。マクラーレンだけでなく、アルピーヌやウィリアムズも素晴らしいパートナーだ。彼らが要求の高い存在なのは当然だし、優れたサポートと製品を提供する会社としてメルセデスを選んでいる」

    ロードによれば、ブリックスワースのHPPは長年にわたりカスタマー供給において公平な対応を続けてきた。

    それでもワークスとカスタマーの間で差が生まれる理由として、ロードが挙げたのがシミュレーションツールだ。

    「違いがあると認識されたり、カスタマー側が一歩遅れていると感じたりする部分があるとすれば、多くの場合、それはシミュレーションツールやPUとシャシーの挙動を予測する能力といったところにある」

    ここで重要なのは、メルセデスが使用するツールのすべてがHPPだけで開発されたものではないという点だ。

    ワークス専用の技術はそのまま渡せない
    メルセデスのPU運用ツールには、ブリックスワースのHPPだけでなく、F1ワークスチームであるメルセデスのシャシー部門と共同開発したものも含まれている。

    F1の技術規則では、チーム間で共有できる知的財産(IP)について厳格な制限が設けられている。そのため、メルセデスが持っているツールをそのままマクラーレンへ渡せるわけではない。

    「そうしたツールの多くはブリックスワースだけでなく、MGP(メルセデスF1チーム)のシャシー部門とHPPが共同で開発したものだ」とロードは説明する。

    「当然ながら技術規則では、シャシーチームのIPについて、チーム間で何を共有できて何を共有できないのかが非常に明確に定められている」

    このため、カスタマーへ提供する前にワークス側のIPを切り離す作業が必要になるケースがある。

    そして、ここからマクラーレン自身の「投資」という問題が浮上する。

    「場合によっては、カスタマーチーム自身が作業を行い、自分たちのコストキャップのリソースを使って、PUから最大限の性能を引き出すためのツールを開発する必要がある」

    「おそらく、これが我々が直面している複雑さのひとつだ。ただ、新しいレギュレーションであり、しかも以前より複雑な規則になっていることを考えれば理解できることでもある」

    つまり、同じPUを購入すれば同じ性能が自動的に手に入るわけではない。PUそのものに加えて、それを最大限に活用するための解析環境にもマクラーレン自身がリソースを投入しなければならない。

    マクラーレンも「リソース不足」を認める
    この点については、マクラーレン側の説明とも一致する。

    マクラーレンのエンジニアリング担当テクニカルディレクター、ニール・ホールディは、2026年シーズン開幕前の準備について、自分たちとHPPの双方で十分なリソースを投入できていなかったと認めている。

    「PUという観点では、その運用方法や複雑さについて、まだ学ばなければならないことが多いのは明らかだった。僕たちとHPPの間で、そこに十分なリソースを投入できていなかった」

    「このレギュレーションではエネルギーマネジメントが難しくなることは分かっていたし、スタートするために良いと思えるものは準備していた」

    しかし、特にソフトウェア面ではさらに準備できる余地があったという。

    「テストや最初の数戦までに、僕たちもHPPもソフトウェア面でもっと作業できたと思う。そうしていれば、エネルギーマネジメントについて、もっと能力の高い状態でシーズンを始められたはずだ」

    マクラーレンとメルセデスAMG・ペトロナス・モータースポーツ

    MCL40専用のキャリブレーションが必要
    問題をさらに複雑にしているのが、マクラーレンMCL40とメルセデスのマシンでは車体特性が異なることだ。

    PUが同じでも、空力特性やドラッグ、車速、燃料搭載量などが違えば、最適なエネルギーの使い方も変わる。そのためマクラーレンにはMCL40専用のキャリブレーションが必要になる。

    「僕たちのマシンはワークスチームとは違う。だから僕たちのマシン専用のキャリブレーションが必要になるが、現時点ではそれを素早く承認できるだけの能力がない」とホールディは説明する。

    開幕から3〜4戦では大きな進歩を遂げたものの、まだPUから引き出せていない性能が残されているという。

    「今後数戦、そして2027年に向けても、さらにステップを踏む必要がある。PUから得られる可能性がある最後の0.1秒を、現時点では完全には引き出せていない」

    マクラーレンは「メインループ」の外側
    マクラーレンのパフォーマンス担当テクニカルディレクター、マーク・テンプルも、カスタマーチーム特有の難しさを説明している。

    マクラーレンもPUの設計や搭載方法について相当な意見を出すことはできる。しかし最終的な決定権は、HPPとメルセデスのワークスチーム側にある。

    「僕たちにもかなりのインプットはあるが、最終的にHPPと何をするのかについて最終決定権を持つのはMGPだ。だからといって僕たちが無視されているという意味ではない。ただ、完全にコントロールしているのは僕たちではない」

    レース週末にHPPはワークス側の「メインチーム」と各カスタマー向けのサポートチームという形で活動する。

    「僕たちは少しメインループの外側にいて、プログラムへ情報を送り込むサイドループで仕事をしている。そのため、僕たちが望む設定や、自分たちに適した設定を必ずしも得られるとは限らない」

    情報が届くタイミングにも違いがある。

    「レースに向けてHPPから情報を受け取るが、その前には僕たちが参加していない意思決定や開発がある。何が使えるのか分かった時点では、それに反応して対応する時間があまり残されていないことも多い」

    マクラーレンは、この弱点を解消するために従来存在しなかった「PUパフォーマンスチーム」を新たに構築している。

    短いギア比もマクラーレンの足かせに
    もうひとつの違いがギア比だ。

    マクラーレンはシーズン開幕前に得られたメルセデス側の情報を基に、比較的短いギア比を選択した。短いギア比には加速性能やスタートなどでメリットがある一方、高速域では不利になる可能性がある。

    現在の知識を持ってもう一度選択できるならどうするかと問われたホールディは、「メルセデスにもっと近づける」と認めた。

    「もう一度やり直せるなら、メルセデスに近いギア比にすると思う」

    「短いギア比だからこそ得られるパフォーマンス上の機会もある。コーナーでより低いギアまで落とさずに済む場合もあるし、リスタートやスタートでもメリットがある」

    「ただ、高速側を考えれば、おそらく他のチームが持っているものを選ぶだろう」

    もっとも、ホールディはギア比だけで大きな差が生じているわけではないことも強調する。

    「小さなラップタイムの違いだ。ただ、そういう小さなものが積み重なると、それなりのラップタイムになる」

    「とはいえ、ここで話しているのは10分の1秒ではなく、数ミリ秒だ」

    2027年に向けて問われるマクラーレンのPU運用能力
    メルセデスとマクラーレンの説明を合わせると、2026年に生じている差を単純な「ワークス対カスタマー」という構図だけで説明することはできない。

    PUそのものは同じでも、メルセデスにはHPPとシャシー部門が共同で蓄積したシミュレーション環境があり、PUとマシンを一体として最適化できる。一方、その中には規則上マクラーレンへそのまま提供できないIPも含まれる。

    マクラーレンは独自のツールやソフトウェア、人員にコストキャップ内のリソースを投入し、MCL40に合わせたエネルギーマネジメントやキャリブレーションを構築しなければならない。

    さらに、情報を受け取るタイミング、設定に対する最終決定権、ギア比といった小さな違いも積み重なっている。

    2025年にメルセデスを364ポイント上回った王者マクラーレンが、2026年には同じPUを搭載するワークスチームを追う立場となった背景には、新世代F1で「エンジンを持っていること」と「エンジンを完全に使いこなすこと」が別の問題になったという現実がある。

    ハンガリーGPでノリスが示した速さはMCL40そのものに競争力があることを証明した。だからこそ、PUから取りこぼしている最後のパフォーマンスをどこまで回収できるか。そのための投資と技術基盤の構築が、残る2026年シーズンだけでなく2027年に向けてもマクラーレンの重要な課題となる。

