ハースF1で8シーズンにわたってチーム代表を務めた61歳のギュンター・シュタイナーは、MotoGPのTech3ではまったく異なるマネジメントスタイルを採用している。チームのオーナー兼代表となった現在、レース現場の日常業務には深く介入せず、戦略や商業面、ライダー契約といった大きな意思決定に重点を置いている。
シュタイナーは、ハースF1時代のように組織のあらゆる領域を自ら管理する考えはないと明言する。
Tech3にはすでに優れたレース運営体制があり、そこに自身が入り込むよりも、F1で培った経験や人脈をチームの成長に生かすことが重要だと考えている。
ハースF1とは異なるシュタイナーの役割
ギュンター・シュタイナーはF1で広く知られるようになる以前、ラリーの世界でキャリアを築いた。マツダ、プロドライブ、Mスポーツなどを経て、F1ではジャガー・レーシング、レッドブルに所属。その後、ハースのF1参戦プロジェクトを率い、2016年のデビューから2023年末までチーム代表を務めた。
ハースではチーム運営のほぼすべてに関与していたが、ジーン・ハースとの将来方針を巡る意見の相違もあり、2023年シーズン終了後にチームを離れた。
その後、シュタイナーは新たな舞台としてMotoGPを選択した。2025年9月、シュタイナーが率いるコンソーシアムがTech3 KTMを買収。1990年にギ・クーロン、ベルナール・マルティニャックとともにチームを創設し、35年間にわたって率いてきたエルベ・ポンシャラルの時代に終止符が打たれた。
MotoGPへの直接的な関与はシュタイナーにとって初めてだが、その役割はハースF1時代とは大きく異なっている。
「少し違う。結局のところ、以前ほかの仕事をしていたときは、それが私の唯一の仕事だった。だが、今はいろいろなこともやっている」
最大の違いは、レースチームの日常的な運営から距離を置いていることだ。
「今のところ、今年と来年については、私はもう少し後ろにいるつもりだ。技術的に見れば、ここは非常に優れたレーシングチームだからね。彼らは本当に優秀だ。私を必要としていない」
「レースをするということに関して言えば、彼らのほうが私よりいい仕事をする。だから、そこに私が入る必要はない」
レース現場は専門家に任せる
ハースF1時代のシュタイナーは、技術部門からレース運営、人事、商業面まで幅広い領域に関与していた。一方、Tech3では現場の指揮をニコラ・ゴヨンに任せている。
「ここでは中間レベルまで、ニコがレーシングチームを運営している。当然、私も何が起きているのかは把握しているが、メカニックやエンジニアについて私が決めることはない。それを管理するのは彼の仕事であって、私の仕事ではない」
シュタイナーが重点を置くのは、チームの将来を左右する、より大きな判断だ。
「私がやろうとしているのは、商業面でチームを助けることだ。それから、ライダーに関することのような大きな決断についても手助けしている」
特にライダー選定については、自ら積極的に関与する意向を示している。
「そこにはかなり関わっている。私自身がそうしたいからだ。ただ、F1チームにいたころとは違う。あのときは上から下まで、すべてを管理していた」
Tech3では既存のレース運営組織を尊重し、自身の経験がより大きな効果を生む分野に集中する。シュタイナーにとって、それがハースF1時代との最大の違いとなっている。
Liberty Media時代のMotoGPでF1経験を生かす
シュタイナーがTech3で特に価値を発揮できると考えているのが、契約や商業面だ。MotoGPはLiberty Mediaの参入によって大きな転換期を迎えており、シュタイナーはF1がLiberty Media傘下で変化していった過程を経験している。
「契約については私が担当している。この業界、MotoGP全体が変化していると思っているからだ。そこでは私が役に立てると思う。以前、別のカテゴリーでLibertyが入ってきたときに同じようなことを経験しているからね」
F1ではLiberty Mediaによる商業権取得後、デジタル戦略やファンへのアプローチ、スポンサーシップなどさまざまな領域で変革が進んだ。シュタイナーは、その環境で築いたネットワークもTech3の武器になると考えている。
「私は多くの人を知っているし、多くの人が私のことを知っている。それはチームにとって助けになる。チーム全体をもっと大きく、より良いものにしていくためにね」
つまりシュタイナーがTech3にもたらそうとしているのは、F1チーム代表時代の管理手法そのものではない。むしろF1で得た商業的な経験、人脈、契約交渉のノウハウをMotoGPの新しい環境に持ち込むことが狙いだ。
Tech3は2027年に向けライダー陣刷新へ
Tech3は今後もKTMのサテライトチームとして活動し、複数年契約によって2027年に導入されるMotoGPの新テクニカルレギュレーションにも対応していく。
一方で、ライダーラインアップは大きく変わる可能性が高い。
現在Tech3で走るエネア・バスティアニーニとマーベリック・ビニャーレスは、ともに2026年限りでチームを離れる見通しとなっている。
バスティアニーニはトラックハウス・アプリリアへ移籍し、小椋藍の後任になるとみられている。一方、小椋藍はヤマハへ移籍する見通しだ。
ビニャーレスについてはMotoGPから離れる可能性が浮上している。本人によればKTMから一度は契約を提示されたものの、そのオファーは短期間で撤回されたという。
こうした状況から、シュタイナーとTech3はすでに2027年の新たなライダーラインアップ構築に動いている。Moto2のセナ・アギウスにチャンスを与える可能性があるほか、ホンダを離れるとみられるルカ・マリーニも候補に挙がっている。
ハースF1ではチーム代表として組織全体を直接動かしてきたシュタイナーだが、Tech3ではその経験をそのまま再現するつもりはない。レース運営はMotoGPを熟知するスタッフに任せ、自身は契約、商業戦略、ライダー選定などチームの将来を左右する領域を担う。61歳で新たなカテゴリーに挑むシュタイナーは、F1時代とは異なる立場からTech3の成長を支えようとしている。















