アレックス・パロウが、インディカーの歴史に新たな記録を刻んだ。
2026年NTTインディカー・シリーズで自身5度目のチャンピオンを獲得し、アレックス・パロウは29歳で史上最年少の5冠王となった。しかも、チップ・ガナッシ・レーシング(CGR)加入後の6シーズンで5度のタイトルという驚異的なペースである。
だが、パロウに立ち止まるつもりはない。ミルウォーキー・マイルでタイトルを決めた直後、チームオーナーのチップ・ガナッシに伝えた言葉は「もう一度やろう」だった。すでに視線は6冠目、そしてその先へ向けられている。
29歳で5冠 インディカー史上最速のタイトル量産
パロウは2021年にCGRへ加入し、No.10 DHLホンダを駆って初めてインディカー王者に輝いた。それから6年間で獲得したタイトルは5つ。29歳で5度のシリーズチャンピオンとなったのは史上最年少であり、5冠到達までの期間も史上最短となった。
さらに直近4シーズンはすべてパロウが王座を獲得。4年連続タイトルは、セバスチャン・ブルデーに並ぶシリーズ史上最長記録である。
通算タイトル数では、7冠のA.J.フォイト、6冠のスコット・ディクソンに次ぐ歴代3位。しかもパロウはまだ29歳だ。
CGR加入後の成績も圧倒的で、25勝、インディ500優勝、19回のポールポジションを記録している。
それほどの成功を重ねながらも、パロウ自身はいまだに現在の状況を信じられないことがあるという。
「まず、自分がインディカーのドライバーになるなんて思ってもいなかった。ここまで来られるとも思っていなかったし、プロのレーシングドライバーになれるチャンスがあるとも思っていなかった。それが僕の夢だった」
「インディカーのドライバーになるチャンスを得た時点で、僕にとってはすでに大きな成果だった。夢を生きていたんだ。そしてチップが、チャンピオンを獲得できるチームで走るチャンスを与えてくれた。2020年にはスコットがタイトルを獲得したばかりだったから、本当に信じられなかった」
「それ以来、ずっと信じられないような雲の上にいる感覚で、すべてが本当にうまくいっている。これがいつまで続くのかは分からない。あと1年なのか、10年なのか、15年なのか、5年なのか。僕たちがいつまでトップにいられるのかは分からない。でも、このチーム、このマシンと過ごす毎日を楽しんでいる」
タイトル決定直後に「もう一度やろう」
パロウの5度目のタイトルを祝う時間が始まったばかりの段階で、本人はすでに次の王座について口にしていた。
ガナッシは、パロウを祝福した際のやり取りを明かしている。
「もう一度やりたいと誰よりも思っているのはドライバー本人だ。彼はまたやりたいと思っている。私が祝福したとき、彼が最初に言ったのは『もう一度やろう』だった」
今回のタイトルによって、ガナッシ自身もインディカーで史上最多となる18度目のシリーズタイトルを手にした。
パロウは今季途中にCGRとの複数年契約延長にも合意しており、チームとの関係は今後も続く。そのため、焦点は単に「次のタイトル」だけではなく、歴代記録をどこまで塗り替えられるかへと移りつつある。
モータースポーツの「7冠」そして8冠の可能性
モータースポーツにおいて「7」は特別な数字だ。
F1ではミハエル・シューマッハ、インディカーではA.J.フォイト、NASCARではリチャード・ペティ、デイル・アーンハート、ジミー・ジョンソンが7度の最高峰タイトルを獲得している。
パロウはすでに5冠。あと2度タイトルを獲得すれば、フォイトが持つインディカー最多7冠に並ぶ。
さらにガナッシは、その先の「8冠」さえ現実的な可能性として否定していない。
「もちろんだ。そう信じない方がおかしい。少なくとも私は、それに逆らって賭けたいとは思わない」
「ラスベガスでどんなオッズになるのかは知らないが、私は反対側には賭けたくない。実現する可能性はある。間違いなく実現し得る」
33戦連続で崩れない驚異的な安定感
パロウとNo.10チームが記録更新を期待される最大の理由は、単純な速さだけではない。シーズンを通じて大きく崩れない圧倒的な安定感にある。
CGRとパロウが支配的な強さを見せた直近2シーズン、33レースを通じてトップ10圏外が2戦連続したことは一度もない。
ワシントンD.C.では20位に終わったが、その翌戦となったミルウォーキーのダブルヘッダーでは5位と10位。すぐに本来の安定した成績へ戻した。
しかもワシントンD.C.での20位以下という結果は、この2年間でわずか3度目だった。それ以前の5戦では2勝を挙げ、残る3戦もすべてトップ5に入っていた。
ミルウォーキーを迎えた時点で、5冠達成は「できるかどうか」ではなく「いつ決まるか」という状況だった。
パロウはミルウォーキー終了時点でクリスチャン・ルンガードに100ポイント差をつけ、ラグナ・セカでの最終戦を残してタイトルを確定。これで4年連続してシーズン最終戦を待たずに王座を決めたことになる。

オワード「パドック全員の頭の中に住みついている」
その圧倒的な存在感はライバルも認めている。
ミルウォーキーの日曜日に行われた2レースをともに制したパト・オワードは、パロウについてこう表現した。
「彼はパドックのみんなの頭の中に家賃なしで住みついているよ」
「彼とガナッシが基準を引き上げた。あの10号車は信じられないくらい強い。うらやましいよ。いつか僕たちもそこへたどり着く」
パロウの存在は、単にポイントランキングで首位にいるというだけではなく、ライバルたちが常に意識せざるを得ない基準になっている。
ガナッシ「我々は世代を代表するドライバーを目撃している」
ガナッシは、パロウの強さにはCGRで過去にタイトルを獲得してきた名手たちと共通するものがあると語る。
ジミー・バッサー、アレックス・ザナルディ、ファン・パブロ・モントーヤ、ダリオ・フランキッティ、スコット・ディクソン。CGRはこれまで数々のチャンピオンを生み出してきた。
「私はこういうドライバーたちの目を見てきた。彼らには強い欲求がある。優れたビジョンがあり、成功しようとする強烈な意志がある。それがいつも目に表れている。アレックスにもそれがある。これまで我々が迎えてきたすべてのチャンピオンに共通するものだ。ある種の輝きがある」
CGRが4年連続タイトルを達成するのは今回が3度目だ。しかし、過去2回は複数のドライバーによって成し遂げられたのに対し、今回はパロウひとりが4連覇を達成した。
そしてガナッシが特に重視しているのが、「6年間で5冠」という数字だ。
「我々はいま、世代を代表するような出来事の真っただ中にいる。世代を代表するドライバーだ。4連覇は過去にもあった。しかし6年間で5冠というのはこれまでなかった。それは前例のないことだ」
「我々はいま、その真っただ中にいる。そして、まだ終わっていない」
29歳で5冠に到達したパロウは、すでにインディカー史に残る存在となった。それでも本人がタイトル決定直後に発したのは過去を振り返る言葉ではなく、「もう一度やろう」という次への意思だった。フォイトの7冠、そしてガナッシが可能性を認める前人未到の8冠へ――パロウがどこまで記録を伸ばすのかが、今後のインディカーにおける大きな焦点となる。