  • ホンダF1 苦境でもアストンマーティンは「一度も不満を言わなかった」

    ホンダF1 苦境でもアストンマーティンは「一度も不満を言わなかった」

    ホンダF1とアストンマーティンは、2026年シーズン序盤に深刻なトラブルに直面しながらも、互いを非難することなく問題解決に取り組んできた。

    HRC(ホンダ・レーシング)のトラックサイドマネージャー兼チーフエンジニアを務める折原慎太郎は、厳しい状況でもアストンマーティンから「一度も不満を言われなかった」と明かしている。

    ホンダとアストンマーティンによる新たなワークス体制の船出は決して順調ではなかった。信頼性不足やパフォーマンス不足に加え、バッテリーに関連した激しい振動が発生。プレシーズンテストから問題が相次ぎ、シーズン開幕後もしばらくは性能向上より信頼性の確立を優先せざるを得ない状況が続いた。

    「アストンマーティンはホンダに一度も不満を言わなかった」
    アストンマーティンは2026年からホンダのワークスパートナーとなったが、その関係はスタート直後から大きな試練にさらされた。

    特にプレシーズンテストではホンダの新パワーユニット(PU)にバッテリー関連の問題が発生。アストンマーティンは全チームで最も少ない走行距離にとどまり、マシンを伝わる振動も信頼性とドライバーの身体の両面で深刻な懸念となった。

    それでも折原慎太郎によれば、アストンマーティンがその不満をホンダにぶつけることはなかったという。『RacingNews365』の独占インタビューで、両者がシーズン序盤から築いてきた関係について語った。

    「ウインターテストでは、ご存じの通り厳しい状況がありました。ただ、トラックサイドではシーズン序盤からすでに良い関係を築けていました。マイク(クラック/アストンマーティンのチーフ・トラックサイド・オフィサー)のおかげでもあります」

    「アストンマーティンからホンダに不満を言われたことは一度もありませんでした。もちろん、私たちはプロフェッショナルですから、何が問題なのか、どう対応すべきなのかについて議論します。ただ、彼らは常にホンダをリスペクトしてくれていました。そのため、今年の初めから関係は良好でした」

    工場レベルでも同様だった。

    「ファクトリー側でも今年の初めから良いコミュニケーションが取れていましたし、そのコミュニケーションはさらに改善されています。バッテリーの振動問題が発生したときには、より密接に協力して取り組むようになりました」

    「ですから、シーズンを通してコミュニケーションのレベルも関係性も、どんどん良くなっていると思います」

    HRC Sakuraとアストンマーティンが「毎日」対策会議
    その協力関係を象徴するのが、プレシーズンテスト後に行われた集中的な対策だ。

    バッテリー問題は単なる性能不足ではなく、開幕戦から実戦を戦えるかどうかにかかわる重大な問題だった。折原慎太郎は、日本のHRC Sakuraとアストンマーティンが毎日会議を行っていたことを明かした。

    「問題が起きていたときは、日本のHRC Sakuraとアストンマーティンの間で毎日ミーティングを行っていました。本当に毎日、何をすべきなのかについて話し合っていました」

    「ウインターテストではバッテリーの問題があり、それが非常に重大なものでした。何も対策をしなければ、第1戦、第2戦、第3戦を乗り切ることはできなかったと思います」

    開幕までに残された時間はわずかだった。そのなかで両者は原因の分析と対策を並行して進めた。

    「ウインターテストから開幕戦までの間、毎日何をすべきなのかを議論しました。そして一緒に対策を準備して開幕戦に持ち込み、そこで乗り切ることができました。そうしたことが舞台裏で行われていました」

    この対策によって、少なくともバッテリーの振動がさらなる故障につながる事態は抑えられた。一方、車体そのものに発生する振動は引き続き課題として残った。

    シーズン序盤にはエイドリアン・ニューウェイも問題の深刻さに言及。ミラーをはじめとするパーツが振動によって緩み、フェルナンド・アロンソは手足のしびれを訴えるほどだった。長期的には神経への影響も懸念されるレベルだったという。

    英国チームとの文化の違いは「問題ではない」
    日本のメーカーであるホンダと英国を拠点とするアストンマーティン。技術的な問題が続けば、文化や仕事の進め方の違いが関係悪化につながる可能性もある。

    しかし折原慎太郎は、そこに大きな障壁はないと考えている。

    「ホンダが英国のチームと仕事をするのは今回が初めてではありません。マクラーレンとも仕事をしてきましたし、レッドブルとも仕事をしてきました。イタリアのチームと仕事をした経験もあります」

    「英国の組織と仕事をする経験は十分にあります。そのため、文化の違いや言葉の壁は問題ではないと思っています」

    むしろ、今回の苦境が両者の結束を強めたという。

    「厳しい時期を一緒に経験したからこそ、関係をかなり強くすることができたと思います。現在、ホンダとアストンマーティンの関係という意味では、良い状態にあると思っています」

    ホンダF1とアストンマーティン・コグニザント・フォーミュラワンチーム

    10戦リタイアの苦境からハンガリーで見えた変化
    良好な関係とは対照的に、コース上の結果は厳しいものだった。

    アストンマーティンは開幕11戦で計10件のリタイアを経験し、コンストラクターズ選手権では1ポイントで10位。新規参戦のキャデラックと争う位置まで後退した。

    しかし、第11戦ハンガリーGPではひとつの転機が訪れた。

    アストンマーティンはAMR26に軽量化や空力変更を含む16項目のアップデートを投入。アロンソは改良型マシンを「かなり良くなった」と評価し、ランス・ストロールも近年で最も手応えのあるアップデートだったとの認識を示した。

    ニューウェイもこれを「心強い最初の一歩」と表現。実際のパフォーマンスが事前のシミュレーションや予測と一致したことは、今後の開発にとって重要な材料となった。

    ホンダはオランダGPで初のADUOアップグレード
    シャシー側に改善の兆しが見え始めたタイミングで、今度はホンダが大きな一歩を踏み出す。

    ザントフォールトで行われるF1オランダGPでは、ホンダが2026年シーズン初となるPUアップグレードを投入する予定だ。

    2026年から導入されたADUO(Additional Development and Upgrade Opportunities)は、競争力で遅れているPUメーカーに追加開発の機会を認める制度だ。

    ホンダは評価基準となるトップPUに対して4%以上の差があると判定され、2026年に2回の開発機会を得ている。ただし、ホンダはその機会を小規模なアップデートに分散させるのではなく、夏場の大規模アップグレードに開発リソースを集中させる方針を選んだ。

    アストンマーティンがハンガリーでシャシー開発の方向性に一定の手応えを得た直後だけに、ホンダのアップグレードが加わるオランダGPは今後を占う重要な週末となる。

    苦戦がホンダのモチベーションに
    ホンダにとって現在の状況が満足できるものでないことを、折原慎太郎も認めている。ただし、トップとの差は撤退理由ではなく、むしろ追いつくためのモチベーションになっているという。

    「もちろん、トップの競争相手になれているのがベストなシナリオです。ただ一方で、大きなチャレンジがあれば、それは私たちにとって大きなモチベーションになります」

    「ホンダには常に『never give up』という精神があります。難しい状況だからこそ、大きなモチベーションがあります」

    「ですから、現時点が決して満足できる状況ではないことは確かです。それでも、どうやってパフォーマンスを改善し、いつかトップの競争相手に追いつくのかということにワクワクしています。私たちはこのチャレンジを楽しんでいます」

    2026年のアストンマーティン・ホンダは、期待されたスタートとは程遠い苦境からシーズンを始めた。しかし、プレシーズンテストから続いたトラブルに対し、互いを責めるのではなく、HRC Sakuraとアストンマーティンが毎日協議して対策を積み重ねてきたことは、ワークス体制の土台という意味で重要だ。

    ハンガリーでシャシー側に改善の兆しが見え、続くオランダではホンダのPUアップグレードが投入される。序盤の危機によって強まった両者の関係を、ここから実際のF1での競争力へと結びつけられるかが次の焦点となる。

  • メルセデスF1のヴォルフがV8エンジン復活を支持「純粋主義者として好きだ」

    メルセデスF1のヴォルフがV8エンジン復活を支持「純粋主義者として好きだ」

    メルセデスF1のチーム代表トト・ヴォルフが、将来のF1パワーユニット(PU)規則で検討されているV8エンジン復活を支持した。「純粋主義者として好きだ」と語り、内燃エンジンの比重を再び高める方向性に賛同している。

    2014年に始まったターボハイブリッド時代で最大級の成功を収めてきたメルセデスを率いる人物の発言だけに興味深い。

    さらにヴォルフは、2027年と2028年に予定されている現行PUの出力配分変更についても説明し、2027年により大幅な内燃エンジン出力増加を目指した案をフェラーリが阻止したことを明かした。

    V8復活を支持するトト・ヴォルフ
    FIA会長モハメド・ビン・スレイエムは、次世代PUについてV8エンジンを軸としながら電動化を残す構想を推進している。導入時期として2030年または2031年が議論されている。

    RacingNews365の独占インタビューで、ヴォルフはFIAやF1、他のPUメーカーとの協議がすでに進んでいると説明した。

    「僕はFIA会長のモハメド・ビン・スレイエムと話しているし、F1のCEOであるステファノ・ドメニカリ、それから他のエンジンメーカーとも話している」

    「現在のエンジンはとても複雑だ。そして僕たちもようやく理解し始めているところだけど、それによってレースそのものが変わった。日曜日のレースを好きな人もいる。オーバーテイクが多いからね。一方で好きではない人もいる。でも、最も適応できるドライバーが勝つ」

    ヴォルフが特に不満を示したのが、現在のPUが生み出す音だった。

    「スタート前にグリッドでマシンが10秒間エンジンを回しているのは耐えられない。火災報知器みたいな音がする」

    さらに、新しいPU特性への適応がドライバーのパフォーマンスにも影響していると指摘する。

    「ルイス(ハミルトン)を見てみればいい。彼は変わったし、パフォーマンスも大きく変わった。キミ(アントネッリ)はとてもうまくやっている。他のドライバーたちも適応しなければならなかった」

    「80対20」で1000馬力 V8+小型バッテリー構想
    ヴォルフによれば、中長期的には現在よりも内燃エンジンへの依存度を大幅に高める方向へF1が進む可能性が高い。

    「中長期的に考えると、現時点では3〜4年先ということになるけど、僕たちは再び内燃エンジンがパフォーマンスの50%以上を占めるところへ戻っていく」

    その有力案が、ビン・スレイエムが推しているV8エンジンだ。

    「ビン・スレイエムは8気筒のV8を望んでいる。いい音がするエンジンだ。それに、より小さなバッテリーを組み合わせる」

    「出力配分は内燃エンジンとバッテリーで80対20くらいになると思う。そして出力は1000馬力だ」

    自然吸気になるか、ターボなどの過給システムを残すかについては決まっていないという。

    「自然吸気になるかどうかは分からない。でも、現時点ではF1はこの方向へ進んでいると思う。僕は純粋主義者だから、これは好きだ」

    2027年はICE出力20kW増 フェラーリが50kW案を阻止
    ただし、V8時代へ移行する前にも現在のPU規則には段階的な変更が予定されている。

    2026年規則では内燃エンジンと電動側の出力を大幅に接近させたことが大きな特徴だったが、2027年以降は燃料流量を増やすことで、再び内燃エンジン側の比重を高めていく方向となっている。

    ヴォルフは、その変更にはハードウェア側の対応も必要になると説明した。

    「来年もう1年やって、その次にさらに進める。でも、エンジンを再設計する必要がある」

    「燃料流量を増やせば、今まさに僕たちがやっているように馬力が増える。そうなると、それに対応するために変更しなければならないハードウェアも出てくる」

    そしてヴォルフは、2027年にメルセデス側がさらに大きな変更を望んでいたことを明かした。

    「僕たちは来年、エンジン出力を50kW増やしたかった。でもフェラーリがそれを阻止した」

    「だから20kW増というステップになり、その後2028年に50kW増というステップになる」

    つまりF1は、V8復活という次世代規則を待つだけではなく、2027年と2028年にも段階的に内燃エンジン側の比重を引き上げていくことになる。

    F1 V型8気筒エンジン

    ドメニカリCEOも「シンプルなF1」を要求
    F1のステファノ・ドメニカリCEOも、将来規則では複雑さを減らすことが重要だとの考えを示している。

    「技術規則について最終決定権を持っているのはFIAだ。ただ、メーカー、ファン、チーム、ドライバーも含めて行っている議論は正しい方向にあると思う」

    ドメニカリが掲げるキーワードは「シンプルさ」だ。

    「将来の規則における最大の目標は、可能な限り物事をシンプルにすることだと思う。より軽いマシンをF1に導入し、持続可能燃料を使用し、もちろん電動化も残す」

    「そして何よりも、特定のモードではドライバーが可能な限り全力でプッシュできるようにしたい。それはF1ドライバーたちが常に求めてきたことでもある」

    具体的な技術仕様についてはFIAに委ねながらも、2026年末までには将来の方向性をまとめたいとしている。

    「今年末までには、議論できるパッケージを用意できると思っている」

    「現在、多くの良い話し合いが進んでいる。当然ながら、それぞれが異なる理由から異なる方向性を求めている。でも年末までには、将来に向けた適切なパッケージを用意できると思う」

    2014年以来、メルセデスは複雑なターボハイブリッド技術を最大の武器としてF1を支配してきた。そのメルセデスを率いるヴォルフ自身が、よりシンプルで内燃エンジンを中心としたV8時代への回帰を歓迎している。

    2027年、2028年と段階的にICEの比重を高め、その先にV8と小型バッテリーを組み合わせた約1000馬力のPUを導入する――。F1の次世代エンジン構想は、具体的な出力配分まで含めた議論へと進み始めている。

  • ニコラ・ツォロフ 2027年F1昇格候補に浮上「レッドブルが準備してくれた」

    ニコラ・ツォロフ 2027年F1昇格候補に浮上「レッドブルが準備してくれた」

    ニコラ・ツォロフは、2027年のF1昇格候補として注目が高まるなかでも、目の前のFIA F2選手権に集中する姿勢を崩していない。19歳のブルガリア人ドライバーは2026年シーズンのF2でランキング首位に立ち、レッドブル・ジュニア・チームの次なるF1候補として存在感を強めている。

    シルバーストンではスプリントとフィーチャーレースを制覇するなど、今季ここまで6勝を記録。ランキング2位に20ポイント差をつけている。

    周囲では2027年のF1シートをめぐる憶測が膨らんでいるが、ツォロフはレッドブルで受けてきた教育が、こうしたプレッシャーへの対応にも役立っていると語った。

    急速に高まるF1昇格への期待
    2026年のF2は夏休みに入ったが、ツォロフを取り巻く話題はむしろ熱を帯びている。

    カンポス・レーシングから参戦するツォロフは今季6勝を挙げ、シルバーストンではスプリントとフィーチャーレースを連勝。さらに選手権で3連勝という新記録も樹立した。

    こうした活躍によって、2027年にF1へ昇格する可能性が取り沙汰されるようになった。それでも本人は、外部の雑音から距離を置くことを意識している。

    「もちろん、なるべく距離を置いて、少し自分を切り離すようにしている。周囲の雑音に入り込みすぎると、本当に厄介なことになるからね」

    「でも、実際のところかなりうまく対処できていると思う。こういうことが起きるとはまったく予想していなかった、というわけではないから」

    ただし、その反響の大きさは想像以上だったという。

    「ここまで大きな話になるとは思っていなかった。でも、そうなったものは仕方ない。僕はこれまでやってきたことを続けるだけだ」

    「今のシーズンは素晴らしいものになっているし、まだもっとできると思っている。僕たちには、まだ見せられるものがある」

    レッドブル加入がもたらした成長
    ツォロフにとって大きな転機となったのが、2025年シーズンを前にレッドブル・ジュニア・チームへ加入したことだった。

    それ以前にもF1チームの育成プログラムに所属していたが、レッドブル加入後は速さだけでなく安定感も向上。2025年のFIA F3ではラファエル・カマラとタイトルを争い、王座には届かなかったものの、そのパフォーマンスは高く評価された。

    そして2026年、F2でタイトル争いをリードするまでになった。

    「レッドブルには、こうしたカテゴリーから若手ドライバーを育ててきた素晴らしい歴史がある。僕にとってレッドブル・ジュニア・チームへの移籍は本当に重要だった」

    「彼らはあらゆる面で僕をサポートしてくれている。コース外での成長も、コース上でのことも、さまざまな状況への対処方法もそうだ。それはものすごく重要だった」

    ツォロフ自身も、加入前後で自分が大きく変化したと感じている。

    「昨年の初めからの変化を見れば、僕がかなり成長できたことは分かると思う。だから、このチームの一員でいられることに本当に感謝している」

    「彼らも僕にかなり満足してくれていると思うし、いい関係ができている。すべて順調だよ。率直に言えば、僕は今、最高の場所にいると思う」

    カンポス代表もF1昇格を後押し
    ツォロフのF1昇格を強く支持している人物のひとりが、カンポス・レーシングのチーム代表アドリアン・カンポスだ。

    シルバーストンでツォロフが予選5番手から両レースを制した後、カンポスはツォロフがすでにF1で戦う準備ができており、2027年のシートに値すると主張した。

    2022年にスペインF4タイトルを獲得した時からカンポスと歩んできたツォロフにとって、その言葉は特別な意味を持つ。

    「すごく大きな意味がある。彼がそう言ってくれるとは思っていなかったけど、僕がずっと言ってきたように、僕たちは家族なんだ」

    ツォロフは、自身の成功がドライバーだけの力によるものではないことも強調する。

    「僕も彼らと一緒に仕事ができることに感謝している。僕のキャリアにとって彼らの存在は大きかったし、彼が僕についてそう言ってくれるのと同じくらい、僕も彼らが僕に違いをもたらしてくれていると感じている」

    「マシンをセットアップすることだけじゃない。チーム内に適切な環境を作ることもそうだ。そこは十分に注目されていない部分だと思う」

    「マシンについては非常にうまく仕事をしていても、環境がそれほど良くないチームもある。ドライバーを正しい精神状態に置くことができれば、今年の僕たちのような結果につながると思う」

    19歳ながら積み重ねた豊富な経験
    ツォロフの強みのひとつが、年齢以上の経験だ。

    16歳という若さでF3に参戦し、同選手権史上でも最年少クラスのドライバーとなった。F3で3シーズンを経験してからF2へ昇格したため、19歳ながらジュニアカテゴリーで豊富な経験を持っている。

    「僕はずっと自分が若いと感じている。ちょっと面白いんだけど、今のF2グリッドでは僕が2番目に若いんだ」

    「すごく良かったのは、若いうちに多くの経験を積めたことだ。だから今はいいポジションにいると思う」

    「若くて、経験もあって、結果も出せている。それは大きなポイントだし、さらに上へ進む助けになると思う」

    F2では数年間の年齢差が外見上は分かりにくいこともあり、ツォロフは自身が実際以上に年長だと思われていると感じることもあるという。

    「僕や他のドライバーを見ても、みんな年齢差をあまり意識していないと思う。2歳とか3歳くらいの違いだから、今の年齢だと同じように見える」

    「でも、僕がグリッドの平均的な年齢になるまで、たぶんまだ2年くらいある。それを考えると悪くないよね」

    ニコラ・ツォロフ F1

    リンドブラッドから学んだ「F1ドライバーの仕事」
    F2への適応を加速させたもうひとつの要因が、現在レーシングブルズでF1を戦うアービッド・リンドブラッドの存在だった。

    ツォロフは2025年シーズン終盤の2大会でF2に昇格し、カンポスでリンドブラッドのチームメイトとなった。F2参戦3レース目となったヤス・マリーナのスプリントでは早くも3位表彰台を獲得している。

    当時すでに2026年のF1昇格へ向けて準備を進めていたリンドブラッドから、ツォロフは多くを学んだという。

    「昨年最後の2大会でアービッドの隣に入れたことは、間違いなく僕にとって重要だった」

    「彼はその時点ですでにF1とかなり密接に仕事をしていたし、アブダビの頃にはF1昇格も決まっていた」

    特に印象的だったのは、ドライビングそのもの以上に仕事への取り組み方だった。

    「彼にはF1ドライバーとしての仕事の進め方があった。それを見たことで、自分に何が必要なのか、何をすべきなのか、どう準備すべきなのかをより理解できた」

    「もし彼が隣にいなかったら、ここまで準備できていなかったと思う。間違いなく彼から学んだし、あの2大会を一緒に戦えたことには感謝している」

    2027年F1シートについて「まだ何も決まっていない」
    現在のツォロフは、F2ランキング首位を20ポイント差で走り、勝利数は他のどのドライバーの2倍に達している。

    当然ながら焦点は2027年のF1昇格へ向かう。しかし、ツォロフによれば、レッドブルとの間で具体的な将来について話し合われた段階にはまだ至っていない。

    「もちろん彼らは僕にすごく満足してくれている。でも、何かについて話し合ったわけではないし、明確なものは何もない」

    「『今やっていることを続けろ。素晴らしい仕事をしている』という感じだ。でも正直、それ以上のことはあまりない」

    その一方で、F1昇格をめぐる注目やプレッシャーに冷静に対応できている背景には、レッドブルの存在があるという。

    「レッドブル自身が、今起きているすべてのことに向けて僕を準備してくれた。そして彼らの助けがあるからこそ、こういう結果を残せている」

    「でも、まだそれ以上の話をする段階には達していない。今はF2だけに集中している」

    ツォロフはF1への意欲を隠してはいない。現在の成績を考えれば、自分にはチャンスを得るだけの資格があるとも考えている。

    「僕にとって大きな意味がある。みんなが僕のやっていることを評価して、信じてくれているということだからね」

    「僕自身も自分を信じている。今年は本当に素晴らしいシーズンになっているし、チャンスを得るに値すると思っている」

    「でも、このスポーツでは何も確実じゃない。だから、これから与えられるすべてのチャンスを生かして、F2に集中することが大事だ。それだけが、僕が次のステップへ進むために本当にできることだから」

    2027年のF1ドライバー市場が動き始めるなか、ツォロフにできる最も確実なアピールはF2で結果を残し続けることだ。19歳という若さ、ジュニアカテゴリーで積み上げた経験、そしてレッドブルの育成環境。そのすべてを武器に、まずはF2タイトル獲得という目前の目標を追うことになる。

  • アウディF1マクニッシュが語るセナからの教え 「才能だけでは限界がある」

    アウディF1マクニッシュが語るセナからの教え 「才能だけでは限界がある」

    アウディF1のレーシングディレクターを務めるアラン・マクニッシュが、若き日にアイルトン・セナと仕事をした経験を振り返り、F1で成功するために必要な「仕事への姿勢」と「細部へのこだわり」を学んだと明かした。

    現在56歳のマクニッシュは、耐久レースで輝かしい実績を残す一方、若手時代にはマクラーレンのテストドライバーを務めた。そのキャリアの初期に間近で目にしたのが、当時すでにF1ワールドチャンピオンとなっていたセナの仕事ぶりだった。

    10代でマクラーレンF1を初テスト
    マクニッシュが初めてマクラーレンのF1マシンをテストしたのは1989年。当時まだ10代だった。

    そのテストはマカオGPに出場する直前にポルトガルのエストリルで行われ、そこにはセナもいた。マクニッシュはMotorsport.comのインタビューで、当時はその状況がどれほど特別なものなのか深く考える余裕すらなかったと振り返っている。

    「実際、マカオGPに行く直前だった。当時はあまり考えていなかった。とにかく目の前のことをやっていたからね」

    「彼はワールドチャンピオンのアイルトン・セナで、マクラーレンも当時のワールドチャンピオンだった。でも、そこへ行って自分の仕事をするだけだった」

    ただし、初めてF1マシンを走らせた際の衝撃については、今でも鮮明に覚えているという。

    「覚えているのは、マシンから降りたときに『なんて速いんだ!』と思ったことだ」

    1988年に初のF1ワールドチャンピオンに輝いたセナは、この時点ですでにマクラーレンを代表する存在だった。そんなセナがテストで議論していた内容が、若きマクニッシュに強烈な印象を残した。

    セナが議論していた「エンジンのフリクション」
    マクニッシュが注目したのは、単純なドライビングの速さだけではなかった。

    セナはエンジン内部のフリクション(摩擦)をはじめ、マシンの細かな要素についてエンジニアたちと議論していた。その姿を目の当たりにしたことで、マクニッシュはトップレベルで成功するためには才能だけでは足りないことを理解したという。

    「アイルトンはエンジンのフリクションや、その他いろいろなことについて話していた。それがひとつの基準になった」

    「この世界で成功したければ、あらゆるレベルで自分を引き上げなければならないということを、本当にすぐに理解させられた」

    「才能だけで行けるところには限界がある。そこから先には、仕事に取り組む姿勢と、細部に集中する力が必要になる」

    そして、その考え方はレーシングドライバーだけに当てはまるものではないとマクニッシュは考えている。

    「それはドライバーとしての話だったけれど、人生のほかの分野でも違いはないと思う」

    「僕にとって、あれはひとつの教育だった」

    今も残る1989年エストリルテストのデータ
    マクニッシュの手元には現在も、そのエストリルで行われた初テストのデータが残されている。

    ただし、現在のF1のように大量のデータをコンピューター上で瞬時に比較できる時代ではなかった。

    「エストリルで行った最初のテストの古いデータプリントアウトは、今でも持っている」

    「でも、当時は今のようなデータ比較なんてなかったから、2枚の紙を重ねて光にかざして比較していたんだ」

    マシンそのものも現在とは大きく異なっていた。

    「何しろ、まだクラッチペダルがあったんだからね。それにステアリングホイールに付いていたボタンは2つだけだった」

    「今のマシンと比べれば恐竜みたいなものだ」

    アラン・マクニッシュ

    F1への道は遠回り ル・マンで築いた名声
    マクニッシュはその後も複数回にわたってF1マシンをテストしたが、レギュラーシート獲得には長い時間を要した。

    最終的にF1デビューを果たしたのは2002年。32歳で新規参戦したトヨタからグランプリに出場したが、F1でのレギュラー参戦はこの1シーズンだけに終わった。

    一方、スポーツカーレースでは世界屈指のドライバーとして成功を収めた。1998年にポルシェでル・マン24時間レースを制した後、アウディのスポーツカープログラムの中心的存在となり、2008年と2013年にもル・マンで総合優勝を達成。3度のル・マンウイナーとなった。

    現役引退後もアウディとの関係を続け、フォーミュラEではチーム代表を経験。その後、アウディのF1プロジェクトに加わった。

    セナから学んだ哲学をアウディF1へ
    当初、マクニッシュはアウディのドライバー育成プログラムを率いる立場としてF1プロジェクトに参加していたが、2026年4月にはレーシングディレクターに就任した。

    現在はレース活動のオペレーションを担い、戦略、レース運営、ドライバーマネジメントを統括するとともに、引き続きドライバー育成プログラムも担当している。アウディの公式情報でも、その役割はチームのレース活動における運営面の責任者と位置づけられている。

    ドライバーとして見ていた「成功」と、チームを率いる立場で見る「成功」には違いがある。それでも、10代のころにセナから学んだ、細部まで突き詰める姿勢は変わらない。

    2026年からワークスチームとしてF1に参戦したアウディは、ニコ・ヒュルケンベルグとガブリエル・ボルトレトを擁して新時代に挑んでいる。マクニッシュ自身もシーズン前半のパフォーマンスについて予想以上だったとの評価を示しており、特に予選での競争力をポジティブな材料として挙げている。

    サマーブレイクを終えたF1は次戦オランダGPからシーズン後半戦へ入る。

    かつてセナの仕事ぶりから「才能だけでは限界がある」と学んだマクニッシュ。30年以上を経た現在、その教訓を生かす舞台はコックピットからピットウォールへと移り、アウディF1を成功へ導くための仕事に受け継がれている。

  • オリバー・ベアマン ハミルトン復調に複雑「僕のF1での将来には理想的ではない」

    オリバー・ベアマン ハミルトン復調に複雑「僕のF1での将来には理想的ではない」

    オリバー・ベアマンは、ルイス・ハミルトンが2026年のF1で復調を遂げたことについて、将来的なフェラーリ昇格を目指す自身にとっては「理想的ではない」と認めた。一方で、21歳という年齢を考えれば焦る必要はなく、現在所属するハースで経験を積むことにも大きな価値があると考えている。

    フェラーリ・ドライバー・アカデミー(FDA)出身のベアマンは、現在ハースでF1に参戦している。

    将来的なフェラーリのレギュラードライバー候補として以前から名前が挙がっているが、ハミルトンの復活によって、そのタイミングは遠のく可能性がある。

    ハミルトン復活を喜ぶ一方で「僕の将来には理想的ではない」
    ハミルトンは2025年、フェラーリ加入初年度に苦しいシーズンを過ごした。その状況から、ベアマンが早い段階で後任候補になるのではないかとの見方も強まっていた。

    しかし、2026年にF1のテクニカルレギュレーションが大きく変更されると、ハミルトンは競争力を取り戻した。バルセロナではフェラーリ加入後初となるグランプリ優勝を達成し、現在はアンドレア・キミ・アントネッリに次ぐドライバーズランキング2位につけている。

    ベアマンはF1公式ポッドキャスト『Beyond the Grid』で、ハミルトンの復活について次のように語った。

    「F1ファンとして、それに僕はルイスのファンでもあるから、彼が今のようなレベルで走っているのを見るのはすごくクールだ」

    「バルセロナで彼が表彰台の一番上に立つ姿を見られたのは、イギリスのF1にとってもかなり特別な瞬間だった。表彰台にはイギリス人が3人いて、僕たちがこれまで見てきたなかで最高のドライバーが1位だった。本当に特別なことだと思う」

    ただし、その活躍が自身のフェラーリ昇格という観点では歓迎すべき材料ばかりではないことも理解している。

    「もちろん、僕の将来という意味では理想的ではない。でも、僕はまだ若い。まだ21歳だし、それほど急いでいるわけじゃない」

    「当面ハースに残ることも、僕にとって悪いことではないと思っている。このチームで学べることはたくさんあるし、まだ達成できることもたくさんある」

    ベアマンにとって、ハースでの時間は単なるフェラーリ昇格までの待機期間ではない。F1ドライバーとして成長し、自身の価値を高める重要な過程でもある。

    2024年にフェラーリからF1デビュー
    ベアマンとフェラーリの関係は、育成ドライバーという枠だけにとどまらない。

    2024年F1サウジアラビアGPでは、虫垂炎によって欠場したカルロス・サインツJr.の代役として急きょフェラーリのマシンをドライブ。これがベアマンにとってF1デビューとなった。

    準備時間がほとんどない状況での参戦だったが、ベアマンはその機会を生かし、将来のフェラーリ候補として存在感を高めた。その後ハースでフル参戦を開始し、フェラーリとの関係を維持しながらF1で経験を積んでいる。

    現状では、2027年もハースで戦う可能性が高いとみられている。ハミルトンが2026年に復調していることを考えれば、フェラーリが短期的にドライバーラインアップを変更する必要性も薄れている。

    それでもベアマン自身の最終目標は変わっていない。

    オリバー・ベアマンとルイス・ハミルトン

    「目標はいつかフェラーリのドライバーになること」
    ベアマンは、いつの日かフェラーリのレギュラードライバーになることが自身の目標だと明言する。

    「僕の目標は、いつかフェラーリのドライバーになること。それは変わらない」

    ただし、フェラーリのシートが空くまで無期限に待ち続けるつもりもない。

    「もちろん、シートが空くのを3年、4年、5年と座って待ち続けたいわけではない。何の保証もないからね。それでは自分の一番いい時期を無駄にしてしまう可能性がある」

    その発言からは、フェラーリへの強い思いと同時に、F1ドライバーとして自らのキャリアを最優先する姿勢もうかがえる。

    「僕の究極の目標は、少し利己的かもしれないけど、それでいいと思っている。それが僕がここにいる理由だから。僕はワールドチャンピオンシップを争いたい」

    「だから、それがどこであっても、そのチャンスを得られるなら僕はつかむ」

    フェラーリだけを待つつもりはないベアマン
    ベアマンの発言で重要なのは、フェラーリ昇格への意欲を改めて示しながらも、それを唯一のキャリアパスとは考えていない点だ。

    ハミルトンが2025年の苦戦から立ち直り、2026年に優勝争いへ戻ったことで、ベアマンが近い将来フェラーリへ昇格するための空席は見えにくくなった。だが、21歳のベアマンにはまだ時間があり、ハースで経験を重ねること自体が将来の選択肢を広げることにつながる。

    フェラーリの赤いレーシングスーツを着てF1世界選手権を戦うことは今も最大の目標だ。しかし、数年間にわたってただその機会を待つのではなく、タイトルを争えるチャンスが別の場所に現れれば、それを選ぶ覚悟もある。

    ハミルトンの復活によってフェラーリへの最短ルートは狭まったかもしれない。それでもベアマンにとって最終的に重要なのは「フェラーリに乗ること」だけではなく、「F1ワールドチャンピオンを争うこと」である。

  • セルジオ・ペレス キャデラックF1に開発プロセス再考を要求「十分に進歩してない」

    セルジオ・ペレス キャデラックF1に開発プロセス再考を要求「十分に進歩してない」

    セルジオ・ペレスは、F1参戦初年度を戦うキャデラックについて、マシン開発のペースが十分ではないと率直に指摘し、チームに「すべてのプロセスを見直す必要がある」と訴えた。

    新規参戦チームとして一定の戦闘力を示してきたキャデラックだが、シーズンが進むにつれてライバルとの差を縮め切れない状況が続いている。

    レッドブル・レーシング時代にトップチームの開発競争を経験してきたペレスは、問題はマシンの潜在能力そのものではなく、それを素早くラップタイムへ結びつける開発体制にあるとみている。

    ペレス「すべてのプロセスを見直す必要がある」
    F1ではシーズン中の開発速度が勢力図を大きく左右する。開幕時点で一定の競争力があったとしても、アップデートの投入と改善を続けなければ、短期間でライバルに取り残される可能性がある。

    ペレスは、そこが現在のキャデラックに不足している部分だと語った。

    「僕たちにとって、開発はかなり難しくなっている。基本的に、十分な開発ができていないと思う」

    「だから、もっと力強く開発を進められるように、すべてのプロセスを見直す必要があるのは明らかだ。F1では開発がすべてだからね」

    「そこが僕たちに少し欠けているところだと思う。当然、新しいチームだから、おそらく自分たちが望んでいたほど開発を進められていない」

    ペレスの発言からは、単に新しいパーツが不足しているというより、設計、製造、評価、実戦投入までを含めた開発サイクル全体の効率を高める必要があるという認識がうかがえる。

    期待したほど縮まらなかったライバルとの差
    今季投入されたアップデートについて、もっと大きな前進を期待していたかと問われると、ペレスは率直に認めた。

    「もちろんだ。もっと差を縮めたかった」

    「僕たちは少し離されすぎている。ただ、良いことは、解決できればすぐにかなりのパフォーマンスを得られる部分が非常にはっきりしていることだ。そこはポジティブな点だね」

    つまり、キャデラックが抱えている問題について、チーム内では一定の原因特定が進んでいるということになる。

    これは重要なポイントだ。F1の開発では、単純に新しいパーツを投入するだけではなく、風洞やCFD、シミュレーターで得られた予測と実車の挙動を一致させ、その結果を次の開発へ正確に反映させることが求められる。

    ペレスの言葉を踏まえれば、キャデラックには改善余地の大きい領域が見えており、今後はそれをどれだけ迅速に実際のパフォーマンスへ変換できるかが焦点になる。

    セルジオ・ペレス(キャデラックF1チーム)

    ブコウスキー新代表が開発体制を変えられるか
    こうしたペレスの指摘が出たタイミングで、キャデラックはチーム運営の大きな転換期を迎えている。

    グレアム・ロードンに代わってチーム代表に就任したのが、元アルピーヌのエグゼクティブディレクターであるマルチン・ブコウスキーだ。

    ブコウスキーはF1チーム運営だけでなく、エンジニアリング面にも精通している。キャデラックにとって、その経験は単なる組織管理以上の意味を持つ可能性がある。

    新代表は就任にあたり、チーム内に勝つためのメンタリティを築いていく意向を示している。ただし、キャデラックが順位を上げるためには精神面だけでなく、ペレスが問題視した開発プロセスそのものに手を入れる必要がある。

    特に新規参戦チームでは、既存のF1チームと比べて部門間の連携や意思決定、パーツ製造からサーキット投入までの流れを成熟させるのに時間を要する。設備や人材を揃えるだけではなく、それらをひとつの開発組織として効率的に機能させることが次の段階となる。

    参戦できるチームから上位を争えるチームへ
    キャデラックはF1参戦初年度ながら、グリッドに加わるだけの基盤を築いている。一方で、ペレスが求めているのはその次の段階だ。

    シーズン中に問題を特定し、解決策を設計し、それを短期間でマシンへ反映してタイムを縮める。この開発サイクルを安定して回せるかどうかが、今後のキャデラックの競争力を決める。

    レッドブル・レーシングでタイトル争いを経験したペレスだからこそ、トップレベルのF1チームに求められる開発速度との差は明確に見えているはずだ。

    ブコウスキー体制で開発の進め方そのものを改善し、現在見えている課題を実際のラップタイムへと変換できるか。キャデラックにとって今後の焦点は、参戦初年度に築いた土台を、継続的に順位を上げられる開発力へと進化させることになる。

  • ルイス・ハミルトン F1グラウンドエフェクト時代の苦戦説に反論「大半より勝った」

    ルイス・ハミルトン F1グラウンドエフェクト時代の苦戦説に反論「大半より勝った」

    ルイス・ハミルトンは、F1のグラウンドエフェクト時代のマシンに適応できなかったとの見方に反論した。2026年に復調を遂げている7度のF1ワールドチャンピオンは、2022年から2025年までの成績について「それでも大半のドライバーより多く勝っていた」と強調している。

    2014年からF1を席巻したハミルトンは、7年間で6度のドライバーズタイトルを獲得。その圧倒的な時代は、2021年にレッドブル・レーシングのマックス・フェルスタッペンにタイトルを奪われたことで終わりを迎えた。

    2021年の激しいタイトル争いを経て、ハミルトンが2022年にF1へ戻るかどうかは一時不透明だった。そして実際にコックピットへ戻ると、それまでと比べて成績は明らかに低下した。

    その一因として前年のタイトル争いによる影響も考えられたが、最大の問題はメルセデス側にあった。チームが採用した独特なゼロサイドポッド・コンセプトは、風洞で示されていたレベルのダウンフォースを実際のコース上で生み出すことができなかった。

    グラウンドエフェクト時代の4年間で2勝
    その後、メルセデスがマシンを改善していっても、ハミルトンは安定したパフォーマンスを取り戻すことができなかった。

    2025年にフェラーリへ移籍すると、新たなチームメイトとなったシャルル・ルクレールに大きく後れを取った。ルクレールが7度の表彰台を獲得した一方、ハミルトンは一度も表彰台に立つことができなかった。

    2022年から2025年までのグラウンドエフェクト時代を通じても、ハミルトンが挙げた勝利は2勝にとどまった。

    しかし、2026年にF1マシンのレギュレーションが一新されると状況は変化した。より軽量で機敏になった新世代マシンでハミルトンは復調し、現在はフェラーリ勢をリードするパフォーマンスを見せている。

    「以前の世代のマシンに少し近い感覚でドライブできる」とハミルトンは語った。

    「前の世代のマシンで勝ったレースでも、僕は今とまったく同じようにドライブしていた。だから、あの世代のマシンは僕に合っていなかったという話がいろいろあるけど、それでもあの期間に、おそらく大半のドライバーより多くのレースで勝っている」

    ルイス・ハミルトン(スクーデリア・フェラーリ)

    「今のマシンは少し扱いやすく寛容」
    ハミルトンは、2026年型マシンでは軽量化やバウンシングの解消によって扱いやすさが増した一方、パワーユニットのエネルギー展開という新たな難しさが加わったと説明する。

    「今のマシンは少し扱いやすくて、より寛容だし、軽くなっている。それにバウンシングもない」

    「ただ、スロットルやパワーの使い方にはかなり取り組む必要がある。それをエンジニアと一緒に調整していく必要があって、またひとつ別の要素が加わっている」

    2026年のF1では、ドライバーのスロットル操作がエネルギー展開にも大きな影響を与える。ハミルトンは、これまで以上に細かなスロットル操作とエネルギーマネジメントへの理解が重要になっていると語った。

    「以前は純粋にドライバビリティの問題だった。でも今は、ドライバビリティがエネルギーをどこで展開するかにも関係していて、それを常に変えている」

    「実際、ハーフスロットルにしたり、スロットルを戻したり、踏み直したり、10%だけ戻したりすることで、ラップを通じたエネルギー展開が変わる。だから、それを理解することは以前よりさらに重要になっている」

    グラウンドエフェクト時代にメルセデスとフェラーリで苦戦したことで、その特性がハミルトンのドライビングスタイルに合わなかったとの評価も根強い。しかし本人は、その見方を否定。2026年の復調についても自身のドライビングを大きく変えた結果ではなく、軽量で寛容になった新世代F1マシンの特性が影響しているとの考えを示した。

  • アービッド・リンドブラッド F1で叶えた幼少期の夢「5歳の自分のために走っている」

    アービッド・リンドブラッド F1で叶えた幼少期の夢「5歳の自分のために走っている」

    アービッド・リンドブラッドは、F1デビューからわずか半年ながら、すでにその存在感を示している。

    18歳の英国人ドライバーは、王者経験者たちとコース上で渡り合い、たびたびQ3へ進出。着実にポイントを積み重ね、レーシングブルズをコンストラクターズランキング5位へ押し上げる原動力のひとつとなっている。

    F1.comのインタビューで、リンドブラッドはルーキーシーズン前半を振り返り、F1という夢の舞台で走る喜び、プレッシャーとの向き合い方、チームとの関係構築、そして後半戦への思いを語った。その根底にあるのは「5歳の自分のために走っている」というシンプルな気持ちだ。

    「夢」が現実になったF1デビュー
    2021年、イタリアで行われたカートイベントで、当時のリンドブラッドはランド・ノリスのもとへ駆け寄り、こう宣言していた。

    「僕のことを覚えておいて。5年後に会おう」

    それから5年。リンドブラッドはF4、F3、F2で勝利を重ね、フォーミュラ・リージョナルではタイトルを獲得。そして2026年、ノリスと同じF1グリッドに並ぶという言葉を現実のものにした。

    レッドブルのジュニアプログラムからレーシングブルズへ昇格したリンドブラッドは、開幕戦オーストラリアGPから強烈な印象を残した。予選でQ3に進出すると、決勝ではスタート直後に一時表彰台圏内まで浮上し、最終的に8位でチェッカーを受けた。

    その後も7回のQ3進出を果たし、モナコGPからハンガリーGPまでは6戦連続でポイントを獲得。F1マシンへの適応力と安定感を示している。

    「間違いなく、想像していた以上だよ」とリンドブラッドはシーズン前半について語る。

    「こんな短い期間なのに、すでに素晴らしい瞬間がたくさんあった。チームは本当に素晴らしくて、すごく温かく迎えてくれたし、僕が早く慣れるために本当に助けてくれた」

    「これまでも何度も言っているけど、今年は自分の夢を生きているんだ。ずっと実現してほしいと願っていたことだから、本当に楽しいし、特別だよ」

    なかでも忘れられないのが、F1デビュー戦となったメルボルンだ。

    「やっぱりメルボルンが一番特別だった。初めてのグランプリだったし、週末全体の流れも含めてね。レース前には少し感情的になった」

    上海や鈴鹿でも、子どものころにゲームで走ったコースを本物のF1マシンで走っているという事実に感動したという。

    「上海や鈴鹿みたいに、僕にとって新しいサーキットでは、走りながら『これは本当にすごい。F1ゲームで何度も走った場所を、今は本物で走っているんだ』と思った。実際のコースはF1ゲームよりずっと狭いけどね!」

    そして母国イギリスGPも特別な瞬間になった。

    「次に本当に感傷的になったのはシルバーストンだった。家であのレースを何度もテレビで見てきたからね。グリッドに立って、自分がそのレースの一部になっていると気づいて、『うわ、本当に起きているんだ』と思った」

    憧れのハミルトンとF1で直接対決
    オーストラリアGPでは、リンドブラッドは序盤からノリスやルイス・ハミルトンらトップドライバーと争った。

    特にハミルトンは、幼少期のリンドブラッドが応援していた存在だった。

    「去年、シルバーストンでレッドブルから初めてFP1に出たときのことを覚えている。クールダウンラップを走っていたら、エンジニアから『後ろからハミルトンがプッシュしている』と言われたんだ」

    「初めてその言葉を聞いたとき、『これはかなりすごいな』と思った」

    そして2026年のメルボルンでは、憧れのドライバーと同じ舞台で競うところまでたどり着いた。

    「メルボルンでルイスと同じコースを走って、サイド・バイ・サイドでレースをした。週末前の記者会見でも隣に座って、話をすることができた」

    「彼は僕が子どものころに憧れていた人で、一番応援していたドライバーだった。だから、5歳の自分にとって本当に特別なことなんだ」

    「誰かのためではない。5歳の自分のため」
    F1では、ドライバーの一挙手一投足が世界中から注目される。特にレッドブルの育成プログラムを経てF1へ進んだ若手には、大きな期待がつきまとう。

    しかし、リンドブラッドはそれを「プレッシャー」とは捉えていない。

    「正直に言えば、うまく対処できていると思う。もちろん緊張するよ。みんな緊張するものだと思う。うまくやりたいと思っていて、それが自分の大好きなことなら、始まる前に少し緊張することはある」

    「でも、それをプレッシャーとは呼ばないかな。そういう緊張の多くは自分の内側から来るものだと思っている」

    特別なメンタルトレーニングを積んできたわけでもないという。

    「僕はこれまで、どのカテゴリーでも外からのプレッシャーをあまり感じたことがない。今年もそれは変わっていない」

    その理由を説明する際、再び「5歳の自分」という言葉が登場する。

    「僕は5歳のころからF1に出ることを夢見ていた。カートからカテゴリーを上がっていくなかで、そのとき、そのときに集中して学んできたけど、頭の中心にはずっとF1があった」

    「今年は、最初にその夢を持った5歳の自分のためにやっている。ソファで初めてF1を見ていたときや、シルバーストンのマゴッツとベケッツでF1を見ていたころの自分だ。それを覚えている」

    「ここまで助けてくれたすべての人には本当に感謝している。でも、誰かに借りを返すためにやっているわけじゃない。誰かのためにやっているわけでもない。5歳の自分のためにやっている。だから、あまりプレッシャーを感じないんだ」

    F1で直面した「ドライビング以外」の難しさ
    もちろん、F1参戦初年度だけに学ぶべきことは多い。

    ドライビング面では、2026年から導入された新世代パワーユニット、とりわけバッテリーを含めたエネルギーマネジメントが課題のひとつだという。

    「純粋なドライビングという意味では、理解はしているけど、まだ完全には習得できていないのがエンジンだと思う。バッテリーを含めて最大限に引き出す方法だね。少し違ったテクニックが必要になる」

    一方、それ以上に大きな変化だったのがチーム規模だ。

    「マシンの外では、チームとの仕事の仕方がまったく違う。F2やF3では部屋にエンジニアが4人か5人くらいだったけど、今はサーキットに30人いて、さらにオフィスには500人いる。まったく違うダイナミクスなんだ」

    少人数のチームなら率直に要求できたことでも、F1では言葉ひとつが多くのスタッフへ伝わる。

    「悪いセッションのあとにエンジニアへ『ここを改善してほしい、あそこも改善してほしい』と言うとする。部屋に数人しかいなければ問題ないけど、大勢が聞いているとなれば、また違うスキルが必要になる」

    「どうすれば人から最大限を引き出せるか、人間関係をどう理解するかということだ。それは簡単じゃなかった」

    「単に仕事だから僕のために働くのではなく、僕のために働きたいと思ってもらえるようにする。それが一番大きく学ばなければならなかったスキルだと思う」

    ローソンとの健全なライバル関係
    チームメイトのリアム・ローソンとの関係も、ルーキーイヤーを支える重要な要素になっている。

    両者は予選でも決勝でも接近したパフォーマンスを見せ、お互いを押し上げながらレーシングブルズの競争力向上につなげてきた。

    「正直、僕たちはいい関係だと思う。オンとオフをうまく切り替えられるような関係を、一緒に築けていると思う」

    「コース上ではお互いに相手を倒したい。それがスポーツだからね。でもマシンを降りれば、本当にいい関係だし、チームのなかにもいい雰囲気がある。それが楽しくしてくれている」

    「僕たちはお互いをかなりプッシュしているし、それは2人にとっていいことだと思う。チームにとってもそうだ。お互いにプッシュすればするほどパフォーマンスを引き出せるし、それが結果にも表れている」

    マシン開発を進めてきたチームの働きも評価している。

    「チームはマシンにパフォーマンスをもたらし続けるために素晴らしい仕事をしてくれた。それが最近の数戦で僕たちが競争力を発揮できている理由だ。でも、僕とリアムが毎週末お互いをプッシュしていることも、その助けになっていると思う」

    アービッド・リンドブラッド(ビザ・キャッシュアップ・RB・フォーミュラワン・チーム)

    F1を忘れる時間はファッションとスケートボード
    ハンガリーGPではレーシングブルズが今季5度目のダブル入賞を果たし、アルピーヌを抜いてコンストラクターズランキング5位へ浮上した。

    夏休みに入ったリンドブラッドにとって、F1から離れる時間も重要だ。

    「僕にとってスイッチを切るということには、サーキットにいるときと、サーキットから離れているときの2種類がある」

    F1の週末は朝から夜まで長時間に及ぶ。実際にマシンを運転する時間は限られていても、ミーティングやメディア対応などが続くため、意識的に休む時間を作っている。

    「朝9時30分に来て、夜7時に帰る。1日に運転するのは2時間だけだけど、サーキットにいる時間は長い。普通の仕事なら9時から5時だからね。ちゃんとスイッチを切れるようにしないと、本当に消耗してしまう」

    サーキットを離れたときに楽しんでいるのが、ファッションとスケートボードだ。

    「ファッションとスケートボードは結構好きだね。スケートボードは本当に別物で、まったく違う世界なんだ」

    「レッドブルではスケートボードがカルチャーの大きな一部になっているから、僕はすごく恵まれている。住んでいるところからそれほど遠くない場所にいるレッドブルのアスリートとも何人か知り合った。友達と呼べる人も何人かできて、それが楽しくしてくれている」

    「完全にレースのことを忘れられる。そういう時間が必要なときもあるんだ」

    ただし腕前について聞かれると、笑いながらこう答えた。

    「全然うまくないよ! オーリーはできるけど、キックフリップを覚えたい。今年の終わりにパドックでキックフリップができたら最高だと思う」

    後半戦も「一戦ずつ」
    夏休み明けのオランダGPから、リンドブラッドのF1ルーキーシーズン後半戦が始まる。

    シンガポールや、バーレーンGPの代替開催地となるマレーシアのセパン・インターナショナル・サーキットなど、初めて経験する舞台も待っている。

    「まずはすごく楽しみだね。子どものころにF1ゲームでこういうコースを全部走っていたから、実際に経験できるのが楽しみだ」

    「F1で使われるサーキットの大半は毎年同じで、新しく加わるとしても1つか2つくらいだ。新しいコースを初めて走れる機会は一度しかない。だから、その瞬間をしっかり味わって、初めて走る経験を楽しみたい」

    特にシンガポールは完全な未知の世界だ。

    「シンガポールは走ったことがない。そもそもシンガポールに行ったことすらないんだ! 暑さと湿度でかなり厳しいレースになるのは分かっているから、レースが近づいたら暑さに特化したトレーニングを増やしていくつもりだ」

    2026年からスペインGPの舞台となるマドリードの新市街地コース「MADRING」についても期待を寄せる。

    「カルロス(サインツJr.)のラップは見たけど、まだ全部をちゃんと見たわけじゃない。近いうちにシミュレーターに入ると思うから、そこで何周か走ってみる」

    「素晴らしいイベントになると思う。マドリードの大学に通っている友達がいて、すごく楽しい街で、雰囲気もすごくいいと言っている。最初のレースだから、大きなイベントになるはずだ」

    では、好調な前半戦を終えた今、後半戦に具体的な目標を設定しているのか。

    リンドブラッドの答えは、これまでと変わらない。

    「今のところ、まだ一戦ずつということに集中している。これまでやってきたように、それぞれの週末を個別に考えて、自分自身に集中して、できる限り最高の仕事をすることだけを考えている」

    「僕はもともと、あまり先を見るタイプじゃない。今この瞬間に集中しているときが、一番いいパフォーマンスを発揮できるといつも感じている。マシンに乗るたびに最大限を引き出すことだけを考えているんだ」

    「今年、その考え方を変えるつもりはない」

    F1という夢を実現した18歳は、その先にあるものを急いで見ようとはしていない。幼いころに憧れた舞台で一戦、一戦を最大限に楽しみながら結果を積み重ねる。それが「5歳の自分」のために走るリンドブラッドが、F1ルーキーイヤー後半戦でも貫こうとしているスタンスだ。

  • アイザック・ハジャー F1オランダGPで特別ヘルメット 昨年の初表彰台を祝福

    アイザック・ハジャー F1オランダGPで特別ヘルメット 昨年の初表彰台を祝福

    アイザック・ハジャーは、2026年F1オランダGPで特別デザインのヘルメットを着用する。昨年のザントフォールトで自身初のF1表彰台を獲得した思い出を記念したものだ。

    ハジャーは2025年のオランダGPで予選4番手につけ、決勝ではレーシングブルズから3位でフィニッシュ。F1キャリアにおける大きな転機となったザントフォールトに、今年は特別なヘルメットとともに戻る。

    ハジャーにとって特別なザントフォールト
    2025年のオランダGPでハジャーは予選から速さを示し、4番グリッドを獲得。決勝でもそのポジションを生かして3位に入り、F1で初めて表彰台に立った。

    当時レーシングブルズから参戦していたハジャーにとって、この結果はF1での評価を大きく高めるものとなった。今回用意されたスペシャルヘルメットには、その記憶を祝う意味が込められている。

    ハジャーは今週末のザントフォールトで、この特別仕様のヘルメットを使用する。

    アイザック・ハジャー(レッドブル・レーシング) オランダグランプリ

    公式記録では今も唯一のF1表彰台
    ハジャーは2026年のモナコGPでも一度は表彰台に立ったものの、公式記録上は昨年のオランダGPが現在も唯一のF1表彰台となっている。

    モナコではピエール・ガスリーに科されていた2つのペナルティが後に取り消され、その影響でハジャーの最終順位も変更された。ただし、この判断については現在も控訴の対象となっている。

    そのため、正式な記録として残るザントフォールトでの3位は、ハジャーにとって今も特別な意味を持つ結果だ。

    フェルスタッペンも特別ヘルメットを用意
    今週末のオランダGPでは、ハジャーのチームメイトで地元オランダ出身のマックス・フェルスタッペンもスペシャルヘルメットを用意している。

    フェルスタッペンにとってザントフォールトは母国戦。一方のハジャーにとっては、自身のF1キャリアを象徴する初表彰台の舞台となった。

    異なる理由ながら、それぞれ強い思い入れを持つ2人が特別仕様のヘルメットでザントフォールトに臨むことになる。